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#15 1人目

ヘルゲート刑務所の奥、独房エリアへと歩みを進めていく俺たち。

思わぬところで時間を使ってしまったが、あとは事前に選んだヴィランたちをピックアップして、クロウ・ネストへ帰還するだけだ。


途中、娯楽室を通ると、囚人たちがトランプに夢中になっていた。

全員、ヘルゲート刑務所の囚人服であるオレンジ色のつなぎを着ている。

「悪いね、また俺の一人勝ちだ」

その中の一人、ブーイングを受けながらも不敵に笑うオールバックの男は【ダブルディーラー】。

トランプを投げて戦う賞金稼ぎのヴィランだが、ギャンブラーでもある。

きっと、刑務所の中でもイカサマで勝ち続けているだけだろう。


《AAARGH!!》

娯楽室を抜けた先、ジムにはパワー系のヴィランが集まっていた。

雄叫びをあげながらベンチプレスをしている囚人は【マッスルヘッド】。

名前の通り、脳みそにまで筋肉が詰まっているため、超強力なパワーを持つ反面、IQは非常に低い。

配下として使うのには向いていないな。


談話室では、3人の囚人が言い争っていた。

「わしは第二次世界大戦のころからレディダイナと戦っているんだぞ!」

「もうその話はいいよじいさん、それより僕はナイトクロウの後継者として認められたんだ!」

「なに言ってんだよ偽物ヒーロー、俺はスーパーノヴァの心臓ど真ん中を狙撃したんだぞ。あいつが鋼鉄の皮膚を持ってなけりゃ殺せてたんだ!」


ナチスが開発したロケットパックを背負う古参ヴィラン【キャプテン・ヘルロケット】。

ナイトクロウ─俺に憧れてヒーローを始めたが、過激な暴力で逮捕された【ホワイトピジョン】。

金次第で誰でも標的にする、必殺のスナイパー【シャープシューター】。

ここでは、どのヒーローとどんな風に戦ったかがステータスになるようだな。


ルナが『やれやれ』というように肩をすくめる。

「マウントの取り合いね…でも、確かに全員が凶悪ヴィラン。誰がアンチ・ジャスティス・ギルドのメンバーになってもおかしくないってわけね」

「あぁ。俺が選出した4人のメンバーは、全員が唯一無二の能力を持つヴィランたちだ」

ルナとやり取りをしている間に、独房エリアへと続く扉の前までやってきた。

ロックがカードキーをかざし、道が開かれる。

「さぁ、1人目に会いに行くぞ」


◇◇◇◇◇


狭い通路を挟み、両側に独房がずらりと立ち並ぶ。

「おい、珍しいお客さんじゃねぇか!」

「クライ産業のお坊ちゃん、こんなところに何しに来たんだ!」

「かわいい彼女連れてるじゃねぇか!」

俺たちが独房エリアに足を踏み入れるなり、強化ガラスの扉越しに、囚人たちが罵声を浴びせてくる。

「お前たち、黙れ!」

ロックが吠えるが、凶悪なヴィランたちにはいまいち効果が薄いようだ。


「…すみません、カイト社長」

「大丈夫です、気にしていませんから」

そう言いつつも、一応ルナの様子を気にかける。

「「おい、俺たちは見世物じゃねえぞ!!」」

「すごい、別々の独房に入れられてるのに全く同じ動きとしゃべりだわ。あれが有名な【ハンプティ兄弟】ね…」

…やっぱり、気にしてないな。

ヒーローたちが倒してきた多くのヴィランを間近で見ることができて、うれしそうだ。


「ねぇカイト、ハンプティ兄弟は2人で全く同じ動きをする兄弟ヴィラン。攻撃力も2倍でしょ?メンバーにしないの?」

「俺の人選には入ってない」

「そう…でも、有力そうなヴィランはどんどん通り過ぎて行ってるけど?」

扉越しにオペラが漏れ聞こえてくる独房を通り過ぎる。

ちらりと中を見ると、金髪で初老の男がソファでくつろいでいた。

ゴールデンタッチの独房だ。

