10章 地獄の入り口
それから、アラルは2日間目を覚ますことなく眠り続けた。
ビラの洞窟での出来事は疑問しか残らなかった。ラスリーは仲間がいるとほのめかしていた。だが、歩いて洞窟から帰還したにも関わらず、ラスリーの仲間が追ってくることはなかった。本当は仲間ではないのか?であれば、一体どういう関係なのか?現状分からないものはいくら考えても仕方ないと割り切り話し合いを終わらせる。そして、アラルが目覚めるのであった。
「アラル、大丈夫?」
サランがベットの横の椅子に座りアラルにそう声をかける。アラルは目をこすりながらゆっくりと体を起こし辺りを見回すのだった。
「ここは?」
アラルの問いに側にいたティーナが答える。
「ここはシェリスさんの家です。泊まらせてくれるとのことだったのでそのまま甘えさせてもらいました」
「そうか…」
アラルはベットから出て立ち上がる。と、ドアを開けてフォーティーが入ってきたのだった。
「アラル、起きたんですか。勘弁してくださいよ、あんな変な技があるなら先に言ってもらわないと。こっちもビックリしたんですから」
アラルは申し訳なさそうに頭を下げるのだが、どうしても現在フォーティーが身にまとっているエプロンが気になりいまいち真面目な顔になりきれない。
「それよりも…、何故ハートのエプロン?」
その問いにフォーティーは苦笑いしていた。
「シェリスのエプロンを借りてて…。料理をするときはこれをつけろと強要されたので仕方がなかったんですよ」
アラルは「そうか」とだけ呟き再びベットに潜り込もうとしていた。起きていればいずれ自分もあのエプロンをつけないといけないかもしれないと思うと、起きていることに憂鬱を感じたからだった。
「ダメだよアラル!早く起きて。今後の話をするんだよ」
強制的に布団を剥がされたアラルはそのままティーナとサランに足を掴まれ、そのまま1Fへと引きずりおろされる。後頭部を階段にガンガンぶつけながら、後方から聞こえる「あ…、いっ、いたっ…。自分で歩きます」という声を全無視して。
それからシェリスとフォーティーの作った料理の並ぶテーブルを囲むように皆が席に着く。
「何でフォーティーなんだ?ティーナが料理する方が様になってるだろ?」
アラルの問いにティーナは下を向いた。
「私…、料理できないんです…」
ティーナの弱々しい小声にアラルはティーナの過去を思い出す。ティーナは小さいころからあのタティネルの屋敷に幽閉されていたのだ。料理なんて、やったこともなければ、教えてくれる人もいなかったのだ。
「大丈夫ですよ、今度私が教えますから」
シェリスはティーナに笑顔でそう言った。その言葉にサランも「私にも、私にも」と手を挙げながらお願いしていたのだった。
「それより、何でシェリスは料理ができるんだ?悪魔なんだから飯食う必要ないだろ?」
そのアラルの問いにシェリスは少し悲しい表情を見せる。
「そうですね。昔兄のいたトレジャーチームに混血の方もいらっしゃったんですよ。その方が美味しそうに食べていて私もそれに興味を抱いて――、料理をするようになったのはそれからですね」
「そうか…」
アラルはあまり思い出したくないことをシェリスに思い出させたと思い少々バツの悪い顔をしたのだった。隣でもぐもぐ一生懸命に食べているサランはといえば「これ…、美味しいんだよ、すっごく美味しいんだよ…」と呟きながら、かに玉を全力で口に頬張っているのだった。
「それで、これからどうしますか?また洞窟には行くのでしょうけど、もっと真剣に考えないと次の階層を越えられるとは思えません」
