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already dark, however still blue ‐血鎖絶ち斬れ不退の純青‐  作者: 浮城燈往
エピソード3 魔女の鳥籠
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9‐3 破綻

 相棒だったはずの男を、自ら手にかけて。死に体であったとはいえ、止めを刺して。

 メリサはその場で、頽れた。まるで、糸の切れたマリオネットのように。

 沈黙。

 実際はいまも建物はがんがんと傾き続けているし、何か大事な部品が外れる嫌な音もするし、それを支えている“青海波”の息遣いさえなんならするくらいなのだが、そのときその場には静寂、という言葉がよく似合った。

 誰も、何もできなかった。言わなかった。

 はっとして、時幸は早梛に駆け寄った。もうここに用はない。ただでさえ当初想定していた期限は過ぎていて、いまは留まり続ければそれだけ危険だ。

 ぐったりした早梛は、自分では動けそうにない。不自由な両腕で、それでも掬い上げるように抱きかかえようとするが、そこで、自らの凄惨さに気がつく。このままでは抱え上げられたとしても、時幸の血がなにかの拍子に早梛の体内に混ざってしまいかねない。

 次に同じような保険をかける際は、半端に血だらけになるよりも腕が切れてなくなるような爆弾にしてもらわねば、などという見当違いかつ物騒な感想を抱く。早梛のすぐ脇に腹ばいになり、彼女に触れるのが包帯の部分になるように注意しながら、背に乗せようとする。早梛も気づいて、どうにか自力で動こうと身じろいだ。が、

「はは、は、あはは、あははははは!」

 突然沸き起こった高笑いに、再び顔を歪ませ地に臥した。

「ははっ、はははは、はははははははははは」

 ひどく胸糞の悪い光景の渦中で、メリサは。

「はは、は、あはははは。ははっ、ふふっ、は、はははははっ」

 籠から出された鳥が飛び立つように清々しく――笑い声を上げた。

 笑い声を洩らすばかりで、その顔は笑っていない。柵を自ら破壊したというのに、未だ何かに囚われているかのように怯えて。或いは指針を失くして呆けて。

 狂ったように笑い続ける。笑いながら、小刻みにステップする。楽しく、というより、病気か障害で止まなくなったような動きで。足踏みのたびに死が溢れる。破壊が撒き散らされる。既に息絶えた骸を、さらに細かく、念入りに砕いていく。名も知らぬ女が巻き込まれ、志緒と混ざり合う。

「ははははは、あはははは。あはは、はははっ」

 ゼンマイが跳んで、予定通りの動きから外れた壊れた人形のように。

 ただひたすら、メリサは踊っていた。

 踊り狂い、笑い狂い、目を見開いて天井、その向こう、どこでもない彼方を見上げて。

「――っ」

 とっさに動けたのは一人だけ。

 突如、部屋の至る所で小さな、無数の閃光が瞬いた。瞬きは次々に連鎖し、止まることのない衝撃を空気そのものに伝えていく。不規則な足踏みと、柱のぐらつきに、床に散らばっていた“フェイルノート”が跳ね上がり、撓み、弾ける。鋭利なワイヤーに絡んでいた血液が飛び散って、花火のように瞬く。

 めちゃくちゃな軌道に、“選別”の分離速度がさすがに追いつかなくなったのだろう。

「ふしゅるぅぁらああああああああああああああああああああ‼」

 “青海波”が嫌々するように身悶える。それに合わせて、地下室の制御が完全に離れた。ドローンの自爆も相まって、それまで無理やり支えられてきた建物の柱も遂に持たなくなる。

「きゃははははは、ははっ、はははははは‼」

 高笑いとともに、粉塵に巻き込まれていく。

 折りたたまれるように、天井が、壁が、柱が倒れ……地下室は埋没した。

「なっ……」

 依然として怪我と出血でままならない脚で、制止を振り切って、琴羽は基地の外に飛び出した。

 目の前で、「不破の時計塔」が、轟音とともに沈んでいく。

 メリサが破壊工作を行なっている、という報告を聞いたときから、こうなることを予想していなかったわけではない。だが、多くの気がかりが残ったまま、それも何一つ解決しないまま、塔はその姿を失していた。

 事前の打ち合わせもなく塔に向かった阿呆のことは比較的心配していない。肩に埋め込んだ爆弾も(琴羽には事後に知らされた)数分前には起動していたはずだが、それでも、場合によっては大したダメージにはなりえない。

 時幸に対する危惧があるとすれば……それは、【魔女】に身柄を奪われた場合だ。今回の目的が別にあったとしても、彼女が《機関》の監視と管理の離れた状態の息子を押さえないとも限らなかった。そうなれば琴羽は時幸を……尊敬する先輩から託された最期の頼みを、自らの手で葬らなくてはならない。いままで、【魔女】の手に落ちた同胞に、してきたように。

 琴羽の心配はむしろ……。

「サナ……」

 ごく一般的な能力と肉体しか持たない、部下の安否だった。

 動揺を噛み締め、歯の間から息を吐く。感情に任せて走り出すほど子どもではない。

「しゅ、主任!」

「すまない、取り乱した」

 彼女を追って基地から飛び出した笹倉に軽く謝罪し、踵を返しかける。

「い、いえ、その……総帥が」

 報告を受けた琴羽は、目を見開いた。


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