1章 死を望む少年
異世界へ放り出されたアラルという青年の物語。ここは悪魔の支配する世界、彼は悪魔を憎み、殺戮の鬼神と化した。全てを壊し、悪魔を根絶やしにすることを心に誓い、彼は突き進む。
—————はずである。 きっと。
この物語は準主人公であるアラル=バラシンの話であり、区分としてはサブストーリー扱いになるので、あらすじ風にサクサクとすっとばしながら進んでいきます。
~オープニング~
俺の名はアラル=バラシン。この世界では人間の血と悪魔の血が混ざっている混血という人種にあたる。俺の性格はいたって真面目である。だが、友人からはよくつぼがおかしいなどと言われたりもした。決めたことは曲げない、それが俺の人としての軸となっている。ゆえに頑固者である。俺も少し前に初恋をした。だが、それは過去の話。彼女はもうこの世にいない。世の中にはそれを割り切れる奴もいれば、そうでない奴もいるだろう。この世界は人間世界とは違う異世界であり、魔法という概念が存在する。可能性は無限大だということ。もしかしたら、すでにこの世にはいない彼女だって再び生き返らせることができるかもしれない。だが、俺の思考はそんなにファンタジーよりではない。だから、俺の彼女への弔いは悪魔の殺戮。この世界を潰す、それだけを今生きがいとしている。残りの俺の短い命をかけて。
~1章 死を望む少年 ~
俺の暮らす町はローゼルピスニカという町である。この町には大概の物が揃っているため生活に不自由することはなかった。職業は請負、さしずめ何でも屋ってところだ。この町にある寄合所とは、困っている人たちが依頼を頼みにくる場所。そこから仕事を請ける。客としては個人から町、他国からの依頼なんかもある。
その寄合所に登録をし、仕事をこなす。こなせばこなすほど信頼がつき寄合所でのランクが上がっていく。上位のランクにいけばそれだけ依頼内容の幅も広がっていくというシステムになっている。
俺は仕事をしていない時はだいたい毎日図書館に通い、この世界について、魔法について学んでいる。
そしてその間にかたっぱしから喧嘩を吹っかけてくる悪魔を倒し、自分の力も上げていった。
ある程度強くなった頃だった。この町で活動を始めた当初の寄合所での依頼の大半は、薬草の採集や行方不明者探し、家屋修繕などであったがそのころに比べると断然依頼の数も増えていき、質も上がった。
「今日も仕事に行くかな」
寄合所での仕事のランクはA~Fまである。Aが高くFが低い。そしてAの上にSというランクが存在しそれが頂点である。このランクはこの世界の全ての寄合所で共有されているためどこの町に行こうが仕事に困ることは無い。ちなみに俺のランクはDである。ぱっとするランクとは言えないが、ある程度仕事をこなせば金に困るようなランクではない。平たく言うと俺もこの世界で平均的な人物の1人であるということだ。
「よう、シャウラ。今日はどんな仕事があるんだ?」
こいつはシャウラ=キマウ、寄合所の受付嬢だ。
残念なことに悪魔殲滅が生きがいなんて言ってる割には、こうやって悪魔と社交的に付き合っている自分がいる。不本意ではあるが、現実問題、自分の実力ではまだそんな悪魔殲滅なんていえる段階にはいない。だからこうなっている訳である。
この町には悪魔と対等な関係にある人間なんて存在しない。ゆえに、人間なんて久しく見ていない。生きるためには悪魔のために働くしかないのである。だが、俺の仕事の大半は悪魔殲滅。社会からはみだした悪魔を狩るという仕事。少なからずは悪魔を減らしているんじゃないかなと、…思ってはいるのだが。
「あっ、アラルさん。おはようございます。今日も朝から気合が入ってますね」
シャウラは両手を握り、気合のポーズを見せる。
「当たり前だ。そろそろこの町も出ようと思ってるからな、その資金を貯めなきゃならない」
「えー、いなくなっちゃうんでしゅかぁぁ。シャウラ悲しいです」
シャウラは悲しい顔をする。
「シャウラ、お前ガッツリ噛んでるぞ」
「えっ?あれっ?そこ拾わないでくださいよ~」
2人は笑いあっていた。
「で、だ。やっぱりここ最近は協力してこなす依頼しかないのか?」
「そうですねぇ、今はほとんどそんな感じですよね。毎日通ってもらってるのにすいません、本当に」
シャウラは頭を下げる。
「いいんだ、シャウラが悪い訳じゃないから。俺が、組んで仕事するのが苦手なだけなんだから」
「う~、そうですかぁ」
俺は今うそをついた。悪魔と一緒に仕事をするのは苦手なんかじゃない。単純に嫌なんだ。俺の受ける仕事は悪魔を殺して終わり。だから手段は選ばない。邪魔する奴らは皆殺しにしている。そんなこと寄合所に報告されてみろ、ランクが上がるどころか、一気に危険人物にまで成り下がりたちまち賞金首という追われる立場になってしまう。だからコンビなんかは組まないし、おれは表の顔と裏の顔を上手く使い分けているんだ。