ティーナの言葉にフォーティーも追従する。
「確かに。次の相手を倒したとして、ほかの仲間が簡単に洞窟から逃がしてくれるとは限りませしね。恐らくですが、次の相手はラスリー以上、死にに行く気は僕にはありませんから」
2人の言葉にアラルは「うーん…」と顎に手をあて、考え込む。
自分たちの目的はラスリーたちの家を荒すことではない。あくまでも強くなるための修行が目的であった。それを相手に理解してもらえれば…、とも思うのだが、アラルたちは既にラスリーを倒してしまっている。その段階でこの話をしても、相手には全く伝わらないだろう。どうしたものか…、と困り果てるアラルであった。
「謝ったらいいんだよ」
もぐもぐとかに玉を食い続けるサランがふとそう呟いたのだった。
「許されないだろ、…仲間、…殺したんだぞ」
「でも、しょうがないんだよ。先に手を出したのは相手なんだし。喧嘩両成敗なんだよ」
「でもなぁ…、弱肉強食とか、戦闘種族とか言ってる奴らだぞ…」
そんな平行線を辿るような会話をしていると、「行くんだったらうだうだ言っていてもしょうがないでしょ、サランちゃんの言う通り、まずはやってみるしかないですよ」ティーナはそうキッパリと言い放ったのだった。
「まるでお母さん…」
アラルが小声でそう呟いたのが聞こえたのか、ティーナはアラルをキリッと睨んだのだった。そして、アラルたちは食事を終え、再びビラの洞窟へと向かうためにシェリスの家を出る。と、家の前には男性が立っておりこちらを見つめている。
「何か?」
フォーティーが恐る恐るそう尋ねると男性は深々とフォーティーたちにお辞儀をしたのであった。
「あなたたちがシェリスの願いを叶えるべくビラの洞窟に向かう戦士様たちですね」
「あの…、違います…」
アラルの返答に「へっ…?」と言いながら驚きの表情を浮かべる男性。と、外の異変に気付いたのかシェリスが外に出てくる。
「あ、あの…、この方は私の…私の…」
慌てているシェリスを見かねたのか、男性がシェリスの言葉を代弁する。
「私はシェリスの婚約者です。名をクラサ=ノゴスクと申します。そしてその隣にいる女性はネベリ=ボーク、私の家でメイドをしている者です。この度、シェリスのために私も戦士様方にお力添えをしたいと思い参りました」
貴族と言っても過言ではないその佇まい。
「でも…、死にますよ、多分…」
アラルがバッサリと切り捨てた。予想外の返答にクラサは目を見開き慌て始める。
「ま…、ま…、待って欲しい。私もそれなりには鍛えてきた身、ヘラレス王国にて太鼓判を押された程だ」
「ヘラレス王国?」
アラルたち皆が怪しい目でクラサを見つめる。
「私はヘラレス王族の血筋の者。それは寄合所でも何でも確認してもらえばすぐに分かることだ。別に何もやましいことは考えておらん。ただ、シェリスのために私も少しでも力になれればとここまで来たんだよ」
「そうなのか?」
アラルはまだ信じきれないのか怪しい目を貫く。
「本当だ。頼む、信じてくれ」
そう言って頭を下げるクラサ。基本王族の人間が一般人に頭を下げるなどめったにないことだ。それほどまでにこのクラサという男はシェリスのことを思っているのかもしれない。
「指揮権はこっちだから、絶対に従うってんなら連れてってあげてもいいんだよ」
サランはサラッと王族に対して上からの物言いをする。それに目を見開き焦りだすフォーティーとティーナ。だが、言われた男、クラサは「ありがとう」と、それだけ言うとニッコリと笑ったのだった。
