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悪魔の契約 アラル=バラシンの章  作者: コロコロコロネ
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5章 正しいとは何か

アラルたちはケルザ島から渡り舟でプラネルへと降り立った。町は相変わらず昼間だというのに酒を飲む暇人で溢れかえっている。サランを救えたということでとりあえずの目的も完全に終わってしまった。サランと2人、アラルはこれからどうすればいいのか、ゆっくり考えることにした。

飯でも食べようと提案したのだが、サランは先にブロードショップに行きたいと言うのだった。悪魔の生命維持は血液だったのだ。そう言えばとアラルは思い出すのであった。

アラルが今までで血を飲んだのは混血になるための1回とそれとは別の1回だけであった。もう大分昔なためどういう感覚だったのかは忘れてしまったが。飲みたくない理由はただ一つ、それは自分は悪魔とは違うという区別的意味合いをつけるためであった。

サランがパックに入った血液を飲む様は何だか単にジュースを飲んでいる子供にしか見えなかった。おいしそうに飲むサランの姿を見て、アラルも少し興味を持ち、少しだけ飲んでみることにした。

一口飲んだ瞬間だった。

体に激震が走る。体の異常にアランは困惑し、飲んでいた血液のパックを地面に落としてしまったのだった。そのまま地面に手を付き悶えるアラルを見てサランが声を掛けるが、アラルは歯を食いしばったままで反応が無い。

そのままサランは心配そうにアラルの側に寄り添うことしかできなかったのだが、少し経つとアラルは正気を取り戻し大きく息を吐き出したのだった。

(何だこれは・・・。力が漲る・・・というか、筋肉が盛り上がったような感覚、違うな。魔力量が跳ね上がったというのか・・・。)

アラルは血を飲むことで起きた謎の現象を理解できずにいたのだった。ただ一つ分かったことは、自分は血を飲むことで更に強くなれるということだった。過去に飲んだ時にはなかった感覚。

激しい動悸に襲われたが、それも何とか落ち着いた。それと同時に全身の感覚が元に戻ってくる。そして背中を摩りながら心配そうな表情をしているサランが横にいることに気づく。

「ごめんな、心配かけた」

アラルの言葉にホッと息をつくサランだった。そして、アラルは再びブロードショップに入り血を買い込んだのだった。

とりあえずの方針はケルザに示された技の習得。この世界で生き残っていく為に絶対に必要なことだからだ。そして、サランもいるのだから、どこか落ち着ける場所に行って寄合所の仕事をしながら鍛錬を重ねていく。

「アラル、何考えてるの?」

小首を傾げながら横を歩くサラン。ヘルジャスの状況を考えれば戻るべきではない。ならば先に進み新しい地へ行こう。

「とりあえずサランの病気も治ったことだし、どこか気晴らしになるところへ行こう。どこか行きたいところはあるか?」

サランはランプ出身であり、この大陸のことはあまり知らなかった。アラルの提案も虚しくサランの行きたいところはないようであった。

地図を開き次なる町を確かめる。ここから先の町はアスバルとなっている。そしてその先にミラバールという国がある。

「ミラバールという国がこの先にあるから、そこに行って、いいところだったら住んでみよう。それでもいいか?」

サランはニッコリと笑い、首を元気よく縦に振ったのだった。港町を出てすぐのこと。そこには人だかりができていた。人ごみのせいで中央で何をやっているのかが全く見えない。

「何をしてるんですか?」

アラルは人だかりの1人にそう尋ねてみる。

「え?知らないのか?これから公開処刑が行われるんだってよ」

話しかけられた男性は普通にアラルに対応する。混血に対する忌避感を示さないのはアラルが香水を体に振り掛けているからだった。それによって悪魔の匂いとやらを纏っているのだった。だが、いささか穏やかではない話の内容だ。聴衆の前で見世物のように殺すなんて、そんなことはアラルからすれば理解不能だった。

「何でそんなことになったんですか。その人はよほど残忍な事をしたんですか?」

「何だ、全く知らないなぁ、兄ちゃん。これは悪魔に対する冒涜だ。処刑されて当然だね」

うんうんと頷いている男性だが、何を満足しているのやら。アラルの質問には完全に答えていないのに、既に話は終わってしまっていた。

と、聴衆が静まり返る。どうやら中央にいる人物がこれから話すようだ。だが、こんなところサランには見せるべきではない。そう考えたアラルはサランの手を引き、ミラバールへと向かうことにしたのだった。

