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悪魔の契約 アラル=バラシンの章  作者: コロコロコロネ
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9章 信じる心

ガビル島を出たアラルたちはスプキの宿に泊まり少しこれから先の旅について考えることにした。スプキには北に地下ダンジョンがあり、武者修行にはもってこいだった。だが、荒くれ者も多く治安的な面で言えばドーネル王国よりも悪いと言えた。質が悪いのはほとんどの奴らが自分に自信を持っているため喧嘩が絶えないというところだろうか。こんなところでは気を休める暇もないという結論に達したためアラルたちはスプキより西へと進むことにしたのだった。

コスタル王国を通過する。ここは少し前に通過したドーネル王国との戦争を間近に控える国だった。ドーネル王国よりも土地が広大でなぜこれ以上領地が必要なのか不思議に思うくらいだった。と、アラルは聞き覚えのある名に振り返ってしまう。

「待て、ユウリ。今逃げたら今日の晩飯抜きだからな」

「無理無理無理。晩御飯も逃げるのもどちらも譲れないからー」

颯爽と駆け抜けていったため姿を確認することはできなかった。ユウリという人物を追いかけていた男は諦めたのか、その場に立ち止まったのだった。身の丈に合っていない大剣を背負う男にアラルは身震いを感じたのであった。恐らくこいつは俺以上…いや、ビジャル以上に強いのか?と思うような男だった。と、じっと見ていたためか男と目が合ったのだった。

「いやー、すみません。この人、他人をじっと見ちゃう癖があるんですよ。悪気はないんで」

フォーティーが速攻でカバーし、サランが後ろからアラルの背中を押して先に進ませたのだった。

「いや、こちらも気にしてないから大丈夫だ」

男はそう言うと来た道を戻っていったのだった。

「アラルさん、人をじっと見るのやめて下さいよ。コスタルで変なことしたらすぐに捕まっちゃうんですからね」

アラルたちがコスタルに入ってすぐのことだった。喧嘩している奴らが速攻で逮捕されていたのだった。

「いや…、何か懐かしい名前が聞こえたから…」

「そうなんですか。コスタルに知り合いでもいるんですか?」

「いや…、声も似てたような気がするんだが…、いる訳がないよな。俺の勘違いだ」

「はいはい。行こ、行こ」

そのままコスタル王国を足早に抜けカルモという町まで行ったのだった。そこで少しお金を稼ぐために寄合所に寄るのだが、寄合所に掲載されている依頼は2枚だけであり誰でもできそうな採集依頼と家屋修繕の依頼だけであった。不思議に思ったアラルは受付で少し聞いてみたのだった。するとカルモという町は寄合所が主体となっていない町らしく多くの組織が寄合所を通さずに仕事を請け負っているらしかった。残念に思ったアラルだったが、受付嬢にメリオルという隣の町を紹介されたのだった。そこにはビラの洞窟というまだ攻略されていないダンジョンがあるとのことだった。現在の最高到達地点が地下2階層らしくそれより下に降りた者の帰還率は0%だという。武者修行をしたいのであればおススメの場所だという。

「え?無理なんだよ、帰還率0%ってもはや修行じゃないんだよ」

サランの言葉に一同は頷く。

「まっ、でも地下2階までは大丈夫なんだろ。地下2階まで行ってみて考える…とかなら…」

アラルのキラキラな眼差しが全員にため息をつかせるのであった。

「しょうがないですね、危険だと判断したときはすぐに撤退するという条件を呑むのであれば認めなくもないですね」

フォーティーはやれやれという表情で答える。

「アラルさんの強さの目標ってどこらへんなんですか?」

「大陸最強」

即答での答えにティーナは思わず苦笑いしてしまったのだった。

「ヘラレスの大会で優勝してヘラレスの3神に会う。そして俺の飲んだ血の悪魔がどこにいるかを聞かないといけないんだ」

「そうですね。それだと大陸最強になるしかないですね…」

アラルたちはカルモから北に進み、メリオルという町を目指した。目的はメリオルの側にあるというビラの洞窟。メリオルに着いた瞬間、アラルたちは心落ち着くのであった。今まで通過してきた町々全てに言えたことは治安が悪く何かしら殺気が漂っていた。だがしかし、ここメリオルは全くの逆だった。のほほんとしており、のどかだった。隠居するなら絶対にここだね、と言わんばかりの町だった。