「本当にシェリスのこと愛しているんだな」
アラルは笑いながらクラサに笑顔を向けた。「じゃっ、行くか」アラルがそう言うと、一同はビラの洞窟に向かって歩き出したのだった。
「ネベリ、これでいいのだな」
「はっ、全て上手くいくと思われます」
クラサの小声にネベリも小声でそう返事を返したのだった。
ビラの洞窟に到着した一同。シェリスは入り口に正座するとアラルたちに笑顔を見せ、祈り始めたのだった。洞窟に入るのはアラルたちとクラサのみのようだ。お供としてついてきていたネベリはシェリスとここで待っているとのことだった。
「じゃっ、行くぞ。今日こそ最深部へ」
言ってすぐアラルはティーナからチョップをくらったのだった。「冗談だって…」エヘヘと笑いながらアラルは申し訳なさそうにティーナをチラ見するが、ティーナは「もう…」と言いながらため息を吐いていたのだった。
「私のことはクラサと呼んでもらって構わない。皆も、アラル、フォーティー、ティーナ、サランと呼び捨てにするが構わないな」
「あぁ、それで構わない」
アラルがクラサにそう答えると、皆も了承したのか頷いてみせた。そしてビラの洞窟の地下へと潜っていく。クラサはあくまでもシェリスの兄の救出のためにメンバー入りしているだけなのでアラルたちの指示がない限りは極力戦闘には参加しないことになっている。そして地下3階層へと降り立つ。そこには前と同じように死体の山が放置されている。だが、他に気配はなく、襲う気のなさそうな魔物がいる程度であった。アラルたちは意を決し、地下4階層へと歩みを進める。
目の前には角の生えた赤い髪の女性が地べたに胡坐をかいていた。何やら魔獣と戯れて遊んでいるようであった。アラルたちの足音に気づきその女性は勢いよく立ち上がった。小声でティーナが「恐らくあの人もオリジナルです」とアラルに耳打ちする。
「よぉ、やっと来たな。待ちくたびれたぜ」
男勝りな口調で女性はニコニコしながらこちらを見つめる。
「何を待っていたんだ?」
アラルの質問に女性は「ん?」と首を傾げ、当然とでも言わんばかりに「お前たちだ」と言い放ったのだった。
「ラスリー倒したのお前たちだろ?じゃなかったら、マジ減滅だっての」
女性に体を擦り付けるように魔獣がじゃれている。それを撫でながら女性は無邪気に笑っていた。
「確かに俺たちが倒した。だけど…」
アラルがそう話そうとするのだが、女性は手を前に出しアラルの言葉を制止する。
「いい、いい。別に仲間の仇討ちって訳でここにいるんじゃないんだ。謝る必要はなしだ。じゃあ、俺たちもおっぱじめようぜ」
いきなり殺気を放ちだした女性。それに慌てて先ほどまでじゃれていた魔獣は一目散に逃げだして行ったのだった。「これは…」と予想外の結果に焦るアラル。両手を前に出し「待て、待て」と必死に女性を制止させようとするアラル。
「ったく、何だよ。今ノッてたのによぉ」
そう言って、女性は一旦放っていた殺気を霧散させる。
「お前たちの目的は何だ?俺は殺しあうのが目的で来たわけじゃないんだよ」
アラルは必死に女性に話しかける。
「殺しあうのが目的じゃない?じゃっ、何で来たんだよ?」
女性より返答が返ってきたことに安堵するアラル。「俺たちは武者修行のためここに来た」そう言うと、あらかじめ示し合わせていたのかアラル、サラン、ティーナ、フォーティーは勢いよく土下座したのだった。
「頼む、俺たちを鍛えてくれ!!」
その言葉と行動に女性は唖然とする。そして後ろにいたクラサもまた唖然としたのだった。
