4章 強さとは何か
ラクトスの森を抜け、ラカラソルテを抜けヘルジャスへ行く。
一目ケルトに会っておきたいと思ったからだ。そして、ケルトに言いたかった。
俺が間違ってるとは思わないし、後悔もしていない。根底にあるものは変わらないし、絶対に変えないと。だが、もう少し視野を広げてみる必要はあったのかもしれない。俺は今まで周りの全てを拒絶し、前のみを見て歩いていた。いや、走っていたのかもしれない。だから、これからはこいつと――そうサランと一緒にゆっくり歩いてみようかな――と。そしたら、もしかしたらお前の言っていたことも若干は理解してやれるかもしれない――と。
今、ヘルジャスは異常な程の戦火に包まれていた。民衆は逃げ惑い、生と死が入り乱れている。殺さねば、殺される。そんな状況下にあった。
アラルはサランの手をギュッと握り締め、戦火のど真ん中を歩いていく。
「ここは危ない。早く非難しろ」
そう、ヘルジャスの兵士に命令される。
「俺はこの町に用がある。だから、わざわざ来てるんだ」
アラルは兵士の忠告を無視して戦火のど真ん中に向かおうとした。
恐らくケルトはこの争いの中心にいる。
「おい、怪しい奴だ。殺せ」
さっきの兵士がそう叫んでいた。
おいおい、勘違いもはなはだしい。事情も聞かずに殺せだなんて、とんだ野郎だな。
アラルの表情が変わり、さっきの兵士の元へ歩みだそうとしたその時だった。
ギュッ!
アラルは強く手を握られた。
サランだ。
アラルはサランの方に顔を向ける。すると、サランはとても悲しそうな顔をしていた。
向かってくる数人の兵士たち。
アラルはサランの頭をポンポンと撫で、笑いかけた。
何なんだろうな、この気持ちは。こいつは今まで憎しみしか湧かなかった悪魔なんだぞ。子供だろうが、俺は平気で殺してきたんだぞ。なのに、今更・・・。
『あなたの本当の敵は悪魔ではないんじゃないですか?』
ふと脳裏によぎる言葉。
マゴットか・・・。
アラルは目を閉じた。
「そうだよな」
アラルは唐突にサランにそう言った。サランは当然、意味も分からないため首を傾げる。
「いいんだ。お前がいる、今はそれだけで」
アラルはそう言うと、サランを持ち上げた。
「えっ、アラル?」
お姫様だっこをしているアラルはサランに、「しっかり捕まっとけよ」とだけ言い、猛ダッシュでヘルジャスの兵士達から逃げ出していった。
本気で走るアラルについていける兵士はおらず、兵士達は皆、アラルを追うのを諦めた。
そして、アラル達はヘルジャスからプラネルへ。
戦場の火の粉はここまでは届いておらず、とりあえずは一息つける—―という所までは逃げ出せたようだ。
これから何をしようか・・・。
アラルにはこれといって、やりたいことはなかった。
「なぁ、サラン。お前はケルトと一緒にいたんだよな。あいつの旅の目的は何なんだ?」
アラルは丁度いい芝生を見つけ、サランとしばし休憩をすることにした。
「ケルトはフォードを倒すって言ってた。だから私たちもそのフォードの一味であるザキルを見つけるために協力したの」
「そうか。フォードを倒す・・・ねぇ…。あっ、それよりだ。サラン、お前、毒の治療はもう終わったのか?」
アラルの言葉にサランは首を振った。
「じゃあ、薬屋に行って解毒剤をもらうとしようか」
アラルがそう言って、その場を立ち上がろうとするのだが。
ドスン!
アラルはサランに手を引かれ、尻餅をついてしまった。
「どうしたんだ?サラン」
「薬屋へ行ってもダメなの。これは不治の病、もう死を待つしかないんだよ。唯一の手がかりであったザキルも・・・もういない。だからね、私が死ぬまで一緒にいて欲しいの。一人で死ぬのってなんだか怖いから」
サランは笑顔でそう告げる。
ピン!
