7‐3 少女と魔女
「……ほんとに、これ、かな?」
早梛は端末上に表示させたデータと、目の前のコンソールを見比べた。
仁藤や技術班が事前に入手した情報から推測した内容によれば、生体認証装置が設置されているのはこの部屋のはず。室内には他にも、モニターやら操作盤やら置かれているものの、見たところ前々からある設備だ。ここに至るまでに入り組んだ施設の中を散々うろうろしたが、他にそれらしきものも見かけなかった。
しかし、目の前のコンソールは、思っていたよりも大分シンプルな代物だ。
先ほどのトラップで《機関》の職員を始末して、メリサを回収する心づもりだったのだとすれば、小里川志緒に初めから認証装置に辿り着かせるつもりはなかったということか。
「……じゃあ、はじめっから、全世界に暴露するつもりで? 何のために?」
世界に混乱をもたらすため? そんなことをして何になるというのだろう。世界最大級の無差別テロリストでさえ、【魔女】の真実を公にすることを厭う。表立っては快楽殺人犯であったとしても、政治や世論の動き、何より【魔女】の動向には留意しているということだ。
【魔女】も【魔女】で、彼女達なりの目的があるうちは、《ディヴィジョン》の情報を秘密にしておきたいのは人類側と変わらない。
それに、事前情報では“檻姫”は無差別テロは行わない、とあった。この五年間で方針を変えたとしても、人間の組織はともかく、【魔女】を敵に回すデメリットを抱えてまで行うこととは思えない。それこそ、【第一魔女】のように、他の【魔女】を怖れる必要のない存在ならまだしも。
ならば……混乱に乗じて、何がしか次の手を打つつもりだったのか。
「……うぅ」
頭が痛い。考えれば考えるほど痛むから、さっきからちっともよくならない。
「……とりあえず、ここで待って……」
そうすれば、やがて時幸がやってくる。ひとまず合流する、という琴羽の命令に従うことにした。早梛と合流した時幸が、認証を解除した後、どのようなリアクションをとるのかは定かではないが。
「ちょっと、休憩……」
コンソールの傍らで、へたりと座り込む。荷物の中から水とレーションを取り出し、少しずつ頬張った。
「……おいしくない」
贅沢を言える状況でないのは判っている。でも、もしかしたらこれが最後の食事になるかも……脳裏に浮かんだ考えを振り払うように、ぶんぶんと頭を振った。結果、ますます頭痛が酷くなる。
「う~ん」
頭を抱えた、瞬間に。
鋭い音の響きが耳を劈き、彼女の脳をさらに苛んだ。
「――ひぃっ」
思わず目を見開いて硬直する。
聞きたくない、と本能が警告を発する。単に不快とか恐怖とかではなく、臓腑の裏を撫ぜられるような嫌悪を伴う忌避が彼女の全身を包み込む。逃げ出したくなる気持ちを無理やり握り潰してそっと、目を瞑る。拒絶ではなく、神経を集中させるために。
それは悲鳴だった。甲高く、おどろおどろしく、痛々しい。敢えて例えるなら、屠殺されることを察して全力で抵抗するも、数人がかりで加工台の上に押しつけられた家畜のような、命が削られる実体験を伴った恐慌と絶望をそのまま音に落とし込んだような。それはつまり、この声の主は、いままさにそのような目に遭っているということで。
聞くに堪えない切れ切れの叫びは、耳を塞いでも心を揺さぶった。精神を抉られつつも、そろそろと立ち上がる。
「いまのって……」
遠く、だがはっきりと……階上から。
「……っ」
何が起こったのか、知りたいと思った。知らなければ、このまま危険が彼女のいる場所まで降りてくるかもしれない。……いずれ時幸も来る、この場所に。
「……!」
ここから出入口に向かう道の途中に、隠し階段があるはずだ。志緒が早梛を連れ去るときに使ったばかりなので、まだ崩落していないはず。
意を決して、早梛は駆けだした。
一階に降りるまでにあれほど迷ったというのに、上がるのはあっという間だった。