「いやいや…、はぁ…、どうしたもんか…」
困り果てる女性。戦意なく立ち向かってこない相手に戸惑っているようであった。その場に座り込み腕組みして何やら考え込む。「うーん、うーん…」考え込みながらチラチラとアラルたちの方を見るが、全く頭を上げる様子がない。いいと言ってくれるまで土下座し続けるつもりらしい。
「あー…、わーったよ、戦意のない奴と戦っても面白くないしな。暇だし、いっちょ稽古とやらをつけてやるよ」
その言葉にアラルたちは安堵の息を漏らしながら顔を上げるのであった。
「だがよぉ、俺一人で皆は無理だ。ちょっと応援呼ぶから…、ってかそうか。お前たちも付いてこい」
そう言うと女性はアラルたちを率いて下の階層へと降りて行ったのであった。そのまま一行は地下8階層までたどり着いたのだった。
「何かよぉ、9階層のドランロンは慣れあうのは嫌だって言ってたからこの5人で修行つけてやるよ」
そこにいたのはオリジナルが5人。見ただけで圧倒されそうなそんな恐怖を感じたのだった。
「俺はリピット、手加減してやるから全力でかかってこい。アラルっつったっけ?」
「私はラスパー、そこのちっちゃいサラン。かかってくるのです」
「わっ…、私はサイコール、ティーナだったか?かかってこい」
「私はガンマン、同じ剣士同士、クラサでしたっけ、かかってきなさい」
「私はアレック、フォーティーとか言ったな。殺す気で来い!」
そして一同は秒殺されました。おわり。
「てめぇーら、弱すぎだぞ。ラスリーに本当に勝ったのかよ?」
リピットは腰に手を当てながら残念そうな顔でため息を吐く。
「ち…、因みにあなたたちはレベルどのくらいなんですか?」
突っ伏した状態でアラルはそう尋ねる。
「えーっとな、アレック以外は大体5万くらいじゃね?」
その言葉にアラルたち全員は立ち上がる気力を失う。「因みにアレックは10万くらいだけどな」ニッシッシと笑いながらリピットはアラルの髪を掴むとそのまま持ち上げたのだった。その行動にアラルは冷や汗を流す。「稽古をつけてやるとは言ったけどよ…、殺さないとは言ってないからな」リピットがそう言うと和やかだった雰囲気が一瞬にして凍り付いたのだった。
今にも泣きそうな顔をしているフォーティーとサラン。「絶対無理です、アラル、代わってください」そう懇願するレベル10万が相手のフォーティー。「わ…、わ…、私なんか1段階なんだからね…、棄権させて下さい」震える声でそう懇願するサラン。「ハッハハ」と笑いながらリピットはアラルを壁に思いきり投げつけたのだった。
「これからは個別訓練だ」
そう言うとリピットは壁にめり込んだアラルを引っこ抜きそのまま先ほどまでいた地下4階層へと戻っていったのだった。その光景を見て絶望するその他4名。
「ま…、間違いだった…」
クラサはアラルたちについてきたことをこの上なく後悔したのであった。
それから何日が経ったのだろうか。日の感覚すらない、毎日が絶望の日々だった。仲間の心配をする暇もないほどに痛めつけられ放置された。
「起きたかぁー、アラル?」
リピットは横に寝転んだ態勢でアラルを見ていた。意識を取り戻すと同時にアラルは飛び上がる。
「いいねぇ」
はにかみながらリピットはよっこらしょと重い腰をあげるように立ち上がる。アラルはリピットが立ち上がる前に攻撃を仕掛ける。それを見てリピットが殺気を放つ。アラルはリピットが攻撃の動作に出る前に相手の背後を取る【背取り】を発動させる。
ボフッ!!