ビラの洞窟について聞き込みを行ったのだが、これといった情報は得られなかった。仕方なくアラルたちはそのままビラの洞窟に直撃することにしたのだった。入口は1か所でありそこまでは道が整備されていたので迷うこともなく無事にたどり着くのだった。

「アラル」

サランは前方を指さしながらアラルの服を引っ張る。サランの指さす方向には洞窟の入り口があるのだが、その入り口に正座し、何やら祈りを捧げている人がいたのだった。とりあえず、洞窟攻略に必要かもしれないのでその女性に何をしているのか聞いてみることにしたのだった。

シェリス=バイエル。それが彼女の名前だった。彼女はビラの洞窟の前で毎日祈りをささげていた。それは7年前に姿を消した兄が帰ってくるようになのだとか。

兄の名はゼクス=バイエル。

7年前の事件での生還者は1人。その名はカイル=ラントマス。彼のチームでトレジャーハンターを兄は行っていた。カイルからは死んだといわれたのだが死体が上がらない以上彼女は兄の死亡を受け入れられなかった。そして、その根拠はビラの洞窟で殺されるほど兄は弱くなかったのだという。絶対に兄は生きている。だが、それを確かめに行くほどの力が私にはないと。私は死ぬまで兄を想いここで祈り続ける覚悟です。そう言ったのだった。

「7年か…。自分で入れなくとも誰か雇って捜してもらうくらいできるだろ」

そんなアラルの言葉にシェリスは俯いてしまう。

「2階層までは捜索してくれました。でもそれより下へは誰も依頼を引き受けてくれなかったんです」

「そんなヤバイ洞窟なのかぁ…」

次第に涙ぐむシェリスを見かねたアラルはひとつ深いため息を吐く。

「じゃあ、写真をくれ。持ってんだろ、兄の」

アラルの言葉にシェリスは首を傾げる。

「俺たちはこれからこの洞窟の最下層までいってくるんだよ。だから、ついでにお前の兄貴も見つけたら連れて帰ってきてやるよ。生死の保障はできないが、それで満足だろ。お前が止めた時間を俺がまた動かしてやるよ」

アラルは笑って、そう女性に言った。

「うっ!!!」

その瞬間だった。今まで大人しく控えめな性格だったティーナがキレた。アラルの耳を思いきり引っ張りシェリスには聞こえない所まで移動したのだった。

「こら、アラル!!!何で勝手に方針決めてんの。最下層までなんて無理に決まってるじゃない!!!」

「え…、ティーナさん…」

キレたティーナの圧に押されアラルが小さくなっていく。

「そうだよ、ティーナの言う通りなんだよ」

サランもティーナの後押しをする。

「でも、あのシェリスさんの境遇、かわいそうではないですか?」

「フォーティーは黙ってて。それじゃあ、フォーティー1人で捜してきてよ」

「え…、それは無理です…」

何も言い返せずに縮こまる男2人。ティーナは深いため息をつくとシェリスの下へと歩き出したのだった。

「シェリスさん、残念ですが兄の捜索は私たちにも無理です」

「そう…、ですよね…」

「シェリスさんはなぜそこまで兄にこだわるのですか?」

「私は小さいころに両親をなくしました。それからは兄に守られ生きてきました。そんな私ができる唯一のことは兄を信じて待つことだけなのです。兄を信じ、いつでも帰ってこられるように待ってないと私は兄に顔向けできません。人は死んだと言っています。でも、兄に受けた恩、忘れません。世界中の皆が兄を忘れたとしても私だけは決して忘れません。兄に何があったのか、それが分かるまで私は生涯この地で祈り続ける覚悟でございます」

「そうですか…。確かに、あなたは自分の意志で時間を止めたのですね」

何を言っているのか分からないシェリスはティーナを見上げながら首を傾げる。

「いいでしょう、写真を下さい。でもこれだけは覚悟しておいて下さい、私たちの目的は兄の捜索ではありません。見つけたとしても救出困難と判断すれば簡単に諦めますし、いざというときは転移で逃げますのでまたここに現れるとも限りませんから」

