#22 これが【アンチ・ジャスティス・ギルド】?
メテオシティ郊外のクライ邸。
その地下深く、クロウ・ネスト。
本来、俺とルナ─つまり、ナイトクロウとクロウガール、そして、イブしか立ち入れないはずだが、今はそこに、見慣れない4人の人影が立ち並んでいる。
俺がヘルゲート刑務所からピックアップした、【アンチ・ジャスティス・ギルド】のメンバーだ。
プロフェッサーによるヘルゲートでの暴動鎮圧後、薬で眠らされてここまで連れてこられた、レンズマン、ローチトラップ、コピーキャット、ファストレーン。
全員、オレンジ色の囚人服ではなく、それぞれのコスチュームに着替えてある。
4人全く別々の、それぞれの個性を表したコスチュームだ。
…1つだけ、ある“共通点”を除けば。
まず、レンズマンは…全身タイツに、頭に大きなカメラの被り物。
そのセンスについては、俺からはノーコメント。
「…映画館のマスコットキャラクターでこんな感じのを見たことあるわ」
クロウガールがつぶやく。
しかし、ただでさえ表情が読めなかったレンズマンが、被り物をすることで完全に顔が隠れてしまった。
ヘルゲートを出てから一言も話さないし、意思の疎通が困難だな。
こっちの言うことは理解しているみたいだが…いや、してるのか?
その隣、ボロボロのレインコート風のコスチュームを着ているのは、ローチトラップだ。
茶色いビニールの素材が羽のように見えて、いやでも“ゴキブリ”を連想させる。
肩から斜め掛けにしているメッセンジャーバッグは、縮めた“獲物”を仕舞うためのものだ。
ゴーグルをかけた頭に被ったフードには…ご丁寧に“触覚”が2本、ぴょこんと付いている。
「…」
自分が置かれた状況がわからず、混乱しているのだろう。
不安そうに辺りを見回している。
「…感激だわ。まさか、ナイトクロウの基地に連れてこられるなんて!ついにワタシを受け入れてくれる気になったのね…!」
対照的に、黄色い声を上げているコピーキャット。
その名の通り、ボディラインを強調するキャットスーツに身を包み、肉球風のグローブ、首にはチョーカー、頭にはネコ耳風のカチューシャだ。
「愛してるわ、ナイトクロウ!」
「ストップ!…それ以上、ナイトクロウに近づかないこと。ついでに私にも」
羽根型ダーツを構えたクロウガールが、こちらに向かってこようとするコピーキャットを威嚇する。
「…はにゃ?ナイトクロウはともかく、なんであなたにまで?」
さすが、邪険に扱われても、首をかしげるあざとさだけは忘れていない。
「…あなた、触れた同性の姿をコピーできるでしょ。なんか、私がコピーされるの嫌だなって…」
「…で、茶番は終わった?」
1人腕を組み、うんざりするように吐き出したのは、ファストレーンだ。
髪をポニーテールにまとめ上げた彼女が着るのは、レッドライトニングとは対照的な、水色のコスチューム。
タンクトップ、短パン、へそ出し…セパレート型のユニフォームのような格好は、まさに陸上選手だ。
「刑務所から出られたと思ったら、なんでアンタの基地にいるわけ?そろそろ誰か説明してくれない?じゃないとアタシ…」
久しぶりに拘束を解かれたファストレーンは、暴れまわりたくてうずうずしているのだろう。
俺の基地をめちゃくちゃにされては困る。
「…確かに、説明が遅くなったな。ようこそ、クロウ・ネストへ。お前たちがここに連れてこられたのは…俺が必要としているからだ。だから、ヘルゲート刑務所から一時的に開放した」
「ちょっと待ちなよ」
なんだ、ファストレーンがいきなり食ってかかってきた。
「アタシたちを釈放したのは、クライ産業社長のカイト・クライだったはず…ってことは、つまり、ナイトクロウとカイト・クライは…?」
なにかに気づいたのか?
まさか…
「…つまり、ナイトクロウとカイト・クライは、友達同士ってこと?」
「…そうだ」
「…けっ、お金持ちのお友達に頼んで、アタシらを仮釈させたってわけね」
ファストレーンが吐き捨てた。
…とりあえず、そういうことにしておこう。
「…お前たちは、全員が唯一無二の能力を持つヴィラン。これから、俺の命令に従って、“一仕事”してもらう。成功すれば、模範囚としてヘルゲート刑務所に戻してやる」
「は?」
ファストレーンのやつ、なにかと突っかかってくる。
「アンタのために働けっての?」
次の瞬間、やつはその場から消え…俺の目の前に現れた。
瞬間移動…と勘違いするほどの、高速移動だ。
「…他の雑魚3人はともかく、アタシは超高速のスピードスターだよ?今すぐアンタを倒して逃げられるのに、“常人ヒーロー”の命令に従うと思ってる?」
そう言うと、右手の拳を固く握る。
「…ナイトクロウ!」
クロウガールが思わず叫んだ。
ヒーローの基地にヴィランを招き入れるなんて、前代未聞だ。
こんなことになるのではと、彼女やイブは反対した。
だが…問題ない。
「…今握った右手の手首をよく見てみろ、ファストレーン。他の3人もだ」
言われて初めて…ヴィランたちは、右手首に、半透明のブレスレットがはめられていることに気付いたようだ。
無理もない。クライ産業の技術を使った、超軽量ブレスレットだ。
本人ですらも、装着しているという感覚は薄いだろう。
これが、バラバラなやつらの、唯一の“共通点”。
「俺の命令に背いたり、逃げ出そうとしたり、民間人に危害を加えようとしたら…そこから、超高圧の電流が流れる。ただし、死なない程度のな」
これこそが、俺が事前に考えていた、ヴィランを従わせるための“対策”だ。
高い耐久力を持つローチトラップや、超高速で動けるファストレーンでも、体に流され続ける電流からは逃れるすべがない。
恐れているのかわからないレンズマン、より一層怯えているローチトラップ、そして…
「…婚約指輪代わりってわけじゃないのね」
なぜか残念がるコピーキャット。
「…ちっ」
反抗的なファストレーンも、さすがに手を下ろす。
一応、全員理解したようだな。
「ヴィランのアタシたちが、ヒーローを手伝う?…ばかばかしい、平和を守るのはヴィランの役目じゃないっての」
「…誰がそんなこと頼んだ?俺の命令を聞けと言ったが、お前たちにヒーロー活動をさせるわけじゃない。お前たちは…ヴィランなんだからな」
まだぶつぶつと文句を言うファストレーンには、俺の答えは意外だったようだ。
「…は?じゃ、なにさせるわけ?」
「ヴィランの役目は…決まってるだろ、ヒーローを相手に戦うこと。お前たちの仕事は、“世界最強のヒーローチーム”ジャスティス・ギルドを倒すことだ」
個性も能力もバラバラな彼らは協力できるのか。
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