三階に着いた早梛は、音源の方へと恐る恐る近づいていく。
徐々に悲鳴は先細りし、途切れ途切れになり、やがて喘ぐような啜り泣きへと変わっていった。許しを請うだとか、怯え惑うとか、そういう次元ではもはやない。「死にたくない」と思いつつも殺されかけている、諦めることさえ考える余裕のない、もはや抗うことのできない生存本能そのものの雄叫びだった。根源的な欲望に従うのみの涙声は、逆に機械的だ。
そこで気がついた。声量が減ったことにより、泣き声以外にも音源があることに。場違いなその囁きが早梛の耳朶に届く。
それは歌だった。それほど真剣に歌っているわけではないらしく、流れ作業の途中で思わず口を突いて出たかのように軽い調子で口ずさんでいる。それが叫喚の合間に聞こえる不気味。
少女は歩き続ける。仁藤の執務室に向かう殺風景な景色といい勝負の、機能美のみを追求した無機質な廊下。その向こう、一つだけある扉が、獲物を待ち受ける口のように開け放たれている。
数メートル離れた場所まで来て、早梛は止まった。一つ、深呼吸する。
悲鳴を上げている誰か、或いは上げさせている何かを確かめるのが躊躇われる、というより、ただただ相対するのに緊張している。話には何度も聞いた。だが実際に会うことはないと思っていた。いや、早梛自身が、心の内でそれを望んでいた。できれば関わらないままでいてほしいと。自分の人生に……それ以上に、時幸の人生に。
会ったとしても、それで時幸とのいままでの関係が変わるわけでも、まして終わるわけでもない。会うことで早梛の中で時幸への感情が変わるとしたら、それは彼女の不誠実であって、彼の落ち度でも何でもない。
装備を確認する。こちらに向こうを傷つける手段はなく、傷つける動機もない。殺意がないことを表明しつつ、万一の場合は琴羽から渡されたコレで意識を逸らす。向こうは攻撃が通じないことで慢心している。だが、【魔女】とて元は人間である以上、どうしても消せない弱点は幾つもある。
再び、今度は先ほどよりも深く、深く、呼吸をする。
そして開放された扉へと飛び込んだ。
「外側にステイタス、求めないで、内に秘める、自信がだーいじ~♪」
部屋の中に照明は灯されていない。代わりに前方一面にモニターが表示されていて、それらが自発的に放つ光で内部は明るい。逆光で最初、部屋の様子はあまりよく見えなかった。ただ、中央にいる彼女の輪郭だけが、くっきりと浮かび上がっている。
「その背をくらーべ、悩んだぁって、意味なくない? 一抜けしーよう♪」
床に膝をついているのは、十歳に満たないほどの、幼い少女のシルエット。英語と日本語の入り混じった歌を口ずさむその声もまた、高くいとけない。
彼女は抱えたものに手を添えている。胸に抱こうとしているのかもしれないが、小さなその身には余るらしく、膝を伝い、床に広がっている。形状からして布地のようだ。見た目から受ける印象から、早梛の頭に浮かんだのは安全毛布だ。
「大丈夫、みんなと、違ってもいい~♪」
たくし上げて盛り上がった部分を撫でながら、彼女は歌い続ける。
「別々、それぞれっ、だ~から、そう、奇・跡・的!」
「うぁ……」
幼女のものでも、まして息を殺している早梛でもない、第三の呻きが歌詞に混じった。
音源に、目を落とす。
「…………ひっ」
早梛の口から、思わず悲鳴が漏れた。
彼女が普通の高校生であったなら、間違いなく叫び、腰を抜かしていたであろう。だが彼女は、神橋早梛だった。神橋家のあの惨劇を目の当たりにし、すべてのヒトがヒトの形を保ったまま、死なせてもらえるわけじゃないと、知っている彼女だったから。その程度の動揺で済んだ。
言い換えれば……あれを経験した彼女でさえ、ぎょっとせずにはいられない。
布地だと思っていたものは……幼女が抱えているそれは、かつて人だった。いや、呻き声を上げた、ということは、まだ生きているのだろう。あんな形にされながら。