だが、何が何だか分からない。アラルが消えた瞬間、リピットの裏拳でアラルはKOされる。「だぁー、ダメだダメだ」そう言いながらリピットは頭を掻きむしる。そして再びアラルが目を覚ますとそこにはリピットが横に寝転んだ態勢で待っているのだった。
地下5階層、そこにはラスパーがいた。ラスパーは縫いぐるみを抱きかかえサランを凝視している。
「501、502、503、…」
サランは無限に腕立て伏せをさせられていたのだった。
「サランは火属性なのです。宿る悪魔は何なのでしょう、楽しみ、楽しみ」
ニコニコしながらラスパーはサランの腕立て姿を見ていた。「うう…、もう、む…り…なんだよ…」そう言って地面に突っ伏そうとしたその時だった。サランは髪の毛を掴まれ強制的に持ち上げられる。ラスパーの表情は先ほどといたって変わらずニコニコとしている。「やめたら殺すのです」サランは悪寒が走り、ラスパーが本気で言っていることを肌身で感じるのであった。「休憩まであと500、頑張るのです」サランは毎日筋トレ地獄を味わっているのであった。
地下6階層、ここにサイコールがいる。
「私はずっと何もできなかったんです。それが悔しくて、悔しくて…」
「そ…、そ…、そうだな。私も、料理というのは苦手だ。ま…、ま…、まず、食べようと思ったことがないからな」
「そこなんですよ。料理ができるかできないか、女の価値はそこで決まるとアラルさんは言ってたんですよ」
「そ…、そ…、そうなのか?」
サイコールとティーナは地下6階層でサイコールが必死に洞窟の外からかき集めてきた料理の道具や材料で花嫁修業をしていた。
地下7階層、ここはガンマンが暮らす階層。
「ぐっ…、ぐぐっ…」
クラサは全身ギブスのようなバネを取り付けられガンマンが用意した魔物と戦っていた。
「はい、ほら、大剣下げない。いつでも攻撃できる態勢にいないと――、殺されちゃうわよー」
「ぐっ…、ぐぐ」
クラサは辛そうにガンマンに言われた通り大剣を振り上げようと頑張る。だが、妙な違和感にハッとして、ガンマンの方に視線を送る。するとガンマンはこちらを睨みながら今にでも殺しに来そうな殺気を放っている。
「返事は?」
その言葉はとても冷たくクラサは一瞬にして凍り付く。
「はい!」
「小さい…」
「はい!!」
「小さい…」
だんだんとガンマンの声のトーンが落ちていく。次はないと命の危険を感じたクラサ。
「はぁぁあああああいぃぃいいいい!!!!!!」
王族とは思えないほどのみっともない声を限界まで張り上げるのだった。
「よろしい」
それに満足したガンマンはニッコリと表情を戻し引き続きクラサと魔物の戦いを観戦するのであった。「そろそろ重り追加した方がよさそうね」ガンマンの小言に「えっ…、いや…」と呟いたクラサは「は!?」とガンマンにひと睨みされ「…お願いします」と呟くのであった。
「何て?」
「お願いしまぁああああああすっ!!!!!」
「よろしい」
ヘラレス王国にある学校では優秀で飛び級卒業したほどの才能を持ち、壁という壁に当たることなく人生を過ごしてきたクラサは人生最初で最後の地獄を味わっていたのだった。
地下8階層、レベル10万超えのアレックは優雅に紅茶を飲んでいた。
「あら、地震かしら?椅子が揺れてるようだわ」
「す…、すみません…。地震ではなく、僕のせいです…」
「そう。じゃあ」
そう言うとアレックは立ち上がり、今まで貴族ごっことやらで上品に振舞っていた人柄が一変する。
「この椅子にはお仕置きが必要だな!!!」
アレックは鞭を取り出すと四つん這いになり椅子役をやらされているフォーティーの尻をバッシバッシと叩き始めたのだった。気絶するまで打たれ続けたフォーティー。そして目を覚ますとすぐに「お嬢様!!」そう言い再び四つん這いとなり椅子役に徹したのであった。フォーティーは鞭で打たれ続けることによって覚醒した。彼の中で痛み=喜びと変わっていったのだった。
そして、時は流れ、再び皆は再会したのであった。それぞれがたくましく成長を遂げていたのだった。