そう言うとティーナは1人洞窟内へと歩き出したのだった。

「ティーナさん…」

アラルたちはティーナを追うように洞窟内へと入っていくのだった。

「男に二言はないから」

アラルはシェリスとすれ違う際に笑いながらそう声をかけたのだった。

洞窟内へ入るとそこは薄暗くだが、植物が発光している為か全く見えない訳ではなかった。少し歩くと広い場所に出る。そこには変な壁画が並べられていた。

「何だこの落書きは?」

アラルの疑問にフォーティーが答える。

「これはこの世界を創設したと言われる7神の絵ですね」

サランが興味を持ち触っていると何やらその壁画は動くようであった。

「7神?何だそれ?」

アラルの質問にフォーティーが丁寧に答えてくれる。7神とはかつてこの異世界を作ったとされる神々のこと。そして著者は不明だがその7神に関する絵本が存在するのだとか。内容を覚えているフォーティーはとんとんと語りだす。

『悪魔は昔から悪魔ではありませんでした。意思を持たない道具でした。そんな世界に生まれた救世主。それはこの世界を創った神シィアである。シィアは道具であった者たちに自我を持たせ、悪い奴らと戦った。奴らは我々を悪魔と呼んだ。その自我を持った者たちがシィアを含める8匹。一人を失うことになったが悪い奴らを打ち倒した。崩壊したその世界に住むことは出来なかったためシィアは新しくこの世界を創造した。そして、我々を救った英雄たちはその後、世界で7神と呼ばれたのだった。シィア、ベッケル、マース、ミルバ、ガーサン、ゴーファ、ヤッケルの7匹。シィアは創造の力を持ち、皆のために全てを創りだす。ベッケルは記憶操作の力を持ち、悩める者達を救済する。マースは拒絶の力を持ち、絶対なる正義を体現する。ミルバは予知の力を持ち、危険を皆に知らせる。ガーサンは消滅の力を持ち、悪を亡き者とする。ゴーファは死者召喚の力を持ち、死者と生者の橋渡しをする。ヤッケルは復活の力を持ち、皆に哀悼を示す。7神は平和を願い、この世界をいつまでも見守っている。』

「ほう、そんな絵本があるとは。俺はヤッケルってのに会いたいな。復活させたい人がいるんだ」

だが、アラルの言葉にフォーティーは首を振る。

「これはおとぎ話です。誰かが作った物で登場人物は全てその著者が想い描いた架空の人物なんですよ。実際に復活の魔法などは存在しませんし、多分、あったらいいなという魔法をその神とやらにこじつけただけだと思いますよ」

「そうなのか…」

多少残念そうなアラルであった。

「さっ、脱線はこのくらいでいいでしょ。これから地下へ行きますよ。リーダーは私が務めますから、私の指示は絶対だと思ってくださいね」

ティーナはそう言うとフォーティーから転移の札を受け取る。地下1階層、2階層、特に襲ってくるような魔物はいなかった。この地で生活しているだけと言ってもいい、そんな感じだった。

だが、地下3階に降りてしばらくのことだった。

「うっ…」

アラルはその光景に吐き気を催す。至る所に死体が転がっている。中には白骨化した死体まである始末。ただでさえ異様であるにも関わらず、更なる異様なものを目にする。それは死体の山を作りそれを台座として腰掛ける一人の少女の姿だった。

「ようこそ、勇敢なる戦士諸君。君たちの望みは何かな?痛みなき死、それとも苦痛にまみれた死?」

少女の言葉にアラルたちは冷や汗が止まらなかった。というより、目の前の存在が規格外すぎて思うように体が動いてくれない。アラルはかつてローゼルピスニカで出会ったオリジナルを思い出す。あの時は手も足もでなかった。というよりは逃げるという1択しか選択肢がなかったのだった。

