#1 ヒーロー追放
はじめに─
数ある物語の中から選んでいただき、ありがとうございます。
「…もう一回言ってくれないか?」
「聞こえなかったのなら、もう一度言おう。なんのスーパーパワーも持たない君は、今日でチームから追放だ─ナイトクロウ」
もちろん、はっきりと聞こえていた。
俺を取り囲む、5人のスーパーヒーローたち。
その中の1人、スーパーノヴァから“追放”を宣言された時、俺は、自分の耳が信じられなかった。
俺の名前は、ナイトクロウ。
名前、といっても本名じゃない。“ヒーロー名”みたいなものだ。
俺はスーパーヒーローとして、ヒーローチーム【ジャスティス・ギルド】に所属し、大都会【メテオシティ】の平和を守っている。
街の中心部にそびえたつタワー、ジャスティス・ギルド基地に呼び出された俺は、突然“追放”を告げられたのだった。
「待ってくれ、どういうことだ」
俺の質問を無視して、スーパーノヴァが続ける。
「今日がなんの日か分かるか?」
「もちろん分かるさ、チーム結成3周年の日だ」
忘れるわけがない。俺がこのチームの設立者なのだから…
この世界には、様々な特殊能力を持つ人々が存在している。
空を飛んだり、手から炎や電撃を放ったり、超高速で動いたり、透明になったり…
そのような特殊能力は【ギフト】とか【スキル】とか、人によって呼び方はちがうが、一般的には【スーパーパワー】と呼ばれている。
その力を使って正義のために戦うのが【スーパーヒーロー】だ。
反対に、スーパーパワーを持つ悪党は【スーパーヴィラン】という。
3年前、バラバラだったスーパーヒーローたちをまとめて、ジャスティス・ギルドを結成し、犯罪と戦い続けてきたのが、俺…ナイトクロウだった。
俺自身は、スーパーパワーを持たない普通の人間としてヒーロー活動をしている。
武器は、カラスをモチーフにしたハイテクスーツ、そして自分の頭脳。
パワーがないただの人間だからこそ、チームの足手まといにならないように、今日まで人一倍努力してきた。
「そう、チーム結成3周年の日だな」
スーパーノヴァが答えた。
「そして明日は、結成3周年を記念したパーティーが開かれる。メテオシティ全体が注目している、記念すべきイベントだ。そんなパーティーに我々と一緒に出席されたら困る、恥ずかしいんだ」
「何を言ってるんだ?」
スーパーノヴァの発言の意味が理解できない。
「ハァー…」
深いため息をついて、スーパーノヴァは続けた。
「3年間ずっとやってきて、気付かないのか?スーパーパワーのない普通の人間である君は、チームのメンバーにふさわしくないんだよ!我々を見てみろ。君以外、みんなスーパーパワーを持ってるじゃないか」
白いコスチュームに黄金のマント姿の、筋骨隆々の大男─スーパーノヴァ。
その正体は、惑星オリハルコンから来た異星人。
超新星爆発と同等のパワーを持ち、鋼鉄の皮膚、飛行能力、怪力、目からはどんな物質でも真っ二つにできるビームを放つ、“世界最強のスーパーヒーロー”だ。
スーパーノヴァの横にいた緑髪の女性も、ため息交じりに口を開いた。
「あなたと一緒に居たら、私たちの格まで落ちるのよね」
彼女はレディダイナ、スーパーノヴァの恋人だ。
古代ギリシャ神話を思わせるコスチュームで、邪神を封印する聖剣を武器に戦う。
女神の加護を受け、人類を救う使命を帯びた“聖女”として知られるスーパーヒーローのはずだが、その口調は冷徹だった。
「だいたいアンタさぁ、ずっと思ってたけど、カラスのコスプレしてるだけじゃん。俺より早く動けんの?」
小馬鹿にしたような口調であざ笑う青年は、レッドライトニング。
特殊な薬品を飲んだことで、超高速で動けるようになった“地上最速のスーパーヒーロー”。
