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already dark, however still blue ‐血鎖絶ち斬れ不退の純青‐  作者: 浮城燈往
エピソード3 魔女の鳥籠
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8‐4 仁藤と寺坂

 敵地で移動中の会話は危険とのことで、一度回線を遮断する。

 仁藤はしばらく、黙り込んでいだ。黒檀の執務机の上に、こじんまりとした影が映る。

「……続岩。回線を繋げ」

 傍らで控える秘書に、短く命じる。

 続岩は無言で仕事をした。空中に新しくスクリーンが浮かび上がる。各支部や前線基地、「時計塔」とは比べものにならないほどスムーズに、通話の相手が応答した。

『あれっ、総帥。こんなときにわざわざどうかしました?』

 何も心当たりのないといわんばかりの、けろりとした様子で、女が尋ねる。

「そっちこそ、いま大丈夫なのかい?」

『ええ、まあ。てんてこ舞いなのは特務の連中であって、ぼく達はいつも通りのことをただこなすだけなんで』

「そうか」

 仁藤は深く息を吐いた。低く伏せた瞳が、一瞬、薄ら銀がかる。

「まどろっこしいのは苦手だから、単刀直入に言うよ」

 顔を上げる動きに合わせ、黒く澄み渡っていく真っ直ぐな眼差しで、彼は部下を見た。

「君は離反者か? 寺坂」

 常務部部長は視線を逸らし、遊ばせている髪の一房を指に巻きつける。

『つまり、ぼくが現夜部長が死ぬように仕向けた、と。それ疑ってるってことです?』

 質問に質問で返した寺坂に、仁藤はさらに無言で返す。

『……どっちにしろ、答えはノーっす。ぼくは《機関》の不利益になることも、人類の敵に回るようなことも、した覚えがない。これからするつもりもない』

「……そうか」

 仁藤は一度、目線だけを何もない虚空に向け、それから何も置いていない執務机の艶に移した。

「……そうだね。君は有能な部下だ。僕の命令に反したことは一度もない。殺せといえば殺してきたし、見逃せといえば見逃してきた。たとえどんな理不尽であっても、忠実に」

 立ったまま二人の会話を聞いていた監察部部長は、胸中にどす黒いものが蔓延するのを感じた。口調といい、いつも微笑を浮かべているところといい、何よりあらゆる犠牲を許容しつつ、その心中を窺わせないところといい、仁藤と寺坂には似通ったところがある。その歪みまで、合わせ鏡のように。

「……まあ、初めから判ってはいたさ。君には現夜を消す理由がない。組織を裏切るだけの材料も見当たらない。続岩とは違ってね」

「自覚があるなら勘弁してください」

 常時パワハラの餌食となっている男は額を押さえた。

「それは置いとくとして。今回の件、他部署への過干渉はちょっと問題があった。梅島からしたら実に不愉快だったろうしね」

『ああ~、それについては、まあ。こんなときですし、他にできる人がいなかったかな~、って』

「生憎だけど」

 眼鏡の蔓を持ち上げる。

「誰を切り捨てるか決めるのは、僕の仕事だ。どれだけ忙しかろうと、数が多かろうと。それは僕が背負うべきものだ。誰にも――押しつけはし(ゆずら)ない」

 凛とした瞳で、揺るぎなく告げた。

 寺坂はやれやれと肩を竦める。

『つくづく総帥って……損な生き方してるますねえ』

「生まれは選べないからね」

 同意を求めるように、目配せした。続岩家の長男は、ますます頭を抱えるより他にない。

「……で、まあ。それはもういい。ちょっと頼みがあるんだよね」

『はい? ぼくに?』

 続く仁藤の爆弾発言に、さすがの寺坂も絶叫した。

『ああああああああああああああ⁉ どんな無茶振りですぅ⁉ ってか、一分前の自分の発言忘れたんすか⁉』

「暇だって言ったじゃん」

 拗ねたように頬を膨らませた仁藤。しかし目が笑っている。

「じゃあねー。行こ、続岩」

『ちょ、待っ、やめて、ますみちゃんにまたどやされるー!』

 一方的に通信を打ち切り、席を立った。てきぱきと指示を飛ばしていく。

「どうなっても知りませんよ」

 窘めつつも、続岩の指は機械的に動き、指示を纏めて人員に割り振っていく。コネだけで前任者と一期の推薦を勝ち取ったわけでは、けしてないと豪語するように。

四課課長(ほしの)四室室長(みなせ)、それと三室から駿河(するが)伊豆見(いずみ)をドッグへ。彼らを動かしたことで穴が生じる場合は九室と七室でカバー。それが終わったら、僕のコートとコーヒーを用意しろ。それから、」

 一息吐き、仁藤はちらりと部下を見た。長身で姿勢のよい若者を、臍の辺りから順に見上げていき、目を合わせる。

「……一級装備。使わないに越したことはないけど」

「⁉ 正気ですか」

 冷静に人事を捌いていた青年も、このときばかりは、ぎょ、と目を見開いた。

「本気も本気、大マジだよ。……おかしいじゃないか。“青海波”と一体化しているはずの建物の中と、内緒の通信が繋がるなんて」

 男の瞳が、一瞬、ちらりと揺れた。

 秘書もまた、仁藤が言わんとしている可能性に思い至り、戸惑うように視線を揺らす。ほんの数秒だけだった。

「……了解しました。俺の呪具で対処できる範囲だといいんですが」

「問題ない。君はいままで完璧だった」

 仁藤は、に、と笑った。薄ら寒いようで、一抹の爽快感のある笑み。

「護衛として、ね」

「善処します」

 青年は一礼すると、身を翻した。


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