オペラのレコードとソファ、テーブルの上にはワインとステーキ。

司法取引をしたにしても、ずいぶんいい暮らしぶりだな。

こいつも…俺が選んだメンバーじゃない。


さらにその先…ロックが立ち止まった。

「ここです、カイト社長。あなたが仮釈放を希望する囚人の1人目…」

そう言うと、ガラス扉をたたき、中の囚人に声をかけた。

「おい、レンズ。ラルフ・レンズ!」

独房の中には、1人の中年男性がいた。

分厚いメガネをかけており、レンズが光を反射して表情がいっさい読み取れない。

「…誰?」ルナがつぶやいた。


「こいつは、【レンズマン】。スーパーパワーは…ない」

「ない!?」

驚くルナに、持ってきたファイルを渡す。

「レンズマン、本名ラルフ・レンズ。“盗撮”の罪で服役中だ」

「…盗撮?」

「レンズは、元メテオシティ・タイムズのカメラマンだ。優秀なカメラマンだったが、上司は彼の腕前を認めてくれず、それどころかレンズにパワハラを繰り返した」


俺が説明する横で、ルナもファイルを読み進めている。

「『スクープをとれなければクビだ』…追い詰められたレンズは、ヴィラン…レンズマンへと変貌した。自身の撮影技術を駆使して、メテオシティ・ハイスクールの女子高生から国家機密まで、ありとあらゆるものを“盗撮”したんだ。そして、警察に逮捕された」

「…ちょっとだけ同情の余地はあるかと思ったけど、最低じゃない」

「俺たちは“ヴィラン”と手を組むんだ、ヒーローじゃない。そのことを忘れるな」

だが…哀れな男でもある。

素晴らしい技術を持っていたが、その見せ方、使い方を間違えたんだ。


俺たちが話す前で、ロックが扉を開ける。

「レンズ、この方はお前にとっての神様だ。お前を仮釈放してくれるぞ」

「…」

なにを答えるわけでもなく、独房からゆっくりと出てきたレンズマン。

おとなしく両手を前に出し、手錠をかけられる。

相変わらず、その表情は読み取れない。

「…まぁ、いい。ではカイト社長、次の囚人のところへ」


◇◇◇◇◇


「…ちょっと。ちょっと!」

移動中、静かだが勢いのある声でルナが俺に話しかけてきた。

「なんだ」

「ジャスティス・ギルドを倒すためのメンバー集めでしょ?その1人目がスーパーパワーなしの盗撮男!?」

「そうだ」

「そうだ、って…世界最強のヒーローチームに盗撮魔をぶつけるわけ?」

「レンズマンの盗撮能力も“世界最強”だ。あいつに盗撮できないものはない」

「…じゃあ、ジャスティス・ギルドの本性を盗撮して、脅迫するか、世間に公表するのね」

渋々だが、納得したと言うようにルナがうなずく。


「残念だが、それはちがう」

「ちがう!?」

「恥ずかしいが、俺は3年間チームにいて、ジャスティス・ギルドの本性に気付かなかった。あいつらは外面を完璧に繕っている、滅多にボロは出さないだろう。チャンスは少ない。それに、脅迫するつもりなら、もっと適任のヴィランを選ぶ。【ブラックメイル】だ」

ブラックメイル…その名の通り黒い鎧(ブラックメイル)のようなアーマーに身を包むが、戦闘力は皆無のヴィラン。

盗撮、盗聴、ねつ造など、あらゆる手段を使ってターゲットを追い詰める、脅迫(ブラックメイル)のプロだ。


「だが、あいつらのことだ。決定的瞬間をおさえないかぎり、都合の悪い情報が出回っても『ヴィランの仕業』で済ませるだろう」

俺の答えを聞いたルナが悔しそうに口を曲げる。

「…1人目からこんな調子で、勝てるの?」

「まだ1人目だ。次からは全員スーパーパワー持ちのヴィランを選んである。今のうちに、気を引き締めておけよ」

1人目からまさかの最弱メンバー…!?

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