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already dark, however still blue ‐血鎖絶ち斬れ不退の純青‐  作者: 浮城燈往
エピソード3 魔女の鳥籠
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6‐4 寺坂の思惑

『はいはーい、コトちゃーん』

「寺坂、私の部下にいったい何を吹き込んだ」

 事前に送ったメッセージには、「不破の時計塔」が【第一魔女】に占拠された、という情報しか記していない。時幸を送り込むことを早梛が知ったのは、先ほどの通信が初めてのはずだ。にもかかわらず、彼女は動揺していなかった。そうなることを既に知っていたかのように。

 そしてそれをきっかけに、早梛の言葉には躊躇いが混じりだした。名は体を表すというように、梛の葉のように真っ直ぐな娘だ。嘘や隠し事には慣れていない。まして、交渉のプロで彼女の上司でもある琴羽にはお見通しだった。

 そして、案の定……監察部に探らせたところ、琴羽よりも前に、通信を送っている者がいた。まさかこいつが、と思う人物ではあったが。

『ありゃりゃ、いずればれると思ってたけど、早かったなあ。よくないぞ、公私混同は』

 寺坂の揶揄にも、琴羽は動じない。

「まさか……【魔女】に会え、なんて言ったんじゃないだろうな」

『ふふん』

 心中を掴ませない含み笑いだったが、肯定だと琴羽は判断した。

「なんてことを……!」

 寺坂のふざけたような振る舞いも相まって、琴羽はかなりキレている。

「私の部下を殺すつもりか⁉」

『物騒な言い方はやめてくれよ。ぼくはただ、《機関(そしき)》のためにやったんだから』

「《機関》のために、だと?」

『うん』

 通信の向こうで、同年代の女が肩を竦めたのが窺えた。

『あの【魔女】と対峙して生き残れるとするならば、それは見逃された場合だけだ』

「……だから。私が見逃されたから、早梛も見逃される、とでも言うつもりか? 何の根拠があって」

『違う違う。そうじゃない』

 寺坂は今度は、首を振った。

『【第一魔女】の巣食う場所に赴いた時点で、まず命はない。だったら、どうせなら少しでも情報を引き出すべきじゃん? いまのぼくらは、圧倒的に彼女を知らなすぎる。もちろん、いままで散々調べてきたし、他の【魔女】やテロリストみたいな、彼女を知ってそうな奴からも聞き出そうとしてきたさ。でも、さなちゃんはそういった連中とはちょっと違うだろ? 他にはけして打ち明けないようなことも、漏らすかもしれないじゃないか~』

「ふざけるな。あいつの命を何だと思ってるんだ」

『これまで《機関》は、いや、人類が平等に、【魔女】と【眷属】に対抗するために命を積み上げてきた。彼女一人の犠牲で大勢が救われるのなら、ぼくは悪魔の真似事だってするよ?』

 《機関》で最も死亡率が高いのは特務部四室、【魔女】の追跡班。だが、純粋な死者数でいえば、最多は壁外防衛を担う《メイジャー》……常務部一課だ。常務部の長として、寺坂は、死んでいった仲間のためにも、これから死ぬ皆のためにも、成果を出せ、と強いている。【魔女】と直接相対できる機会はそうそうない。たとえ早梛を使い潰しても、彼女のデバイスには、録音機能が備わっている。【魔女】との会話は《機関》が回収できる。

「……っ」

 命の価値に差がある、だなんてことは言えないし、言いたくもない。琴羽とて、人死にの出る仕事に情を傾けてはいけないということは弁えている。だが、琴羽にとって早梛は、時幸にとっても、替えの利かない人物だ。たとえ自分を曲げてでも、必ず助ける。

「すぐに取り消す。私とおまえは同権のはずだ」

 特務部監督主任。普段は堅苦しい肩書でも、こういうときには役に立つ。

 まして琴羽は早梛の直属の上司だ。寺坂の命令よりも優先される。

 だが、折悪く。

 基地に持ち込んだ通信機器の画面に、一斉にエラー表示が映り込んだ。

「なっ……バッテリー切れ、だと?」

 “青海波”の出現によって、最も現場に近い《機関》の拠点であるこの仮設基地の通信網はパンク状態だった。元々短時間で完了する任務を見越していたため、それほど用意していなかった電力が、間もなく尽きようとしている。

『残念だね。さなちゃんはいい子だ。だから余計残念だとは思う』

 閉じかける通信回線の向こうで遠く、諦めたような寺坂に対して、唇を噛んだ。つ、と、血が滴り落ちて、キーボードに跳ねる。

「サナは、死なないよ」

 しかし。琴羽は、断じた。

「ユキが、死なせない」


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