たくし上げた塊だと思い込んでいた部位は頭部で、そこから伝って、胴体、脚へと続いている。ただし、その厚みはそれこそ布のように薄い。本来ならあるべき内臓や骨の厚みが、抜き取られている。
それでも死にきれない人物を膝に載せたまま、彼女は何事もないかのように歌っていた。室内に早梛が入ってきたことにはとうに気づいているはずだが、気にした様子はない。
幼女の形をした怪物は、抱えた頭の中心を……眼球を、直に摩っている。いっそ不気味な歌であればよかったものを、大衆受けするポップソングのためか、この光景をどこか撮影じみた、滑稽なものに見せている。
「……加―速ついて、止・め・られ・な~くてっ」
盛り上がりから察するに、クライマックス。
鋏を扱うのにさえ難儀しそうな短く細い指が、頭部にのめり込んだ。
首を絞められたようなおぞましい不快感が、見ていた少女の喉を駆け巡る。
ずぶずぶと、見る間にも眼窩に沈んでいく。第三関節までずっぽり埋まると、ごそごそと動かし始めた。くちゅり、くちゅりと、人間の内部を探る音が頬を撫ぜる。
「……まーける気、し・ない・はず~!」
歌が絶頂を迎えるのと同時に。
勢いよく引き抜いた。もたらされた光景に対しては大人しい音が一つ、響いた。
「うん、きれい。……これは使えるのら」
抜き取ったばかりの眼球を、光に翳す。見上げたせいで女の顔が明らかになった。
外からの刺激を跳ね返して、きらきら光る左の眼。好奇心に輝かせる子どもそのものの瞳。本来対の目ん玉が嵌っているべき場所には、ぽっかりとした空虚がある。
虫食いのように――いまでもナニカが這い出してきそうな。
深淵のように――欠落が、見つめ返してくる。
手に持った球体を弄る。手の中で傾ける。なくなった視界を、それで補おうとでもいうかのように。
「……うっ」
ずるり、と、抱えられていた人物が滑り落ちた。奪われた瞳は閉ざされ、血が一筋、まろび出た。
「……さて、」
眼球を握り込み、腕を下げる。そして、それまで気にかけなかった少女の方へと目を向けた。
ごくり、と喉が鳴る。恐怖を拭うことはできないが、怯えを悟られれば完全に相手のペースに呑まれる。だから早梛はいま、彼女にできる精一杯の虚勢を張った。
お互いすぐにアクションを起こそうとはしなかった。向かい合った彼女の様子を、よく観察することができる。
いまのところ、迎撃姿勢をとっていない。見下してもいない。それでいて全くの無関心、というわけでもないらしい。一つしかない眼をきょと、とさせて、早梛の動向を探る表情は、見た目通りの児童というより、実年齢である四十代女性の面差しに近い。早梛の方が見守られる子どものようで、いろいろと居心地が悪い。
気を抜けば瞬く間に命を刈られる、現に床に転がっている男は見るも無残な姿にさせられている。多くのことを多くの人から聞き及んでいた。
しかし、こうして直に相対すると、どうにも人物像を掴みきれない。無防備な幼姿と、不釣り合いな大人びた表情。されど眼差しだけは、いたいけな少女のまま時が停まったように無垢。俗な歌を奏でる高い声。人類の敵、《ディヴィジョン》の太源、施設を占拠した手際、一連の行動の目的……何より、「時幸を産んだ人」という事実が、どうしても結びつかない。
「……なんで」
怯えと緊張でひりついた喉を震わせ、無理やり声を絞り出す。
一度、床に転がる人物に視線を移した。早梛ほどではないが、まだ若い男だった。この場にいるということは、ほぼ間違いなく小里川志緒だろう。
「なんで、その人をこんな目に遭わせたん、です。その人があなたに、いったい何をしたっていうの」
「別に?」
だが彼女は、こともなく言い放った。
「坊やにはわたしを傷つけることは絶対にできない。ちょっと礼儀のよくないところはあったけど、こんな年下の子にいちいち怒って虐めるなんて、大人げないことはしないの」
