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#16 2人目

俺たちは独房エリアの奥へと進んでいく。

また別のエリアへと続く扉だ。

《BEEP》

セキュリティ解除のアラームが鳴る。

ロックがカードをかざした扉には…いったい誰が書いたのか、“FREAK SHOW(見世物小屋)”の落書きだ。


「…暗いわね」

さっきまでのエリアと明らかにちがう雰囲気を感じ取ったルナに、ロックが答える。

「このエリアには、主に人外ヴィランが収監されています。他のエリアと隔離されているんですよ」

独房のガラス扉から漏れる緑色のライトを反射した通路は、まるで幽霊が立っているかのようだ。


《GRRRRRR…》

低いうなり声が聞こえる独房を覗くと、中にいたのは【マッドモンスター】。

実験に巻き込まれ、全身が泥状に変化してしまったヴィランだ。

その反対側は、【テンタキラー】の独房だ。

特殊な病気で体中から“触手”が生えてしまい、タコ人間として蔑まれてきた。

「…」

ガラス越しに、俺たちを無言で見つめるテンタキラー。

独房の床には、生魚が散乱している。

彼が“人間”として扱われていない証拠だ。


俺は来る途中で見た、ゴールデンタッチの独房を思い出した。

ここの環境とは対照的だ。

「…」

怒り、悲しみ…様々な感情に満ちたテンタキラーの目。

怪物として扱われ続ければ、人は怪物になる。


「カイト社長、あの独房です。あそこに…ん?」

ロックが指差した独房の前には、すでに2人の看守が立っていた。

おそらく、パトロールの途中か何かだろうが…

「おい、ゴキブリガール!」

ガラス扉をガンガン叩き、中の囚人をからかっているようだ。

「ちっちゃくなってここから脱走してみろよ!」

「隙間から逃げ出さないのか?」

…見ていて気分がいい光景とは言えないな。


「お前たち!ここでなにしてる!」

ロックに声をかけられて、はじめて俺たちの存在に気付いたようだ。

看守たちの顔から笑みが消えた。

「ロック隊長!こっ、これは…」

「言い訳は後で聞く。今はパトロールに戻れ、すぐにだ!」

「「り、了解!」」

ビシッと敬礼すると、逃げるかのように去っていく看守たち。

残った俺たちの間には、気まずい空気が流れる。


「…失礼しました。カイト社長。これがヘルゲートの現状です。私の目の届かないところでは、看守が暴走することもあります。看守長である私の力不足です」

「看守への教育も業務改革の一環として取り組んだ方がいいでしょう。このエリアは、それ以外にも改善する箇所がありそうですが…」

そう言いつつ、俺は独房の中を覗きこむ。

「ここが、彼女の独房ですか?」

「えぇ…ローチトラップ、出てこい」


俺とロックに続いて中を覗いたルナが、大声を上げた。

「えっ…なんなのこの汚さ!?」

驚くのも無理はない。

独房の中は、ゴミまみれだった。

そして、肝心の囚人の姿はどこにも見えない。

もっとも、彼女の能力を知っている俺は想像していたことだが。

「ここは【ローチトラップ】の独房だからな」

「ローチトラップ?また私の知らないヴィラン…」

俺はルナにファイルを渡す。


「ローチトラップ。ストリート出身のため、本名は不明。罪状は窃盗と、公衆衛生違反」

「公衆衛生違反…?」

「ローチトラップは、“ゴキブリ”と同じ能力を持つ」

俺の一言を聞いたルナが後ずさりした。

相手は扉越しだぞ。


「…彼女は、自分自身と、あらゆる無機物をゴキブリほどの小サイズに縮めることができる。身体能力もゴキブリ並みだ。脅威的な生命力、耐久力、スピードを全て兼ね備え、どんな隙間からでも建物に侵入することができる。あらゆる毒物、汚染物質への耐性もある。あとは、テレパシーでゴキブリの大群を操ることが…」

「ストップ!もう言わなくてオッケーよ、想像しちゃうから」

待ったをかけられてしまった。


「で、彼女はその能力を活かして窃盗を繰り返してたってわけ?」

「そうだ。自分を含めてなんでも縮めることができて、どこにでも侵入できる。泥棒にはもってこいのスーパーパワーだからな。メテオシティ中央銀行から、何百トンもの金塊を一瞬で盗み出したこともある」

「…でも、ファイルを読んだら、盗んだものを売りさばいたりしたわけじゃないのね。『ストリートのねぐらにただため込んでいただけ』、と。

『犯罪心理学的観点から分析すると、これは一種の強迫観念に近い。囚人は、自身の心理を安定させるために窃盗を繰り返した』…つまり、ものに囲まれてると安心する、ってこと?」

「ローチトラップは、その性質上、周囲から拒絶され続けてきた。どこに行っても“ゴキブリ”扱いされて追い回され、ストリート暮らしの彼女を助ける人物は誰もいなかったんだ」


俺は独房の中のローチトラップに向けて、直接話すことにした。

「…能力を解除して、俺たちの前に出てきてくれないか?」

すると…

独房の中に、1人の少女が出現した。いや、正確には、元のサイズに戻っただけだが。

薄汚れた囚人服を着た、小柄で茶髪の、至って普通の少女だ。

赤い目の下にはクマができ、疲れ切って、なにかに怯えている様子を除けば、だが。

「…ボクをいじめる?」

「ボクっ娘だったのね、驚いた」

ボソッとつぶやいたルナを無視して、俺は続ける。


「いや、いじめない。君をこれから、ある場所へ連れて行く」

「…ボクが嫌じゃないの?」

「嫌じゃない。君を必要としてるんだ」

扉を開く。

「…」

少しの沈黙の後、彼女は独房から外へ踏み出した。

周りの看守たちが少し後ずさりした様子を見て、うなだれるローチトラップ。

受け入れてくれる人々が周りにいたら、彼女はここに来ることはなかったのだろうか。


◇◇◇◇◇


「…しかし、2人目がゴキブリ娘とはね」

次の独房へ向かう途中、またルナが話しかけてきた。

「でも、レンズマンよりは頼れそうじゃない。物体を縮める能力なんてね。さすがのスーパーノヴァも、縮められて踏みつぶされたら無傷じゃすまないでしょうね」

「猟奇的だな。だが、“物体を縮める”じゃない。“自身と、あらゆる無機物を縮める”能力だ。なんでも、彼女が発する特殊な粒子のおかげだそうだが…」

「えっ、ちょっと待って」

俺の話をさえぎり、ファイルを読み直すルナ。


「…本当だ。じゃあ、どうやってギルドに挑むの?小さくなってスーパーノヴァの体内に入って、能力解除して体内からぶち破るとか?」

…だから、いちいち猟奇的なんだよな。

「…ちがう。それに、忘れたのか?スーパーノヴァは“鋼鉄の皮膚”の持ち主だ。外側から破れないものは、内側からでも破れない」

「それじゃあどうやって…」


「カイト社長、ルナさん。到着しました」

ロックの言葉に、俺たちは会話を切り上げる。

「この扉です。ここから先が、次の囚人が収監されている…【女子受刑者エリア】です」

ゴキブリで“最強”ヒーローに挑む…?

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次回もお楽しみに!

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