#21 社長vs教授vs…
「さぁ、カイト・クライ。私を恐れろ!後悔しろ、私をバカにしたことを!」
一瞬、頭が揺れるような感覚に襲われれる。
これが、やつの“感情操作能力”か…!
だが…
「…なぜだ?なぜ私を恐れない!?」
俺が平然としていることに、混乱しているようだな。
「なぜかって?簡単だ…お前よりも恐ろしいものを、今までにいくつも見てきたからだ」
幼いころに、両親を犯罪で奪われた記憶。
これまでに戦ってきた、多くの凶悪ヴィランたち。
そして…信じてきた仲間に裏切られ、“追放”されたこと。
ジャスティス・ギルドの、悪魔のような笑顔。
俺は、プロフェッサーに“恐れ”を感じない。
自分の正しさを信じているから、やつを否定したことへの“罪悪感”もない。
「…残念だったな、プロフェッサー。お前の能力は、俺には効かないみたいだ」
淡々と、事実を告げる。
大げさに肩をすくめて煽るのは、俺のキャラじゃない。
「…そうか、ならば仕方ない。もはや、お前を始末するしかなさそうだ」
冷酷に言い放ち、再び、こめかみに手を当てるプロフェッサー。
「フレイムセイビア、シラヌイ…やれ」
「「はい、プロフェッサー」」
感情を抑圧され、操り人形となった2人のヴィランが向かってくる。
「…お前の能力は、どんな人間に効かないか。考えたことはあるか?」
「…なんだと?」
俺の突然のつぶやきに、プロフェッサーは眉をひそめた。
「例えば、俺だ。今までに多くの恐怖や悲痛を感じてきた人間は…お前のことを恐ろしいと思わないし、命令にも従わない」
話し続けながらも、俺はじりじりと、背後の独房の扉へ近づく。
「他にも、お前のパワーが通用しない人間がいる。どんなやつだかわかるか?」
「さっきからなにを言っている!?お前たち、早くやつを始末しろ!」
《BEEP》
俺は、独房の扉を開けた。
そう、これこそが“答え”だ。
「…“感情操作能力”が効かない人間。それは“感情を持たない”人間だ」
扉から、ゆっくりと、無表情で出てきた囚人。
“あらゆる感情を感じない”能力の持ち主、サイコ殺人鬼ヴィランの…ポーカーフェイスだ。
「…!?まさか、最初からそれが狙いで…!?」
そうだ。
俺が目指していた囚人は、ゴールデンタッチじゃない。
あの騒ぎは時間稼ぎと、プロフェッサーを誘き出すための“罠”だ。
最深部へ逃げ続けていたのも、単にヘリポートから遠ざかるためだけじゃない。
すべては…プロフェッサーの感情操作能力に対抗できる、こいつを解放するためだった。
「感情のないポーカーフェイスは、お前の能力が効かないから操れない。反抗されるかもしれないから、解放しなかったんだろ?俺を追い詰めるのに夢中で、やつの独房の前まで来ていたことに気付かなかったみたいだな」
「きっ、貴様…!?」
怒り狂うプロフェッサーとは対照的に、不気味なほど無表情なポーカーフェイスが口を開いた。
「…プロフェッサー、お前か。何も感じないことを利用して、俺の体でいろいろ“実験”してくれたな…」
怒りは感じられない、淡々とした口調。
「…ま、待て!悪かった、君をひどく扱うつもりは…」
「大丈夫だ。俺は“痛み”を感じない。感じるのは…“殺意”だけだ」
次の瞬間、ポーカーフェイスがプロフェッサーに向かい、飛びかかる。
「お、お前たち!カイト・クライはもういい、ポーカーフェイスから私を守れ!」
「…はっ!」
ポーカーフェイスの前に躍り出たのは、炎の剣士、フレイムセイビアだ。
「…浄化の炎!」
そう叫びながら抜いた剣が、一瞬で炎に包まれる。
そして…
《SLASH!!》
一気にポーカーフェイスを斬りつける。
だが…
「…なにっ!?」
ポーカーフェイスは顔色一つ変えないどころか…自分の体に深々と突き刺さった燃え盛る剣を掴み、逆にフレイムセイビアへと刃を押し込んだ。
痛みを感じない、やつだからこそできる荒業だ。
《AHHHH!!》
悶絶し、その場に倒れるフレイムセイビア。
《SHHUNTT!!》
だが、その直後、シラヌイが放ったクナイが、ポーカーフェイスの体に突き刺さる。
「…」
ポーカーフェイスは無表情でそれを引き抜くと、平然とシラヌイに投げ返した。
《OOOF!!》
のど元に突き刺さり、深くダウンするシラヌイ。
あっという間に、その場に立っているのは、俺、プロフェッサー、ポーカーフェイスの3人だけになった。
「…や、やめろ。こっちに来るなぁ!」
能力が効かないポーカーフェイスに、プロフェッサーはただ震えているだけだ。
その目の前で、ポーカーフェイスは拳を固め…
《SMAAAASH!!》
《AHHHH!!》
無言のパンチを顔面に受けて、プロフェッサーは派手に吹っ飛んだ。
…そろそろ、俺の出番だな。
「…見事だな、ポーカーフェイス。だが、そこまでだ」
プロフェッサーが気絶したことにより、やつに操られていた囚人も全員、リンクして気を失っただろう。
ここまで、作戦通りだ。
暴動は解決したが、ここで止めなければ、ポーカーフェイスはプロフェッサーを殺す。
ヒーローとして、それは絶対に見逃せない。
「…クライ産業の社長か。なぜ止める?」
「そいつは、この混乱に対する正当な裁きを受けるべきだ」
「…邪魔をすれば、お前から殺すぞ」
ポーカーフェイスが、ゆっくりと近づいてくる。
「…今のお前にできるかな」
「…どういう意味だ?」
だが、その言葉を言い終わらないうちに…ポーカーフェイスはよろけて、その場に倒れこんだ。
「…お前の能力は、“感情がないこと”だ。痛みは感じないかもしれないが…不死身じゃない」
“痛み”は、人体の危険信号だ。
ポーカーフェイスは、燃え盛る剣で斬られ、クナイに体を突き刺されたが、常人なら“痛み”を感じてとっくに動けなくなっている。
やつはそれを感じないからこそ、限界を超えて動き続け…倒れた。
火傷と失血のせいだろう、俺と戦うまでもなかったな。
…とにかく。
「これで、本当の事件解決か」
「そのようですね、カイト様」
「…もしもし、聞こえる?カイト、応答して!」
イブに続いて、ルナの声が聞こえてきた。
ロックが渡した無線機からだ。
「こちらカイト」
「よかった、無事なのね!こっちはヘリまで囚人を送り届けたわ。暴動の方は、脱獄した囚人が一斉に気を失って、収まったみたい。今、そっちにロック隊長たちが向かってる」
「それはよかった。悪いが、医療班も向かわせてくれないか?」
「えっ!?もしかしてカイト、ケガしたの?」
「…」
周囲に倒れる、プロフェッサー、ポーカーフェイス、フレイムセイビア、シラヌイの4人を見渡す。
「いや、ケガ人はいるが…俺じゃない」
第2ラウンドも、カイトの圧勝!
よろしければ、評価を頂けると嬉しいです。
感想はログイン不要でどなたでも書けますので、一言頂けると励みになります。
次回もお楽しみに!