「逃げますか?」

ティーナが小声でそう呟く中、フォーティーは首を横に振るのだった。来たばかりではあるがもう既に遅かったからだ。周りは魔獣に囲まれており攻撃は免れない。転移したとしても下手をすれば転移途中に仲間が魔物から引き剥がされ置いてけぼりをくらう最悪な可能性も考えられる。何より、目の前に堂々と座る少女がそれを見過ごしてくれるとは到底思えなかった。

「魔獣を倒す、それが最優先だ。あの少女がどうでるかは分からないから警戒は怠らないように」

そう言うとアラルは一目散に魔獣へと攻撃を開始する。周りを囲む6匹の狼系の魔獣。高さは2mほどであり全長を言えば3から4mはありそうである。大型の魔獣6匹に対しこちらの戦力は3人。1人2匹を相手にしながら尚且つサランをどうするかである。

「あなたの目的は何ですか?何故殺すことしか考えていないのですか?」

ティーナは戦闘をしながら余裕そうに自分たちを眺める少女に話しかける。少女は不敵な笑みを浮かべたまま死体の台座から飛び降りこちらへと歩き出す。

「ここは私の家。勝手に入ったらそれは罪でしょ、死んで当然でしょ」

少女の言い分にティーナは確かにと納得するしかないのだった。だが、それでもこれはやりすぎである。ここを自分の家と主張するのであれば、入り口にちゃんとそう明記すべきだ。これだと、まるっきし罠でしかない。興味本位に入ってくるのを待っていることが目に見えて分かるのだった。

「あなたは何者ですか。新悪魔の匂いではありませんね」

ティーナの言葉に少女は笑ってみせる。ご名答と言わんばかりに。一直線に歩きティーナの元にたどり着いた少女は少しはにかみながらティーナに正解を教える。

「私はラスリー、オリジナルよ」

その瞬間、ティーナは腹部に鈍い痛みを感じる。そして勢いよく吹き飛ばされたのだった。ティーナは1匹の魔獣を既に倒している。まだティーナの割り当てである魔獣は1匹残っていた。

「いつもなら頼りになるスキルなんですが、今はただうるさいだけのアラームでしかないですね」

フォーティーは今しがた割り当てだった魔獣を倒し切ったところであった。フォーティーの頭には地下3階に降りてからずっと危機感知のアラームが鳴り響いている。だが、それは既に覚悟してのこと。だからアラームが知らせずとも死の危険は承知であった。

「バッカ野郎…。余裕ぶっこいて話してんじゃねぇよ。手ぇ動かせ、手ぇ」

アラルはティーナが狩り損ねた魔獣を撃退していたのだった。サランはというと現在チームでは回復担当という立場に立っており吹き飛ばされたティーナに駆け寄り回復薬を飲ませていたのだった。

「すごいね、私たちの新しいリーダーよりは強いみたいだけど。それだけよね」

「何だ、お前は。集団でここに立てこもっているのか?」

アラルの言葉にラスリーはニッコリと笑いアラルをバカにした表情で見下す。

「立てこもってないわよ。住んでるの、ここは私たちの家。勝手に入ってくるあなたたちは死んで当然でしょ」

「ここにいる死体も皆そうだって言うのか」

「そう。家を荒そうとする奴にあなたはどうするの?どうぞ荒して下さいとでも言うの?」

「いや…、それは流石にないが…、それでも知らずに入った者だって中にはいるはずだ。話くらい聞いてやってもいいだろ」

「そうね、聞いてあげる分には構わないんだけど…、ひとしきり戦って敵わないからって助けてくれじゃ、道理に合わないでしょ。勝てると思ったら彼らはいったいどういう行動をとったのかしら」

