#24 最後のピース
「…なんとか無事に終わったわね!」
アンチ・ジャスティス・ギルド結成後のクロウ・ネスト。
ルナが俺に声をかけてきた。
ヴィランたちは今、クロウ・ネスト内に作った特殊な独房に隔離している。
この場にいるのは、俺とルナ、ホログラム状態のイブだけだ。
「危惧していたヴィランたちの反抗も、カイト様が考案したブレスレットのおかげで防止できましたね」
「あぁ。“復讐”に囚われて、危険なヴィラン共を野放しにするわけにはいかないからな」
イブにこう答えつつも、俺の下で働くからには、あいつらを全力でバックアップするつもりだ。
例え外道に対抗するためだとしても、自分まで外道になってはいけない。
「…とにかく、これでチームは結成できた。次はいよいよ、ジャスティス・ギルドへの挑戦が始まるってわけね!」
「あぁ。俺の“頭脳”、そして、ヴィランの能力を活かして、ジャスティス・ギルドの連中を一人ずつ追いつめる。“ラスボス”は…もちろん、スーパーノヴァだ」
『自分たちこそが世界最強』─そう考えるスーパーノヴァの周りから、一人ずつヒーローが消えていく。
自分が狙われていると知っても、やつはなにもできない。
そうして最後の1人になったとき、やつの前に姿を現し、“種明かし”をするのだ。
無能だと見下していた、スーパーパワーを持たない“常人”が、“超人”を追い詰めたという事実を。
だが…
「…そのために、もう1つ必要なピースを集めなきゃならない」
「えっ?アンチ・ジャスティス・ギルドは結成したけど、まだなにか足りないってこと?」
「“保険”だ」
自分の作戦に絶対の自信を持っていても、万が一のための秘密兵器を用意しておく。
ヒーローとは、そういうものだ。
「俺たちが探すのは…スーパーノヴァの“妹”だ」
「…妹!?なにそれ…そんなキャラがいるなんて、私知らないんだけど!」
“ヒーローオタク”として、だいぶ驚いているようだな。
まぁ俺も、“妹”という言い方が正確かどうかはわからないが。
「【ドクター・ジーク】は知ってるな?」
「それは常識よ!前にも話した気がするし。悪の天才科学者、スーパーノヴァの宿敵でしょ?」
間髪入れずに答えて、胸を張る。
さすがオタク。
「じゃあ、それ以外に知ってることはあるか?」
「…さぁ、噂だと、スキンヘッドってことくらいしか」
さっきまでの威勢が消えたな。
「…だって、しょうがないじゃない!いつも姿を現さない“黒幕”、謎に包まれたヴィランなんだもん」
「そう拗ねるな。だから俺も、正体を突き止めるべきだと思ったんだ」
話しながら、メインコンピューターの操作を始める。
「そして…実際に突き止めた」
「…えっ!?」
「財力と“頭脳”が、俺のパワーだからな」
「でも、正体が判明したなんて初耳よ?ジャスティス・ギルドが発表したわけでもないし…」
「やつの正体がわかったのは、俺がギルドを追放される直前だ。ゴタゴタのせいで、そのまま、誰にも言う機会がなかった」
モニターを操作し…これだ、映し出す。
超高層ビルの画像と…スーツを着た、スキンヘッドのビジネスマン風の男。
「…【エゼキエル・コーポレーション?】よく聞く名前の会社だけど…」
「エゼキエル・コーポレーションは、メテオシティの隣町【メガ・ポリス】を拠点とする、クライ産業に次ぐ世界第2位の企業です。画像の人物は、社長のエゼキエル・ザンダー。基本的に、クライ産業とはライバル同士ですが、ビジネス雑誌の企画で、カイト様と社長対談を行ったこともあります」
モニターを見たルナに、イブが解説した。
「結論から言おう。こいつが、ドクター・ジークだ」
「そんなあっさり!?」
「…調べるのには苦労したんだぞ。証拠もちゃんとある」
かつてドクター・ジークは、【サイボーグ・スーパーノヴァ】というヴィランを、ジャスティス・ギルドに差し向けたことがある。
その名の通り、スーパーノヴァとまったく同じ能力を持つサイボーグだ。
だが、その能力にもかかわらず…やつはジャスティス・ギルドに敗北し、残骸は今、ギルド基地の地下倉庫に保管されている。
「俺はその残骸を分析し…突き止めたんだ。エゼキエル・コーポレーションが独占している技術が使われていることを」
「…つまり、カイトが社長ヒーローなら、エゼキエル・ザンダーは社長ヴィランってこと?」
「そういうことだ。ドクター・ジークは、スーパーノヴァを目の敵にしている。サイボーグスーパーノヴァが敗北して、やつは考えた。“サイボーグではなく、自分の頭で考えられるクローンを作ったらどうか”と」
「クローン…スーパーノヴァの妹って、そういう意味ね」
「あぁ。俺の調査では、やつはすでに、スーパーノヴァの女性型クローンを完成させているはずだ。それを、“保険”として使う。スーパーノヴァと全く同じ能力を持つ彼女をな」
仕事に取りかかるのは、早い方がいい。
「イブ、頼みがある」
「はい、カイト様」
「エゼキエル・ザンダーに、アポイントメントを取ってくれ。メガ・ポリスのエゼキエル・コーポレーション本社に、直接乗り込むぞ。今度は─“社長対決”だ」
新章突入!
─の前に、彼らは今なにをしている?