トン、と爪先を鳴らし、立ち上がる。ぱ、ぱ、とスカートの埃を払った。
「人類を憎んでいるわけでもない。どうしても許せないことがあったとしても、それはわたしと当事者の問題なの。代表として一人をいたぶるなんてするわけない」
「……じゃあ、なんで」
「単に、あのままじゃわたしには運べなかったの。協力する気皆無だったみたいだし、思い切ってわたしに必要な部分だけ選り分けたのら。ほら、この大きさなら、いまのわたしでもどうにか持ち上げられる」
そう言って転がった男を、見せつけるように抱え上げた。ボールのように丸い頭部と、そこから伸びる脊髄。それ以外はほぼ皮だけになったヒトの身体は、一部が潰れたバルーンアートのように、ひどく、アンバランスだ。
その光景を見た瞬間……どくん、と、心臓が高鳴った。
「たった、それだけのことで……」
確かに志緒は犯罪者かもしれない。こんな扱いを受ける謂れがないとは、いえないかもしれない。だが……あまりにも、無惨だった。
私怨や八つ当たりであったなら、まだましだった。納得できずとも、理解はできた。
しかし、【魔女】は言うのだ。ただ単に、「邪魔だったから」外した、と。自分ではない他人を、自分に合わせて、都合がいいからというそれだけの理由で、最適化した。
それまで感じていた、恐怖だけの中に、別の感情が刃のように挟まった。それは周囲の怯えや躊躇いを切り開いて、草分けのように彼女の中に確固たる早梛を作り上げる。普段の、本来の、凛然とした眼差しがそこにあった。
「……そうやって、どれだけの人の人生を、踏み躙ってきたの。あと何人傷つければ、気が済むの」
一期の恋人。仁藤の家族。四室前室長。目の前にいる【魔女】と彼女の【眷属】が殺めた人は、とても数え切れるものではない。
【魔女】が《機関》や他の組織、政府のエージェントを殺めたのは、殺害や誘拐を怖れてのことだった。自分や子どもを守るために、やむを得ずのことだった。沢村や皆瀬はそう言っていたし、早梛もいままで、そういう理由があるのだと信じていた。殺すのはやりすぎだったんじゃないかと、結果に納得することはできなくても、返り討ちにした動機については、理解はしていたつもりだった。
だが、それが、裏切られる。
目の前の相手は、人を人と思っていない。圧倒的な力の差があり、手練れの追っ手であっても人類側のエージェントなど簡単にいなし、無傷で逃げおおせるだけの技量と経験がある。にも関わらず、いままで大勢殺してきた。追っ手を見逃せばどこまでも追ってくる、なんて理屈は通用しない。
だって、この女を捕まえられる者なんて、この世のどこにもいないのだから。この女相手に、人類がとれる手段はない。この女はただの人間など歯牙にもかけない。無視しようとも無理はない。にもかかわらず、蟻を潰すようにあっさりと、執拗に殺してきた。自分よりも弱くて、傷一つつけることなど敵わない者どもを。どう擁護しても過剰防衛。
多くの人に育まれ、慈しまれ。ときにぶつかり合い、競い合ったはずの数多の命を。使い捨ての道具のように扱い、ごみ箱に捨てるように殺してきた女に対して、早梛はかつてない憤りを抱いていた。
「ふざけないで。……あなたの都合に、いったい何人巻き込んだの。あなたのせいで、死ななくていい人が、何人死んだと思ってるの⁉」
激情そのままに、早梛は吐き散らかした。つつ、と、僅かに肌の温度が変わる。紅潮した頬に、涙が伝う。
憤り、怒鳴り、勝手に泣き出した少女に、【魔女】はわけがわからない、というように肩を竦めてみせた。
「わたしだって、楽しくてやってるわけじゃないのら。『あの男』じゃあるまいし、必要以上に人を苦しめて喜んだりなんてしないの。……ただ、必要があれば何だって利用するし、障害になるのなら誰であっても排除する。たとえ誰に恨まれようと、わたしはわたしの役目を果たさなくちゃならない。それをあなたに理解してもらおうとは、わたしは思わない」
