プロローグ
2月下旬。
大分日は長くなったが、もちろんまだまだ寒く、コンクリートの床は足先から冷えてくる。
だか寒さなんか外に比べればともろともしない4人の男がうすぐらい部屋の机を囲んで座っていた。
「では各自…いいですね」
全員の視線が交錯する。
すると赤い帽子の50代くらいの男が
最初に机にバシッと名刺を叩きつけた。
「漁協連の親戚の子だ、餌が安く手に入りやすくなる。」
「ふふ、その程度か、なら勝ったな!」
赤い帽子の男よりやや若く身長のある男が今度は自分の持っている名刺を机に置いた。
「町長の甥っ子だ、また学校のイベントで使って貰える上、補助金もバッチリだ、親は地域振興課にいるから町の紹介にも強い。」
「くっ…、補助金か」
赤い帽子の男は怯む。
その時一番若い男が机をバンと叩いて立ち上がった。
「ふざけんな!なんでコネ重視なんだよ、内容的にはこいつだろ!」
若い男は一枚の履歴書を机の真ん中に投げた。そこには去年インターシップに来て周りからとても評価の高かった青年の写真があった。
「わかってるさ、でも新しい水槽にしたいじゃん」
「うちのノエルちゃんに新鮮な魚を与えたいんだよね」
先程名刺を出した二人が頷き合っている。
「そんな海のものだか山のものだかわからねえやつ採ってどうするだよ。仕事が増えんだぞ」
若い男がイライラしながら言う。
「魚ちゃんは?魚ちゃんの推薦はあるのか?やはり町長の息子だよね」
4人目のずっと黙っていた男に町長推しの男が話しかける。
すると話しかけられた男は目を瞑り不敵な笑い声を上げた。
「私ので決まりだ!」
男は二本の指を振ると質の良い紙で作られた名刺が机の上の他の書類の真ん中に孤を描いて止まった。