「じゃあ、卒業試験だ。これから9階層のドランロンを倒してこい!」
リピットのその言葉に他のオリジナルたちも「わぁー」と言いながら拍手を送るのだが、アラルはしかめっ面になりリピットに聞き返す。
「お前の仲間だよな?倒すってどうなったら勝ちなんだ?まさか…、死ぬまで…、とかではないよな」
半笑いになりながらアラルはそう尋ねるのだが、「当たり前だろ、どちらかが死ぬまでだ」と至極当然であるかのようにリピットは言い放ったのだった。「大切な仲間じゃないのかよ!?」アラルは驚きのあまりそう声を荒げてしまう。だが、リピットは首を傾げアラルの言葉に理解を示さないのだった。
「何言ってんだおめぇ?俺たちはお前たちごときじゃ死なねぇぞ」
リピットのその言葉にアラルは「は!?」と声を荒げ、「ラスリーは俺たちが殺したんだぞ!!」と自分たちにも殺せるということを主張する。「ラスリーか…。ふっ…」そうリピットは軽く笑うとオリジナル皆と顔を見合わせる。
「おめぇ、何か勘違いしてるな。俺たちオリジナルが何故人間に血を飲ませて混血にしてるか知らないだろ?」
「そ…、そうだな」
アラル自身も知らない話だった。それどころかここにいる皆が知らないことであった。
「自分の血を飲ませた人間は、俺たちにとっては依り代なんだよ。肉体は死んでも魂は残る。そしてその混血を依り代として復活する。何のメリットもなくて自分の血分けるかってんだよ」
リピットから聞いた事実にアラルは次第に血の気が引いていく。
「俺は…、俺は…」
今自分の置かれている立場の深刻さに気付いたアラルは両膝をつき頭を抱えた。「俺の考えていた未来は…全て…む、…だ?」絶望に染まるアラルを見て皆は何も声をかけてやれなかった。だが、そんな中笑いながらリピットがアラルの肩を叩いた。
「そんなふさぎ込むなって、今生きてんだろうが。可能性は2つだ。お前の血の主が死んでいない、もしくは既に死んだ後にお前が血を飲んだ」
「どういうことだ?」
ふさぎ込みながらもアラルはそうリピットに問いただす。
「依り代なく死んだ場合はな封印石に戻るんだ。誰かが復活させない限りお前の体をのっとろうとはできないってことだ。だが、今生きてて死んだ場合は…、そりゃ、知らねぇぞ」
その時アラルは覇王の寺でのガビルとの会話を思い出した。死んでるような、生きてるような…。そのあやふやな答えの意味はこれだったのかもしれない。自分が血を飲む前に肉体を失ったから、だから。
「まぁ、そんな先のこと考えても仕方ないと思うぜ。卒業試験の相手はドランロン。レベルは10万越えだ」
ニッシッシと笑いながらリピットは皆と共に地下9階層へと降りていく。
「さて、先生、あとはよろしく」そう言ってリピットはアラルたちの方を向き邪悪に笑った。「お前たちの生存率は0%だ。逃げてもいいぞ、その時は俺たちが相手になる」前も後ろも囲まれた全く逃げ場のない状況へと追い込まれたのだった。
と、アラルは目を細める。壁に何かいる…、と。
「私がドランロンです。苦痛を味合わせる気はありません。安らかに眠らせてあげましょう」
「ちょ、ちょ、っと待て」
アラルは咄嗟に叫ぶ。「いいえ、待ちません」そう言うとドランロンはゆっくりと歩き出した。
「い、いや、ね…、そこの壁にくっついてる奴ってこんな奴じゃない?」
アラルはそう言ってドランロンにシェリスからもらった写真を投げ渡した。ドランロンはそれを見て、「そうですが、何か?」と首を傾げる。
「勝ったらそいつを俺たちにくれよ」
アラルの提案にドランロンは目を見開き、何かを閃いたかのようにニッコリと笑った。
「ラスパー、折角ですからこいつの封印も解いてあげなさい。こいつらだけでは物足りないと思ってたので丁度いいです」
ドランロンの進言にラスパーは気だるそうに壁にいた封印された新悪魔を解放した。
「ぐっ、ぐはっ…」
ラスパーによって封印を解かれた男はよろけるように地面に倒れたのだった。ラスパーはその倒れた男を掴むとそのままアラルたちの方に乱暴に放り投げた。