アラルはもう用がなくなってしまった寄合所から出ようとしていた。
「アラルさん、今度ごはんでも一緒にどうですか?」
「ああ、この町を出る前までには一緒に行こうな」
アラルがそう言って寄合所の出口に差し掛かった所、
ドスン
外から駆け込んできた男性と肩がぶつかり、男性は倒れこんだ。
「大丈夫ですか?」
アラルは男性に手を差し伸べる。
「あっ、こちらこそすまん。それよりだ、それより…」
男性はすぐさま立ち上がると、慌てた様子でシャウラの元に行き、何やら話し始めた。
アラルも少し気になり寄合所を出るのをやめ、シャウラの元に戻った。
「私の娘がさらわれたんだ。家に置手紙があって、娘を返して欲しくば1億e払えと書いてあったんだ。1億なんてとても払えない。誰か助けてくれる人を捜してくれないか?」
男性は息を荒げながら訴える。
「えーとですね、緊急のようですので細かい手続きはとばしたとして、報酬はいかほどの予定ですか?」
慌てている男性と違ってシャウラはいたって冷静に対応していた。
「いくら?え、え、えーっと…」
「1000万で請け負ってやってもいいぞ。拾ったら1割貰えるって言葉もあるしな」
アラルはテンパっている男性に横から口出しした。
「1000万ですか…」
男性は考え込む。
「1000万、持ってるのか、持ってないのか?」
アラルは単刀直入に聞く。
「持っては…いますけ…ど…」
男性は渋い表情をしている。
「お前は娘より金が大事なのか?」
「い、いや、それは違います」
「じゃあ、決まりだ。今から1000万持ってこい。半分を先に渡せ。経費として使う。残りは完了後の成功報酬としてもらうから」
アラルは簡潔に事を進める。
「い、いますぐですか」
「そうだ。じゃないともしかしたらもう殺されてるかもしれないぞ」
「わ、分かりましたっ!」
男性はそう言うと寄合所を飛び出していった。
「ちょっと、アラルさん」
シャウラはジト目でアラルを見る。
「いいじゃん、たまには。なっ」
寄合所の依頼でラベル一家の殲滅の依頼を受けた。
依頼主からの内容はビリー=ラベルが主犯の奴隷商人の一味がいるとのことで、娘をさらわれたので救出し、ラベルを含む一味を殲滅して欲しいというもの。
アラルは調査を重ね、アジトを殲滅させた。
娘や奴隷たちを解放したが、親玉であるビリーがいなかったためビリーの家をつきとめる。
そして、ラベル一家を殲滅させた。家には家族写真があったので、ラベル家には息子が1人いるということが分かっている。だが、息子のマゴット=ラベルは家を留守にしていて、そのとき殺されることはなかった。
だが――しかし、
「ただいま」
アラルが家を去ろうとすると、タイミング悪くマゴットが帰ってきた。
「な…なんで…」
マゴットは両親の死体を目の前に愕然とした。
「お前はここの息子か?」
「…」
「まあいい。子供でも悪魔に違いない。悪魔は敵、死ね」
アラルは拳を振り上げる。
「悪魔は敵?…あなたは、混血ですか?」
「ああ、そうだが」
「僕の母は人間でした」
「悪魔とつるむ人間も敵だ」
「じゃあ、この世にいるみんな敵じゃないですか」
「ああ、俺はこの世界を憎み、潰すためだけに生きている」
「僕だってこの世界を恨んでいます。僕を生んだ両親も恨んでいます。例えどんなに愛情を注がれたとしても。僕の運命は生まれた瞬間から決まっていたのだから」
「お前の恨みなど、俺には関係ない」
「もう自殺する勇気はなかったんだ。だから、…今はうれしい。これでやっと両親を愛せると思うから」
マゴットは笑った。
「じゃあ、死ね」
アラルはマゴットの頭を掴むと、おもいっきし床に叩きつけた。床には大量の血が広がっている。
「…うう」
アラルは子供がもうじき死ぬと判断すると、その場から立ち去ろうとした。
「…あの、すみません、1つだけ言わせてください」
小声だが、かすかに聞こえたその声にアラルは足を止める。
「…ありがとう。あなたは悪魔である僕に幸せを与えてくれた。だからこそ言える、あなたの本当の敵は悪魔ではないんじゃないですか?」
アラルはその言葉に歯を食いしばった。
「くっ、俺だって分かってんだよ。だが、これしか方法がねぇんだよ!」
「よかった」
マゴットは血だらけで変形した顔でニッコリ微笑むと、それまで動いていた体も動かなくなり、それ以降喋ることもなかった。
何が、よかった…だ。死んだら終わりなんだよ。悪魔は人間の敵なんだよ…。
アラルは震える手をギュッと握り締めた。
『僕の母は人間でした』
…俺は人間を殺しちまったのか。…金のため?生きるため?
「ちきしょー!」
アラルが去った後、マゴットの体を光が包みだす。そして、マゴットは完全治癒した。
(自分でも死ねない、他人の力でも死ねない…。力もない混種なのに…。)
マゴットは自分の呪われた人生を恨みながら両親の死体を見て、そうつぶやいたのだった。