「いたっ」
アラルは笑顔のサランに向かって鼻ピンをかました。
「何言ってんだ。俺にお前が死ぬのを看取れだと。ふざけんな、俺はお前が死ぬのを絶対許さないからな」
そう言うと、アラルはサランを無理やり立たせ、プラネルにある薬屋へと向かっていった。
アラルは薬屋にサランを見せる。だが、症状を見ても、それを治療できる薬は存在しないとしか応えてくれなかった。
アラルに薬の知識はない。たとえ店の薬を全部買って飲ませたとしても、恐らくサランの病状が回復することはないだろう。
アラルが解決策を見つけるために悩んでいると、「確かではないが・・・」とそう言いながら、薬屋の店主が口を開く。
「プラネルには港がある。それはすぐ近くの島へ渡し舟がでる港だ。そして、その島とはケルザ島と言って、この世界じゃまぁ有名な島だ」
店主はそう告げた。それから、更に詳しい話を聞いた。
ケルザ島は本来、ヘラレスで行われる大会への一般出場権を勝ち取るための闘技場であった。それは俺も知っている。だが、そのケルザという男はなぜか薬に詳しいのだとか。店主も噂でしか聞いていないため、事実である保障はできないと言っていたのだが。
だが、ここで指をくわえて待っているよりは断然いい。可能性があるのであれば、俺はどこへだろうと行く。
だって、そうだろ。笑顔で…、死ぬのを看取ってくれだなんて・・・。そんな人生、俺は認めない。
「ありがとう」
アラルは店主に礼を言うと、サランを連れプラネルの港へと向かっていった。
とても賑やかな港だった。旅の者たちがケルザ島へ行くためにこの港を利用しているからだろう。港付近には飲み屋街らしき通りがあり、昼間っから酒を呑んでいる者までいる。
目的は1つ。
アラルはサランを連れ、島へ行く船の渡し場へと向かった。
「アラル、大丈夫なの?」
「大丈夫?心配してくれているのか?」
「当たり前じゃん。無理はして欲しくないんだよ」
サランは心配そうな顔をしている。
「俺を誰だと思っているんだ?」
「え?誰?」
小首を傾げるサランに対し、自身満々に言ったアラルは次第に頭を掻きだす。
「えーっと・・・、それはなぁ・・・」
アラルはただ勢いで言っただけであって、返答が返ってくるとまでは予想していなかった。
「あれだ。そう・・・、ラクトスに認められた男だ」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。1ヶ月近くあの森で大暴れしたのにラクトスからは何のお咎めもなかったんだ。そりゃ、認められてるって証拠だろ」
アラルは自信満々にサランに言う。
そんなアラルを見て、サランは笑っていた。
船に乗り込み、いざケルザ島へ。
船の中には大勢の人がいた。だいたいが3,4人で輪になり話している。
恐らくはヘラレスの大会と関係があるんだろうな。大会のルールは団体戦で3人1組。だから、この船に乗っている人達はチームごとで乗っているのであろう。
圧倒的不利じゃないかよ。最悪、1対3ってことになるのか。
だが、別に戦いが目的な訳ではない。目的はケルザに会い、サランの病気を治すための薬について情報を聞くこと。まぁ、俺が1人であろうと、別に関係ない話だ。
と、そう思っていた。ケルザに会うまでは。
船が島に着くと、そこには大きな門があった。門の前には1人の男が立っていた。船から降りた者は次々にその門をくぐり、中へと入っていく。アラルも皆に続き門の中へと入ろうとしたのだが。
アラルは門の前に立つ男に呼び止められてしまった。
ここはヘラレスの大会へ出場する者のための試練の場だと。3人以上で来るのが常識だと。そう、男に言われた。だが、アラルはその男にここへ来た目的を告げた。
ケルザに会い、この子を助けるための薬が何なのかを教えて欲しい。それだけだと。
男はそんなアラルの話を聞き入れようとはせず、大会への出場が目的でないのならば、さっさと帰れと追っ払おうとする。
そんなことで、おめおめと尻尾を巻くアラルではなかった。
アラルは喧嘩腰でその男に食って掛かる。
門の前でのいざこざは次第にエスカレートしていった。殴り合っている2人の間に1人の男が割って入る。
「なんだ、この騒ぎは」
青髪で長髪の男だった。だが、殴り合っていた男の次の一言でアラルは争うことをやめることとなった。