「罪人フォーティー=ロクサムは他人の奴隷である人間を不当にかくまった罪でここに死罪を宣告する」

周りでは、人の物とったらダメだろ、とか、人間を助けようとするなんてあいつ異常だわ、とか口々に呟いているのだった。

「・・・アラル?」

突然立ち止まったアラルを不安そうな顔でサランが見上げる。

「なぁ、サラン。俺は人間だ。悪魔が人間を助けることは間違っていると思うか?」

アラルはサランを助けた。人間が悪魔を助けているのだ。これは間違っていることなのだろうか。困っている人を助けることをしてはいけないのだろうか。

「ううん。優しいことはいいことだと思うんだよ」

「そうか・・・」

アラルはサランの頭をポンポンするとニッコリと笑い、サランを少し離れた物陰に待機させたのだった。

「少し待ってろ」

一言そう言うと、アラルは単身人ごみを掻き分けながら処刑台へと向かったのだった。

処刑の見える位置まで到達するとアラルはふと笑ってしまう。

(悪魔の中にもこんなやつがいるんだな・・・。俺は今まで何も見えていなかったのかもしれないな。)

罪人の男は手錠をかけられ、処刑人2人に体を抑えられている。下を向いた状態で今にも首を切り落とそうともう1人の処刑人がいかつい大剣を振り上げて待機している。

「最後に何か言い残すことはあるか?」

処刑人の言葉に罪人は一言呟いたのだった。

「いや、別に」

そのまま大剣が振り下ろされたのだが、すばやくアラルが壇上に上がり大剣を止めたのだった。困惑する処刑人たちを無視してアラルは罪人に告げる。

「お前は間違ってない」

そう言うと、手にかけられた封魔の錠を外し罪人を解放した。大衆の面前で、しかも囲まれた円の中で無事に戻ろうなんてことは考えてなかった。と、偉そうに座って見ていた男が立ち上がるのが見えた。

「逃げろ。お前は面白い奴だと思うが、奴には勝てない」

その言葉を裏付けているのか、聴衆、そして処刑人までもが一目散に逃げ出したのだ。

「あいつはいったい?」

「あいつはソラン=ダーシン、ヘルジャス王国の4番隊副長だ。奴は危険だ、敵味方関係なく皆殺しにするような奴だからな」

「マジかよ・・・」

「お前には助けられたからな、死ぬ前に面白いものが見れてよかった。ここは僕が食い止めるから、あんたはさっさと逃げなよ」

その言葉にアラルはニッコリと笑った。

「そうか、すまないな。それじゃ」

そう言うとアラルは一目散に逃げ出していったのだった。

ソランと対峙するフォーティー。ソランはフォーティーに哀れみの目を向ける。それもそのはずだ、助けた奴に即座に逃げられたんだから。ここは一緒に戦う状況だろ。そう思ったのだが、相手が悪い。現実的な選択をした相手はバカではないということだ。だが、そう易々と逃げられても困る。即座に目の前の罪人を殺し、追いかける他に無い。

罪人も現状を理解しているのか、抵抗する素振りを見せない。ソランは一思いに殺そうと拳を放ったのだが――。

ボコーン!

フォーティーの後ろから伸びてきた謎の手に殴り飛ばされたのだった。そして目の前の光景に唖然とする。逃げたはずの男に殴り飛ばされたのだから。奴はパックを口にくわえた状態で戦闘している。かなり舐められていると見て間違いないだろう。

フォーティーと共闘しアラルはヘルジャス王国の副長を倒したのだった。初めてだった、そう、悪魔と共に戦ったのは。

アラルはフォーティーに笑顔を向けるとそそくさとその場を後にする。

「共闘も悪くなかった」

そう言い残し。すぐさまサランの元に戻り手を取ると、ミラバールへ向かうために走りだそうとした。しかし・・・。

「アラル、その人は誰?」

サランの言葉にアラルはふと後ろを振り返る。すると真後ろに先ほど別れのあいさつをしたはずのフォーティーが立っていたのだった。

「え・・・」

フォーティーはこのプラネルにはもう住むことができないと言い、一緒に連れて行ってくれと頼み込んだのだった。それと同時にヘルジャスより兵達がこちらに向かってきていた。アラルは自分の分身を作るとそれをプラネルの港へと走らせ、囮とした。

フォーティーも含め、3人はミラバールへと向かおうとするのだがアスバルにて何やら異様に警戒している様子が目に入る。もしかするとヘルジャスから連絡が入り、検問しているのかもしれない。すると、フォーティーがこのまま森を突っ切ってドーネルへ行こうと提案する。