「自業自得だと…」

「いえいえ、そんなことは言わないわ。弱肉強食――、強き者が正しい、それだけのことよ」

「そんなこと言ってたらお前だっていつかは殺されることになるんだぞ」

「そうね。それも一興、そんな奴がいるのならかかってこい――、戦うだけよ」

「死を…、死を恐れないのか?」

「私たちオリジナルは戦闘種族。死を恐れる者の方が異質だわ。戦いの中で死ぬこともまた本望なのよ」

「俺たちとは考え方が根本的に違うってことなんだな」

「そういうことになるわね」

アラルは今の状況を会話を通し理解したのだった。こいつを倒す以外に道がないと。

「でも、あれよねー。私はテイマーなの、使役する可愛いわんちゃんたちが倒されちゃったとなると、不本意ではあるけど自分で戦うしかないわけよね」

アラルとフォーティーの立ち並ぶ横にティーナが戻ってくる。どうやらサランから受け取った回復薬でダメージは回復したようである。

「3対1だ、お前には不利だと思うがな」

アラルの言葉にラスリーはクスクスと笑うだけであった。怯えの表情などは一切伺えない。どうやら先ほどの話は本当のようだ。テイマーが素手で戦いに挑むなど聞いたことがない。タティネルの時、テイマーの職をとっていたミカルは使役している魔獣が倒されるとあっさり降参したのだ。それが普通なのだ。だが、目の前のラスリーはそうではない、魔獣を操作していたことからテイマーであることに偽りはないだろう。つまりラスリーが異常なのだ。

「さてと、準備はいいですか?有利だと思うのなら安心して戦えるわね。そこからの恐怖は最高のスパイスに変わるってことも私は知っているけど」

そう言うとラスリーは一気に突っ込んでくる。アラルとフォーティーを前衛とし、後方に攻撃魔法に特化した赤魔導士であるティーナを配置する。これがこのパーティーでの最強の形だ。ブロッカーとしてはアラルが受け持つ。これはアラルしか素手での戦闘に特化した職業を持たないためでありラスリーの初撃はアラルが受け止めたのであった。すかさずフォーティーが攻撃に転じる。【操糸】フォーティーは見えない糸をラスリーに絡ませラスリーを拘束しようとする。

「んん…、煩わしい」

一瞬動きが止まったラスリーはこの技を知っているのか、大きく後退し見えない糸を引きちぎるのだった。だが、アラルたちは動きを止めない。フォーティーは接近すると再び【操糸】を発動させる。

「連携がとれていて素晴らしいわ」

ラスリーはアラルたちの戦いに称賛を与えると少し本気を出すことにするのだった。【肉体強化、鋼力】を発動させる。強化魔法で光りだした体を見て、フォーティーとティーナも同じく【肉体強化、鋼力】を発動させる。アラルはといえば、その技を習得しなかったため自力で頑張るしかなかった。

「え?アラルは大丈夫なんですか?肉体強化は大事ですよ」

だが、そんなこと後の祭りだった。アラルは攻撃技を優先して習得したため気づいたときにはもう肉体強化を習得できなかったのだった。

「肉体強化魔法なんていらない。俺にはとっておきの技があるから」

そう言うとアラルは迷いなくラスリーに突っ込む。フォーティーの使った【操糸】の技レベルはせいぜい1か2程度。それは勢いよく飛びのくことで解放されたことから容易に察しができた。それにフォーティーの魔力レベルも2万程度だろうとラスリーは推測する。後衛を務めているティーナに関してもそうだ。魔力レベルは2万程度。未知であるのは未だに何の策も講じず突っ込んでくる混血だけであった。大したことがあるような、ないような、魔力を感じないのだった。故にどれだけの脅威であるかを測りかねていた。

「あまり近寄らない方がいいと思うぞ、そこの白髪」

ラスリーはそう言うと、フォーティーに【吹き飛ばし】という技を使い後方へと吹っ飛ばしたのだった。だが、吹き飛ばされただけにも関わらずフォーティーはかなりのダメージを負っている。

「弱点属性――、私は術属性にはめっぽう強いのだ。逆に私の弱点属性である虫属性はこの世にほとんど存在しない。勝算など端からないように思うのだけれど」

アラルは吹き飛ばされたフォーティーを一瞥すると自身の役割を果たさんとするようにただ前へ、ラスリーへと向かうのだった。フォーティーと代わるようにティーナが前衛へと上がってくる。

「ティーナ!!!」

アラルは驚きのあまりそう叫んでしまった。

「フォーティーさんでは荷が重そうだったので私が代わります」

ティーナは手の平をラスリーに向けると【電撃】を放った。ティーナの放った雷は拡散し咄嗟に離れようとしたラスリーを捉えた。

「くっ、赤魔導士か…」

ラスリーは多少のダメージを負ったようだ。

「くっ、マジかよ…」

そして隣にいたアラルも巻き込まれダメージを負ったのだった。

「…、…、…、すみません…、アラルさん…」

ティーナは申し訳なさそうに小声で呟いたのだった。と、咄嗟に目を見開く2人。

ドカーン!!