諦観を含めた淡々とした声で、目の前の女は語った。
事実、早梛が怒ろうが喚こうが、この女には何一つ堪えないし、これからも止めることはない。ちっぽけな小娘一人に、できることなんてない。
だが、どうしても。
「そうやって……」
言わなくては気が済まない言葉だけは、言ってしまった。
「そうやって……そんなことで、時幸くんも傷つけたの! 時幸くんの人生も、散々利用して壊すつもりなの⁉」
「は」
空気が――止まった。
凍った、というのは正しくない。冴え冴えとした緊張とは、無縁の間だった。
【魔女】は、顔色を変えた。
唐突に時幸の名を出されて動揺している顏ではない。
憤りでも、侮蔑でも、無関心でもない。
早梛にも馴染みある表情だった。
それは……よく彼女の母親が、長女を叱るときにしていたもので。
つまり「何を言ってるんだこの馬鹿娘は」と、心底呆れ果てている顔だった。
「……なに、言ってるの」
事実、【魔女】はそう口に出した。
「大事な大事なユキちゃんに、こんなことするわけないのら」
少し考えればわかることじゃない、と、却って彼女の方が毒気が抜かれた様子だった。
「な、」
心乱されそうになるも、歯を食いしばる。
「なら……大事に思ってるのなら。だったら、どうして……時幸くんの眼を、あなたのものと入れ替えたの。彼を手放したの」
湖麻由の言っていることは食い違っている。目的のためなら何だって利用する、といってのけ、事実志緒をこのような姿に変えた。にもかかわらず、時幸に非道はしない、と断言する。だが、そもそも時幸を産んだこと自体、何がしかの目論見によるものだ。生後彼に施した数々の所業を顧みても、その目論見とやらを諦めた様子は微塵もない。
「……確かに、ユキちゃんは愛情の産物として授かった子どもじゃないわ」
静かに、それでも確固とした口調で。
「でもそれは、わたしがあの子を愛していないという証明にはならない」
そう言って、見つめ返した。
「だったら、なんで……」
「そりゃあ、親なんだから、子どもには期待するし、そのために手を尽くしもするの。世間の親だって、本人が辛くても、将来役に立つと信じて、塾やピアノに通わせたりとか、あれこれ世話を焼くでしょう? それともあなたのお母さんは、あなたに、いい成績をとることも、お友達と仲良くすることも、健やかに育つことさえ望まなかった、とでもいうのかしら?」
戦慄した。
この人にとっては、息子に行なった様々な裏切りは、塾や習い事に行かせるような親の期待と同義なのだ。
いっそ脳の隅々まで化け物であればよかったのに。理解できない、と切り捨てることができたなら、よほど楽だったことか。
この人は人間なのだ。時幸が人間なのだから、あたりまえだ。
ただ、彼女は人間にしては多くの選択を迫られ、その度に狂気ともとれる道を選んできた。選ばざるをえなかったのかもしれないし、身体を弄られたことで、とれる選択肢が変わったといえるかもしれない。彼女は……同じ立場だとして、常人が選びたがらない選択肢を採るのに、躊躇いがない。
故に、人間ではあるけれど。
――決定的に、相容れない。
この時点をもって、神橋早梛は判断した。
やはり、時幸に会わせるわけにはいかない。いや、今後一切、彼の人生に関わらせるわけにはいかない。
「……お願い。時幸くんにこれ以上干渉しないで。ただの都合のいい道具じゃなくて、愛情があるなら、かかわらないで」
時幸は散々身体を、心を弄られた。だが、いまならまだ。母親の思惑とは関係のない人生を歩み直すことだって、きっとできる。選別の【魔女】を超える力が時幸にあるのなら、彼の選択が【魔女】の選択を塗り潰し上回れない道理などあるはずもない。
これしか方法はない。だが、素直に聞くとも思えない。
果たして、【魔女】は目を伏せた。
「それは無理なの。だって……」
何か言いかけた、そのとき。