未開の地、そこを踏破して・・・。危険すぎるだろ、とか思ったが、街道を通ればヘルジャス兵に捕まり詰みとなってしまう。自分の修行も兼ねてここはフォーティーの提案に乗っかるしかないと諦めるアラルであった。



                新たなる敵


「王、今回の騒動において官僚達が訴えていた件、どうなさるおつもりですか?」

彼はヘルジャス王国軍1番隊隊長で、王の側近の1人でもあるウスタリ=ゴーズンだった。

「どうするも何も・・・うーん」

ヘルジャス王は深いため息をつきながら、これからのことを考えるのだった。

ヘルジャス王国は大陸最強といわれるフォード=ヤンクム率いるチームジャンナに襲われたのだった。だが、その詳細、フォードに襲われたというのは隠されている。その後に出現したオリジナルの集団に襲われたと公には公表したため事実は曲げられて伝えられたのだった。

フォードの襲撃を公表すれば次こそは娘の命はないと脅されたからだった。だが、先の騒動においてローゼン=マグナだけは殺されなかった。軍の先頭で戦っていたにも関わらず。兵士達の不審が官僚へと伝わり、ローゼンの素性を暴かれてしまったのだった。

ローゼン=マグナは王の隠し子だったのだ。非公認の子を王国内部にかくまうなど非常識にもほどがあると王の権威は今、地にまで落ちていた。

だが、ここで国が割れてしまうようなことがあってはならなかった。甚大な被害を受けたヘルジャス王国、王国が再建するためには皆が手を取りあい迅速に立て直さなくてはならない。でなければ、他国、もしくはその他のミッドラン家のような輩の侵略を許すこととなってしまうからだった。

「決めかねるということであれば、どうでしょう。一時、王国の外に出すというのは?」

「外に出すとは?」

答えの出せない王にウスタリは提案する。

「先ほど報告が入ったのですが、プラネルで4番隊副長ソラン=ダーシンが殺されました。他人の奴隷を盗んだ罪人を処刑しようとしたところ、悪魔の男が乱入し、罪人を解放したのだとか。罪人の名はフォーティー=ロクサム、恐らく助けた悪魔は友人か、それに近いつながりのある者と思われます」

「逃亡者をローゼンに追わせろという事か?」

「そうです。ローゼンは4番隊隊長です、部下が殺されたのです、尻拭いをさせなくてはいけません。それで一時は稼げると思います」

「そうか・・・。私は王である・・・、第一に国を考えなければならない立場な訳だから・・・」

「私たちは王の味方です。ローゼンが帰ってくる頃までにはなんとか官僚達も説得してみせますので」

「そうか・・・。私のせいで・・・、本当にすまない」

頭を下げる王に慌てだすウスタリは即座に頭を上げるように王に進言するのだった。

それから1週間後、王命によりローゼンは部下の仇を討つという名目で逃亡者を追うこととなった。


だが、彼女もまた鈍感ではないため官僚の噂話も聞いていたし、国内では冷たい目で見られていたことも知っている。

そして、恐らく逃亡者を追うという王命は名目であり、本当は国外追放だと思っているのであった。存在してはいけない者、それが公になったのだ。彼女も今の今まで王の娘だったなんて知らなかったのだ。だが、それが事実であるのならば自分がここにいられないのは十分に理解できる。父の為、そして国の為に自分はこの国から出て行かなければならない。

国の秩序を保つ為、王の威厳を保つ為、そして部下の仇をとる為、自分はこれから旅にでなくてはならない。何故だかは分からない、その覚悟はすぐに決まったのだった。

「大丈夫?」

声を掛けるのは1番隊副長であるモリナール=メイジャだった。彼女はローゼンの親友だった。

「大丈夫。変な噂になんて惑わされないわ、私は私の職務を全うするだけよ」

「それならいいんだけど。仕事が終わったら絶対、ぜーったい帰ってきなさいよ、約束だからね」

モリナールはローゼンの手をギュッと握ると顔を覗きこんだ。

「分かってるから。約束、・・・約束ね」

「うん。じゃあ、頑張って、いってらっしゃい」

ローゼンの出立を見送る者はモリナール以外にはいない。それこそがローゼンの考えが正しいということを証明しているようであった。

「いってきます」

ローゼンはモリナールに笑顔を見せるとそのまま逃亡者を追うという旅に出たのであった。


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