ティーナは間髪入れずに次なる魔法【弾砲】を至近距離からブチ放ったのだった。そのビーム砲は赤魔導士の職業ボーナスである範囲拡散を付与しており広範囲に対してブチ抜いた。すかさず後ろへと非難するアラル。

「自爆とか笑えないから…」

だが、おふざけはここまでとして、アラルはラスリーのいるであろう場所を睨む。噴煙立ち込める中、煙が揺らぎそこからラスリーが姿を現す。ティーナに向け一直線のようだ。一瞬反応の遅れたティーナは回避不可能と判断し防御を固める。【鎌風】全てを切り刻む風を付与したラスリーの拳がティーナに向けて一直線に走る。

「ん…ぐうぅぅ…」

ラスリーの拳がティーナに当たる前にラスリーは何故か地面へと叩きつけられた。その不思議な現象に少し混乱する。

「すまんな、終わりだ」

背後から聞こえたアラルの声。だが、確実にレベルに差はある。ここで一撃を食らっても負けるとは思えなかった。だが、その安易な考えにラスリーは自分の手元を見て笑ったのだった。それは自身の手が次第に消えていく光景。体が消滅しているのだった。何故そうなったのかは分からない、だが、現実がそうであることを教えてくれる。ラスリーは負けたのだと。

「何故だ、何故私は負けた?」

白く光を灯し消えゆくラスリーの問いにアラルは自信満々に答える。そう、冥途の土産だと言わんばかりに。

「【マインドショック】という技だ。これは防御力無視の技であり、それに上乗せして【狂】という変態的な肉体強化魔法を使ったって訳だ」

「ははは…」

こいつ、やはりあなどれない方であったか…。とラスリーは思いつつ、そのまま消滅したのだった。

満身創痍な面々。1階層下りただけでこの惨劇、そりゃ、帰還率0%だわ…、と納得するのであった。だが、これで尻尾を巻いて帰る訳にはいかない。自分たちは強くならなくてはならないのだ、そして、洞窟の入り口で待つシェリスの願いも叶えてやらなくてはならないから。

「でも、テイマーの職であの実力ってことはこれから先、無謀ではないですか?」

フォーティーの問いにアラルはため息をつく。

「そもそも帰還率0%のダンジョンに来てるんだ。無謀だが、時間はある。ゆっくり進むしかないだろうな」

アラルは笑いながら、そして意識を失ったのであった。慌てふためく面々。これはアラルが使った技【狂】の副作用である。1回の戦闘につき1度しか使えない技、効果が切れるとすぐに意識を失ってしまうからだった。アラルのこの技は諸刃の剣であった。だからこそアラルはあの時肉体強化魔法は持ってないと答えたのだった。

「さて、一旦帰りましょうか。アラルもこんな感じだし、ここにとどまる方が危ないでしょうから」

フォーティーの提案に一同了解を示すとフォーティーは意識のないアラルを担ぎ、そのまま洞窟から出て行ったのだった。ラスリーは集団と言っていた…、ならばラスリーが倒されたことはいずれ他の面々にも知られるということ。他のオリジナルたちが結託しないといいのですが…。フォーティーはこの先訪れるかもしれな不安に胸を痛めながら、今はアラルが復活するために休むしかないと今は解決できそうにない課題を未来の自分に丸投げするのであった。

「皆さん…」

シェリスは驚きの表情で洞窟から出てきたアラルたちを見つめる。皆ボロボロでありアラルに関しては失神している。

「とりあえず、3階層は突破しました。少し休みたいのですが、宿まで案内してもらえますか?」

ティーナの言葉にシェリスは「私の家に泊まってください」と提案する。「いえいえ…、そんな迷惑は…」とティーナが断ろうとするのだが、「私にできることはこれくらいなので…」と申し訳なさそうにシェリスが言うので、ここはシェリスの言葉に甘えることにしたのだった。


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