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already dark, however still blue ‐血鎖絶ち斬れ不退の純青‐  作者: 浮城燈往
エピソード3 魔女の鳥籠
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6‐3 仁藤の策

『確かに君は彼女に対する切り札だ。でも同時に、弱みでもある。八年前、現夜に君を預けたとき……いや、十六年前、僕の研究室から患者(くくりくん)の検体を盗み出したときから、彼女は『何か』を目指していた。本人も認めたしね、「いずれ迎えに行くつもりだった」って。いまはまだ判らないけど、いままでやってきたことを鑑みるに、明らかに人類にとって良くないってことは見当がつく。そして君は、そのための大事な部品だ』

 回線の切れた直後、新しいコーヒーを用意する音と、仁藤の言葉だけが部屋に響く。

 人体実験の末に肉体が変化した【魔女】は、まさしく魔法か呪いのように、男子を産むことができなくなる。【魔女】だけでなく【魔女の娘】も、それらの細胞を利用している《調律の彼女》にも共通する事実だ。

 だが、“選別”の性質を持つ彼女だけは、何らかの例外か反則によって、男子を産み落とした。それが自然妊娠ではありえない以上……そして、面識のない菊織日聖の細胞を利用した以上、何らかの目論見を持って。

『たとえ今回の件がそれとは無関係だったとしても、わざわざ奪い返される機会を与えたくはない』

「俺がそれを、みすみす許すと?」

 通信直後で気が立っていた時幸は、つっけんどんに言った。

『うん。彼女が本気ならね。それに、こう言っちゃいろいろアレだけど、君さ……《機関》に忠誠心なんて持ってないでしょ』

 識っている。理解っている。時幸がいままで《機関》によってどういった扱いを受けてきたのかを。そんな扱いを受け続けた人間が、どのような人間性に育つのかを。この男は……他でもないこの男が、それを命じた。

『現夜にも、僕への個人的な借りはともかく、組織に対する忠誠や愛着なんてなかったからね。まあいい。君の師匠の素行と待遇改善については保留だ』

 続岩が新しく淹れたコーヒーの風味をぶち壊すように、砂糖をなみなみと掬って入れる。

『君の身体に「爆弾」を仕込ませてもらう。特定の時刻までに帰還しなかった場合、或いは蘇生によって無力化された場合、《機関》は【魔女の息子】の存在を公とし、日本政府、《薪の塔》、ロシア秘密警察などと連携して親子を追跡する』

「つくづく信用されてないんですね、俺」

『彼女への対策だ。というわけで、軽々しく死ぬなよ。研究室以外で死なれると、骨も内臓も摘出できないし。死ぬ前にはちゃんと言ってくれよ』

 身勝手で無茶な要望に、さすがの続岩も眉を顰めた。彼が代わりに怒ってくれたから、時幸は何も言わず、結局は受け入れた。

『それと、東海区で保管してる武装を追加で持って行ってもらう』

「要りませんよ、別に。そんなことで時間をとられたくないんですけど」

『いや、必要なんだ。使う使わないじゃなくて、持ち込まれたという事実が』

 仁藤は組んだ指の上に顎を乗せる。

『……それでもまあ、使わないに越したことはないけどね。量産できる代物でもないし。君の第一目標は飽くまで、早梛嬢と無事に帰還すること。最悪、認証装置の解除に失敗して世界中がしっちゃかめっちゃかになったとしても、気に病むことはない。大人達でいくらでも何とかするから』

 そう言って、仁藤はひっそりと笑った。いつもの、本音と実年齢を窺わせない、へらへらとした笑みではない。

 五十に達しようとする、疲れた大人の貌だった。


 そして時幸は椅子に拘束され、然るべき場所で肩口に爆弾を仕込まれた。

 片腕が欠損した場合、蘇生しても元に戻るという保証はなく、再生したとしても暴走の可能性が高い。下手をすればA・R事件の二の舞になるが、現在無人である岐阜県ならメリーランドのような被害は出さないだろう。あわよくば「不破の時計塔」はそのまま粒子に還る。

 時幸が我に返ったとしても、その頃には問答無用で国際指名手配のお尋ね者。なるほど、もしものための保険とはいえ、仁藤の仕込みは容赦もえげつもへったくれもなかった。

「爆破予定の一時間前にアラームが鳴るよう設定しておきました」

 東海区の研究員だという人物はそう言って、時幸に端末を返却した。

「支部長から持出許可は出ています。どうぞ」

 押しつけられたジュラルミンケースをおずおずと抱える。これが東海区で極秘開発された対一型特殊兵装らしい。

「それと、これは総帥から」

 と、仁藤から用意するよう命じられたという拳銃がさらに手渡される。時幸がいつも使っているものより少し小さく、だがほんの少しだけ、重かった。

「使いどきは現場の判断に一任する、とのことです」

 頷いて、J・Rを収めている腰のホルスターに突っ込む。

「さ、そろそろヘリの時間です。緊張していますか?」

「いえ」

 一見、上京した大学生が大勢生活する寮の寮母のような見た目と口調の女性だったが、時幸は最後まで、この人を好きになることはできなかった。

「行きましょう」

 出発の目的を、自分に言い聞かせるように確認する。

「早梛さんを迎えに」


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