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#20 ヴィランとハサミは使いよう

ヘルゲート刑務所の暴動の原因、プロフェッサー。

やつを倒せば、事件は解決だ。

だが、スーツなしの俺では、戦闘力に限界がある。

だから利用するんだ…囚人(スーパーヴィラン)を。

俺の仮説が正しければ、プロフェッサーは()()()を解放していないはずだ。


独房エリアを、奥へ奥へと走り抜ける。

「カイト様、後方から囚人の集団が迫ってきています」

ありがとな、イブ。

俺にもやつらの雄たけびははっきり聞こえている。

だからこそ、立ち止まることはできない。

あの独房にたどり着くまでは。


「…おい!なにが起きてるんだ!?」

途中、解放されていないヴィランの独房を通り過ぎる。

【デイトレーダー】。株式市場に大規模な攻撃を仕掛け金融危機を引き起こそうとしたヴィランで、クライ産業もターゲットとなった。

インテリ系だが、戦闘スキルは皆無だ。

「私もここから出してくれ!」

また、別のヴィランだ。

【パズラー】。パズルの天才で、毎回、犯行現場に攻略困難なパズルを残していくヴィラン。

こいつも、頭はいいが戦闘力は低い。


「…やっぱりな」

「やっぱり…とはどういうことですか、カイト様?」

「俺の仮説は正しい、ってことだ」

ヘルゲートには5000人の囚人が収容されているが、プロフェッサーは、その全てを解放したわけではなかった。

やつの言葉を思い出す。

『…ヴィランをコントロールできるのは、能力を持つ私、ただ1人だけ。少々、脳に負荷がかかるのが厄介ですがね…」


限界はどのくらいか分からないが、プロフェッサーは、一度に5000人もの囚人を操れるわけがない。

だとすると、操っても役に立たない、戦闘力が低いヴィランは独房に入れたままにしておくだろう。

安心した。

きっと“あの男”も、閉じ込められたままのはずだ。

空の独房、まだ中に囚人がいる独房…いくつもの独房を通り抜けて、たどり着く。

…外の状況とは無縁な、優雅なオペラが漏れ聞こえてくる独房に。


ロックから借りたカードキーを使い…

《BEEP》

扉を開けた。

「…ゴールデンタッチ。ここから出してやる」

「…おい、いきなりなんだね?くつろいでいたというのに…待て、君はクライ産業の社長、カイト・クライじゃないか。さっきもここを通ったな?」

そう。

ここは、素手で触れたものをなんでも黄金に変えることができる、ゴールデンタッチの独房。

裏社会中にその能力を狙われ、司法取引を行うことで自らヘルゲートに入り、気ままな暮らしを送っていたヴィランだ。

物質を黄金に変化できる能力…魅力的かもしれないが、戦闘向きではない。


「オペラに、ワインに、ステーキ…のんきに過ごしすぎて、外の状況が分かってないみたいだな。今、ヘルゲートでは大規模な囚人の脱獄が起きてる」

「ふん、出ていきたいやつらは出ていけばいい」

興味ない、と言うように答えるゴールデンタッチ。

「なぜカギを開けてくれたのかは分からんが、私にとっては、外の世界よりここが安全なんだ」

「“安全”か…本当にそう言い切れるか?」

「…どういう意味だ?」

俺の話に食いついてきたな。


「聞こえないのか?この雄たけびが…囚人共が、ここに向かってくる声だ」

《AAARGH!!》

「…確かに聞こえてくるが、なぜここに?」

「それは…お前の能力が目当てだからだ、ゴールデンタッチ」

もちろん、嘘だ。

だが、ヒーローが嘘をついてはいけないなんて、誰が決めた?


「あいつらは、脱獄の手土産にお前を外に連れ出すつもりだぞ。“触れたものをなんでも黄金に変える”お前を連れて行けば、あらゆるギャング、マフィアから声がかかるだろう。もしかすると…お前の手だけでも、切り離していくかもな」

もちろん、すべてハッタリだ。

だが、ゴールデンタッチは、そんな事態を避けるために、わざわざ自分から刑務所に入った。

「…!」

思った通り、みるみる青ざめていく。


「理解したなら、とっととここから逃げた方がいいぞ…」

俺が言い終わらないうちに、独房の外へ飛び出したゴールデンタッチ。

だが…

「覚悟しろ、カイト・クライ!」

俺を追ってきた囚人軍団と鉢合わせする。

もちろん、ゴールデンタッチは俺の嘘のせいで『自分が狙われている』と思い込んでいる。

「…や、やめろ!私に近づくなぁーっ!」

そう言うと、グローブを脱ぎ捨てた左手を…囚人たちに向かって振り回した。


《AHHHH!!》

触れられた途端に、追手の囚人たちは、黄金へ変化して動けなくなる。

…ご苦労、ゴールデンタッチ。

『…ば、バカな!なにしてるお前たち、ターゲットはカイト・クライだ!』

スピーカーから響くプロフェッサーの声は、混乱したその場のヴィランには届かない。

やつらは次々に、黄金に固まっていく。


『…もういい。“天才”である私が!直接お前を始末してやる、カイト・クライ。待っていろ!』

スピーカーからの声が途切れる。

もちろん、そう言われて律儀に待つやつはいない。

《AAARGH!!》

いつの間にか、ゴールデンタッチと囚人軍団との戦場と化したその場を後に、俺は走り出した。


◇◇◇◇◇


ようやく、最深部にたどり着いたな。

《BEEEEP!!》

「…カイト・クライ!」

“SUPER MAXIMUM SECURITY”の扉を通り抜けた俺の背後から、怒りに満ちた声がする。

…プロフェッサー、追い付いてきたか。


「カイト様、少々まずい状況です」

「どうした、イブ」

「プロフェッサーですが…“最凶”クラスのヴィラン、フレイムセイビアとシラヌイを引き連れ、こちらに向かっています」

そうか。

科学者であるプロフェッサーの戦闘力は低いだろうが、あのヴィラン2人は別だ。

スーツを着た俺でも苦戦する。


…そろそろか。

「カイト様!?立ち止まってしまえば、やつらに追いつかれます!」

「ありがとう、イブ。でも、これでいいんだ」

立ち並ぶ独房を背にして、ゆっくりと、追ってきたプロフェッサーたちの方へ体を向ける。

「…諦めたのか?賢明だな、ここはヘルゲートの最深部。これ以上は逃げられない。ゴールデンタッチを利用したことは評価するが、時間稼ぎにしかならなかったな」

やはり体力がないのか、息を切らしながら近づいてくるプロフェッサー。

両隣には、フレイムセイビアとシラヌイだ。


「…どうだ、私の能力の恐ろしさを思い知っただろう?今ならまだ間に合うぞ、天才である私を否定したことを謝罪し、今回の暴動の責任をすべて肩代わりするなら、命は助けてやる」

言ってることがめちゃくちゃだ。

自分の能力に囚われすぎたか。

それに…


「…恐ろしくなんかない」

「なに?」

「プロフェッサー、お前の能力は恐ろしくもなんともない。ヴィラン2人をはべらせて、ボス気取りか?お前なんて、ちっともこわくないな」

…プロフェッサーの体が震えだす。


「…許さん、カイト・クライ。身を持って、私の能力を思い知れ!」

そう言うと、こめかみに手を当て…

まさか、俺に向かってパワーを使う気か!?

「さぁ…私を恐れよ!」

次の瞬間、すさまじい衝撃が俺を襲った。

パワー(チート)がなければ、使うのは頭脳と…利用できるもの全て。

よろしければ、評価を頂けると嬉しいです。

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次回もお楽しみに!

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