8‐2 人形は踊る
機能性だけを重視した、飾り気のない廊下。向こうまでずっと金属材の並ぶ様は、近未来へと続く栄光のようにも見える。されど、天井近くの壁の両脇に設置された電灯の中には、途切れがちなものも混じり、ここが置き去りにされた場所であることを印象づけた。
その廊下を、一匹の虫が這っている。
そう形容したくなるような光景だった。収監されているときには、身体を鎧う拘束着の上からベルトで締めつけられ、ところどころ節のできた様はまさに芋虫のそれであった。
同じ服でもいまは、“籠の中の小鳥”によってベルトは切断されて可動域は増えているものの、小柄な彼女の丈に合っていない布地が広がり、朽葉を引き摺る蓑虫を想起させる。周囲を旋回する僕達の動きが、さながら獲物が力尽きる瞬間を狙う鳥のようで、余計そう思わせた。
それでも足取りだけは、蝶の翅が生えているかのように快い。
虫のような女はやがて、一つの部屋に辿り着いた。この塔のアンテナを管理する調整部屋の一つだ。辺りを見回し、一番重要と思われる装置に当たりをつける。
「……33~38、プロモーション」
付き従う機械鳥の内の幾つかが、ふわり、とその身を躍らせた。
折れ曲がった脚を空中で広げると、小さなプロペラを回して宙を漂い、装置に着地する。
マイコプラズマのような形状に成った機械は、細長い手足で器用に装置に取りつくと、表面の金属板を止めているボルトを回し始めた。すぐにカラン、と音がして部品が外れる。さらに内部に詰まっていた機械類を掻き出すと、回して外して、粉々にしていく。
壊しているのではない。いまこの塔の設備を傷つけることはできない。故に、分解している。部品一つひとつは無傷のまま、無力化させていく。いまはまだ、内部の精密機器が幾つか分解されているに過ぎない。だが、ドローンのペースを見るに、いずれ大事な柱やパイプに取り掛かるだろう。
この破壊工作ですら彼女の意志ではない。コンピューターがプログラムから外れたことをできないように。
サクリファイスは、クイーンを犠牲にキングを呼び起こすためのもの。同時に、メリサの機能を起こすもの。
先ほど、僅かに監視の眼がなくなった間に、小里川志緒の仕組んだ、些細な抵抗。
彼の……彼と彼女の計画を、横から掠め取った化け物への意趣返し。
化け物の野望を、最も大事な息子もろとも無に帰すための仕込み。
メリサはそのための、部品に過ぎない。
けして志緒は、メリサを掛け替えの利く消耗品のようには扱ってはいない。彼の命令がないと彼女は動けないように、彼女がいないと、彼の世界は羽ばたかない。彼の開発したあらゆるしかけは、メリサが嵌ることで完成する。……丹精込めて製作したインテリアの中央に、座らせるイミテーションの人形のように。
仕事ぶりを見守った女は部屋を後にし、さらに別の管理室に入ると同様のドローンを飛ばした。
拘束服に包まれた姿は芋虫のよう、されど足取りと志は蝶のように軽やかに。
――ただ、蟻のように遂行する。