「これで、対等…、な訳がないのです」
だが、ラスパーはそれ以上特に何も言うことはなくリピットたちの元に合流したのだった。
「じゃっ、仕切り直しだ。はい、よーいドン」
リピットの適当な開始のコールに慌てだすアラルたち。
「はっ?まだこの人意識朦朧としてるんですけど…」
ティーナはキョロキョロしながらその場に倒れたままのシェリスの兄をどうすればいいのかに困り果てていた。だが、そんなことどうでもいい。ドランロンはそんなことおかまいなしに歩みを進める。
「シェリスの兄に関しては一旦放置だ。それよりもドランロンとの戦いが先決だ」
前衛にアラルとクラサが出る。「ん?」アラルは現状にはてなマークが現れる。何故前衛の更に前にフォーティーは立っているのか。フォーティーは術属性であり特性を生かすのであれば後衛なはずである。
「フォーティー、下がれ!」だが、フォーティーはアラルの命令を無視する。「大丈夫だから…見てて」そう言うとドランロンの突進を受け止める。その光景にアレックは「ハハッ」と笑った。
「まず1人…」そういうとドランロンはフォーティーに手をかざし毒液で構成されたビーム砲【毒砲】をゼロ距離から放つ。「くっ…」フォーティーは苦しみながらも一人でドランロンの攻撃を受ける。
「やめろ!!フォーティー、早く下がって…、な…、に…!?」
アラルは咄嗟にフォーティーの手を引き後方で回復させようとしたのだが、アラルはフォーティーを見て唖然としたのだった。そう、全ては手遅れだったのだ。アラルは悲しみに涙を浮かべながらそっと手を放し、クラサの元に戻った。
「何故助けない!?」
驚きの表情を浮かべているクラサの問いにアラルは思わず涙をみせてしまった。その状態でクラサも察してしまった。
「くそっ、後は俺たちでなんとかするしか…」
だが、戦闘中であるにも関わらず、アラルはクラサの両肩を正面から掴み「どうしてなんだぁ!」と悔しがるのだった。とち狂ったアラルを振り払おうとするのだが、アラルはクラサに「頼む、今だけは近づかないでやってくれ…」と頼み込むのだった。全く意味の分からないクラサはアラルに問いただす、何が起きているのかを。アラルは涙をぬぐいながらゆっくりと答えた。
「フォーティーは毒を食らって笑っていた。何故か嬉しそうで、変態に覚醒してしまったようだ…」
その言葉にクラサは何も答えてやることができなかった。
「な…、何故…、あなたは毒属性ではないはず」
ドランロンは焦りのあまりフォーティーを後方へと蹴り飛ばす。アラルたちの方へと吹っ飛んだフォーティーはアラルたちに受け止められることなく華麗に避けられ、そのまま最後方にいたアレックにキャッチされる。
「お嬢様…」
そうフォーティーが呟くと、アレックは「服が汚れた」と自分の服にドランロンの毒がついたことに不快感を示す。
「すみません、お嬢様!悪いのはドランロンではなく全て私です、どうか…、どうか私に罰を与えてください」
フォーティーはそう言うとアレックの前で四つん這いになった。それを見てリピットは冷や汗を流す。「お前…、こいつで何してたんだ…?」その問いにアレックはフフフと笑い、「どうだ、私はすごいだろ!」とどや顔で言い放ったのだった。だが、今はドランロンとの戦闘の最中。アレックは四つん這いになったフォーティーを蹴り飛ばしアラルたちの側へと返却する。
「よし!ドランロンに勝ったら、そうだな…、お前に罰を与えてやる!」
アレックの言葉にフォーティーは土下座し、「お嬢様ぁ、ありがとうございます」と心からの感謝の言葉を述べていた。その光景にドン引きするアレックとフォーティー以外の全員。そして今までのことがなかったかのようにフォーティーは真面目な顔で立ち上がると、「アラル、絶対に倒すぞ」と何やらアラルたちとは違う目的のために心を燃やしているような気がしてアラルは怖かった。