「申し訳ありません、ケルザ様」
青髪で長髪の男こそが、ケルザであった。
「この者が宝玉以外の目的でこの門をくぐろうとしましたので、追っ払っておりました」
男は膝をつきケルザにそう告げる。
「そうか。それは苦労をかけた。もうよいからお前は自分の仕事に戻れ」
「はい!分かりました」
ケルザの言葉に門番の男は再び持ち場に戻った。
「さて、これからどうしたものか」
ケルザは腕を組み、アラルを見据える。
「お前がケルザなんだな。頼みがある、この子の病気を診てくれないか」
アラルはそう言って、サランをケルザに見せる。
「ほう。毒に犯されているのか」
ケルザは一目でサランが毒に犯されていることを言い当てた。
「そうだ。プラネルの薬屋ではこの毒を治療できる解毒剤はないと言われたんだ。でも、お前ならなんとかできるかもしれないと聞いて、ここまでやってきたんだ」
「それはご苦労さん。だが、俺は医者じゃない。目の前に病人がいようが、俺の前で死ぬ寸前であろうが、俺には――関係ない」
そう言ってケルザは両手を広げる。
「分かったんなら、さっさと帰った、帰った」
だが、アラルはケルザの言うことを微塵も聞こうとしなかった。
「じゃあ、どうすればこの子を診てくれるんだ?」
「しつこいな。言ってるだろ、帰れって」
そんな2人のやりとりに、サランはアラルの手を引っ張る。
「帰ろ?」
小声でそうサランは呟いた。
「ダメだ!!」
アラルは歯を食いしばりサランの言葉を否定する。
「もう、いいんだよ。アラル」
握っているからだろうか。サランの手の震えがこっちまで伝わってくる。
体が震えた。身震いとかではなく、寒気がしたというか。奈落へと自分が落ちていっている感覚。
――そう、これは絶望感のほかの何でもない。
気づくとアラルの目からは涙がこぼれ、正座し、ケルザの前で頭をついていた。
「お願いします。どうか、どうかこの子を助けてください」
アラルの頭は涙のせいか、濡れていた。ケルザはそんなアラルの姿をじっと見据えていた。
「一応礼儀ってやつは知ってるようだな…。ったく…、しょうがねぇな。名前は何と言うんだ?」
「アラルです」
「ここは、闘技場だ。それは分かっているな」
「はい」
「じゃあ話は簡単だ。薬が欲しい?俺からの答えは1つだ。己の力で勝ち取れ。この世界はな、そういう世界なんだよ。力あるものにしか決定権は有さない。一番下から俺の元まで這い上がって来い。話はそれからだ」
ケルザはそう言うと門をくぐり、中へと消えていった。
土下座しているアラルの上からサランはアラルを抱きしめた。
「ありがとう、アラル」
アラルはサランと共に闘技場の門をくぐっていった。
ローゼルピスニカの図書館で強くなるためには5つある島の内の3つの島をまわり、3つの宝玉を獲得しなければらないと書いてあった。そして、ヘラレスの大会へ出場しその力を鼓舞する。それが、この世界から認められるための一番の近道。
まさか、こんなところに来るなんて夢にも思ってなかった。
だが、アラルは決心していた。この闘技場を勝ち抜いて、ケルザに再び会うと。
闘技場の内容としては、3つの空間の先にケルザがいるらしい。
1つ目の空間にNo3がいてたくさんの挑戦者がいる中その頂点に立った者がNo3と戦えるらしい。しかも1日1回らしい。決まって夕方日の落ちる1時間前。
2つ目、3つ目の空間ともにシステムは同じようだ。アラルは圧倒的不利だった。1対1であるとはいえ、こちらには控えの選手はいない。アラルが負けた時点でこっちは負けとなる。絶対に1人で3人倒さないといけない。
苦戦するもNo3からNo1まで倒し、ケルザの元へ辿り着く。
そしてケルザに対面し言われるのであった。
「普通は仲間がいて3人くらいで挑戦するもんなんだがな。それでもここまでたどり着くのに早くて1週間はかかる。お前って奴は・・・」
アラルは戦えないサランと共にいたため、ボスと戦う以外は毎日1対3の戦いをしていた。
そして、アラルは4日目にはケルザのいる寺院までたどり着いてしまった。
「混血の身でありながら、すごい逸材だな。どうだ、目的がないのならここで働くか?」
ケルザの勧誘にアラルは首を振る。
「俺の目的はこの子の病気を治すことだけだ。他は何もいらない」