赤いジャージ風のコスチュームを着て、頭にはヘッドホン。
腕を組み、明らかに俺を挑発した態度だった。
「今までずっと、チームでやってきたじゃないか!」
俺は必死に叫んだ、だが…
「それは、チームで動いた方が、一人で動くより世間に注目されると思ったからだよ。ただ都合がよかっただけさ」
そう答えたのは、スターシューターだ。
ブルーの肌に銀色の目を持つ彼は、地球人ではない。
宇宙の警備隊【スターシューター隊】の隊員で、凶悪な犯罪者【オメガ】を追って地球にやってきた。
飛行能力を持ち、両腕をクロスさせて放つ光線が“必殺技”だ。
それでも、俺は続けた。
「みんなが宇宙の危機に立ち向かったときは、地球にいて精一杯バックアップしただろ」
ジャスティス・ギルドは毎年のように、宇宙規模の敵と戦っていた。
さすがに宇宙空間での戦闘にまではついていけない俺は、メンバーのサポート要員として毎回基地に残り、悔しい思いをしていたのだ。
だが、そんな俺の訴えを聞いて、全員がぷっと吹き出した。
一体何が面白いんだ。
「あれは、みんなでスーパーノヴァの【月の別荘】で“バカンス”を楽しんでいただけじゃ」
穏やかだが馬鹿にしたような口調で、マダムミストが答えた。
彼女の外見は、紫色のローブに身を包んだ、幼い少女のようだ。
だがその正体は、何万年も昔から生きている“魔女”。
触れたものを闇の世界に引きずり込む、黒い霧の使い手だ。
「ヒーローにも休息が必要でしょ」
「でも世界の平和をほったらかして堂々と休んだら、世間に叩かれる」
「だからなーんの役にも立たないアンタをとりあえずだまして、オレたちが遊んでる間の“お留守番”をしてもらってたってわけ。もしかして本当に、しょっちゅう宇宙規模の戦いが起こってるって思ってた?」
レディダイナ、スターシューター、レッドライトニングが高らかに笑った。
「それに最近は、我々の活躍を描いた映画の売り上げだけで十分に稼いでいるだろう?真面目にヒーロー活動をするのも、馬鹿馬鹿しくなってね」
スーパーノヴァが、大げさに肩をすくめる。
「…みんな、どうして。このまま続けたら、きっと犯罪だってなくすことができるのに」
「犯罪がなくなる…それこそが問題なんだよ」
俺の問いかけに対して、スーパーノヴァは信じられない言葉を口にした。
「君はパワーもない普通の人間のくせに、活躍しすぎだ。このまま活動を続けたら、本当に犯罪がなくなってしまうじゃないか。それじゃ我々が困るんだよ。犯罪がなくなったら、ヒーローはどうやって生きていけばいい?なんの力もない人間たちの存在意義は、我々みたいなスーパーヒーローに守ってもらうことだろう?」
…こいつら、本当にヒーローか。こんなやつらと平和を守ってきたのか。
悪魔の様な笑みを浮かべる目の前のヒーローたちに、俺は絶望した。
幼いころに両親を犯罪で亡くし、ヒーロー活動を決意した俺にとって、絶対に許せない言葉だった。
「…もういい、わかった」
出口へと歩き出した俺に、スーパーノヴァが投げかける。
「君の正体も知らないから、今後街ですれ違ったとしても気付かないだろうが…いや、正体を知っていたとしても、すぐ忘れてしまうか。まぁいい、せいぜいがんばれ。明日のパーティーでは、華々しくチーム脱退を発表してあげよう」
そう、俺たちはお互いの正体を知らない。それがこのチームのルールだった。
だが、それが俺にとっての“チャンス”になる。こいつらは絶対に許さない。
外道ヒーロー共の笑い声が響く基地を後にした俺は…すでに“復讐”を決意していた。
人は、這い上がるために堕ちる…追放ヒーローの復讐物語スタート!
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次回もお楽しみに!