「僕はこの修行で【フリー絶対耐性】というスキルを習得した。最初に食らった属性に対して絶対耐性を有するようになるというもの。さっき毒を真っ先にくらいにいったのはそれが理由。もう僕に毒は一切効かない。スキルは【毒無効】に変化したようだ。しかも、お嬢様との特訓でアーマー職レベルまで打たれ強くなっている」
自信満々に言うフォーティーに対してアラルは「ソウナンダ、タヨリニスルヨ…」と心無い返答をするのだった。
「ふふ…、面白い人達。出し物はこの辺でもう終わりでよろしいでしょうか」
そう言い、ニッコリと笑ったドランロンは体から殺気を放つ。危機感を感じた各々がドランロンの殺気とほぼ同時のタイミングで自身に肉体強化魔法を発動させるのであった。【鋼力】は通常の肉体を2倍に強化してくれる魔法であり、【魔力】は3倍であった。クラサは【魔力】をフォーティーとティーナは【鋼力】を発動させたのであった。
アラルとクラサが突っ込みフォーティーはティーナとサランの壁役に徹する。クラサは急に止まると技を同時発動させる。【タラ】【一体化】そしてそのままクラサは剣をドランロンの前で縦に振り抜いたのだった
アラルの背中にサブいぼが立つ。背後より竜を模った水がドランロンに向かって放たれ、アラルの真横を通り過ぎて行ったのだった。咄嗟にアラルは振り返る。確かクラサは剣士の職業だったはず。しかし今行った技は魔法剣士の職業でなければ不可能な技。武器に魔法を宿らせることは剣士職では不可能なはずなのだが。だが、悠長にそんなことを考えてはいられない。アラルもクラサに負けず劣らずと果敢に正面から拳を叩きこむ。
「何!?」
アラルの攻撃を回避しようとしたが何故かドランロンの体は自由が奪われ、動くことができなかった。クラサの攻撃は弾き飛ばしたが、アラルの攻撃はもろに食らいそのまま後方へと吹き飛ばされたのだった。どうやらフォーティーの【操糸】の効果範囲が広がっているようだ。そしてティーナの放った【雷撃】がドランロンを追撃する。と、いきなりドランロンの足元からマグマが吹き出す。
謎の現象にアラルは後ろを向く。すると、サランが笑いながらピースサインを送っていた。唖然とするアラル。ここに来た時には1段階だったサラン。それが、恐らくは3段階まで進化していたのだった。
「お…、お前…!」
驚きのあまりフリーズしているアラルを見て、サランはしてやったりとクスクス笑っていた。だが、それと同時に笑い出したのはドランロンであった。
「流石お前たちの生徒。骨のある奴ばかりが揃えられていますね」
感心したようにドランロンはアラルたちを見据えるのであった。そして静かに自身に肉体強化魔法をかけだす。
【極力】
これは自身の肉体を4倍に強化する魔法であった。
その瞬間、ドランロンから受ける圧が格段に重くなるのであった。ようやく目を覚ましたシェリスの兄は自身の置かれている現状を把握したのか、唖然とする。そして顔見知りを見つけたのか、言葉を発する。
「クラサ…、何してんだ?」
その言葉にクラサは後ろを振り向く。
「ゼクス、久しぶりだな」
だが、ゼクスは本当にクラサなのかを疑うようなそんな目でクラサを見ていた。
「お…、お前…、本当にクラサなのか?」
ゼクスの質問に悠長に答えている暇は、今のクラサにはなかった。だが、仕方ないと返答する。
「そうだ、何か可笑しいか?」
「い、いや…、お前から感じる魔力は俺の知っているクラサとは別人だったから…。そんなに強くなかったはずだと…」
その言葉にクラサは苦笑する。それと同時にガンマンの顔が視界に入ったのか、クラサは急に吐き気を催し、口を押えたのだった。
「俺はクラサだ。強くはなったが、そのことに関してもう話しかけないでくれ。もうあの地獄は…、思い出したくない」
クラサは修行中、王族ではなく虫けら以下として扱われていたのだった。それぞれにつらい思いをし、ここまで辿り着いたんだということにアラルは何やらシンパシーというか一体感を感じるのであった。
「どうやら敵も本気を出してきたようだ。気張るぞ!!」
アラルの掛け声に全員が気を引き締めたのだった。