「そうか。じゃあ、その子をここまで連れてきなさい」
アラルはケルザに言われた通りにサランをケルザの元へ引き渡す。ケルザはあらかじめ手に持っていた薬をサランに手渡した。
「飲め。そしたらお前の病気は治る」
ケルザにそう言われ、サランは手渡された薬を飲んだ。飲んだ瞬間サランは意識を失い、その場に倒れこんだ。
アラルは驚き、サランに近寄る。
「大丈夫だ。急速に体内から毒を溶かしている。だから、意識を失うのはしょうがないことだ」
「いつ目を覚ますんだ?」
「明日には」
「そうか。お前のおかげだ、恩に着る」
「そうか。恩に着る…か…。じゃあ、俺の願いを1つだけ聞いてもらおうか」
ケルザはそう言うとアラルにある薬を手渡した。
「何だ、これは?」
ケルザはニヤッと笑う。
「体の疲労を治癒する薬だ。これを飲んで今から俺と戦え」
アラルは今日No1との戦いを済ませ、このケルザの寺に来ている。そのため、辺りは暗くここに来ている誰もが明日のために寝ている頃だった。
「大丈夫だ。この建物の下に誰にも迷惑のかからないスペースがあるから」
ケルザは笑いながら、アラルを手招きし、その地下とやらへ向かっていった。
ケルザから手渡された薬を飲むと、見る見るうちに体から疲労が消えていった。
体が一気に軽くなりとても不思議な感覚に襲われた。まるで、宙に浮いているかのようだった。
「さて、準備は整ったようだな」
ケルザは地下へ降りると、アラルと向かい合い、そう告げた。
「しょうがない。サランを治してもらった礼だ、今日はお前に付き合ってやる」
「ふっ、礼儀は常に重んじるべきなんだがな」
そう言うと、ケルザはアラルとの距離を詰める。
「おやおや、中々やるじゃないか」
アラルはケルザの拳を受け流し、顔面に拳を叩き込む。
だが、ケルザはその拳を軽く避けると、アラルの胸倉をつかみ、投げ飛ばした。
【狂】。アラルは瞬時にケルザの危険性を察知し、特殊な肉体強化の魔法を唱える。そして、地面に足がついた瞬間にケルザへと突進した。
だが、まだ距離も詰まっていないというのに、ケルザはいきなりアラルに向かって拳を振るった。
!!!
ブォン!
アラルは真空波のような技を喰らい、後方の壁まで飛ばされた。
「ぐはっ」
「油断したか。世界にはこういう技もある」
「くっ、そうと分かれば・・・別段問題ない」
アラルは立ち上がり、ケルザへ突進する。
「近づかないと攻撃できない。そんなんじゃ、この先あのお譲ちゃんは守れない」
ケルザは両手に魔力を集約させたエネルギーの塊のようなものを作り出す。
「これは破壊玉という技だ。お前にこれが回避できるか?」
アラルは少し口元を緩ませながらも、そのままケルザに突進していく。
「ほぉら」
ケルザはアラルに向かって破壊玉を打ち込む。
ドカーン!、ドカーン!
アラルはヒラリと交わしながら尚もケルザへの足を止めない。
【空間弾圧】ケルザは魔法を発動させ、先ほどと同じくアラルのいる方向に向かって拳を振るった。
「ふっ」
ケルザの技をまともに受けたアラルは、そのまま吹き飛ぶが、途中でアラルの体が爆発を起こした。
「ここだよ」
アラルはケルザの真後ろにいた。
アラルはそのまま拳を振り下ろす。
「「チェックメイトだ」」
2人はそう同時に同じ言葉を吐いた。
【大破壊】
アラルの拳が当たる前にケルザは大爆発を起こした。
「ぐはっ・・・」
アラルはそのまま倒れこんでしまった。
それから、どれくらい経ったのだろうか。アラルが目を覚ますと、そこは元いた1Fだった。すぐそばにはサランが座り、アラルの手を握って寝ていた。外はもう日が昇っていた。
「どうだ?完敗した後の目覚めは?」
「ふっ、最悪だな」
「お前は俺と同じ覇属性だ。だが、わざわざ相手に近づかなくとも戦う技なんてのはいくらでもある。そのことを知り、更なる高みを目指せ」
「なるほどな」
「強さとは常に修練だ。歩くことを辞めない限り、お前の可能性は無限大だ」
「ふっ、分かったよ」
アラルがそう言うと、ケルザはアラルにあるものを手渡した。
「これは?」
「この獣王の寺の宝玉だ。持っていけ」
「あんがとよ」
アラルは宝玉を眺めながら笑っていた。
そして、ケルザに別れを告げ、プラネルへと舞い戻っていった。




