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already dark, however still blue ‐血鎖絶ち斬れ不退の純青‐  作者: 浮城燈往
エピソード3 魔女の鳥籠
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5‐2 囚われの少女

 微睡んでいた意識が覚醒すると同時に、亀裂が奔るように頭が痛んだ。

「んっ……」

 薄く薬品と、濃い埃の臭い。瞼を開けると、知らない景色が網膜に映り込む。

「いっ……」

 首筋から頭頂にかけてが重く感じる。それでも徐々に頭がはっきりしてきて、自分がいま、固い床の上に倒れているのが判った。見上げるとすぐそこに寝台が一つある。

 身を起こしかけて、ぱさっと、ブランケットが滑り落ちた。身体の上から掛けられていた? よく見ると、直に床に寝転がっていたのではなく、タオルが敷かれた上に寝かされていた。違和感を覚えて額に手をやると、冷却シートがぬるく貼り付いている。

 場所と状況は把握できたものの、ここにいる経緯がよく思い出せない。

 立ち上がりかけ、途中でよろけて、寝台に手を掛ける。

「え、これ……っ」

 鈍い頭痛も相まって、吐き気がした。というより、吐いた。長時間何も口にしていないためか、酸っぱい唾が僅かに床に垂れ落ちた。

 寝台には、医務室にあるそれのようなシーツは掛けられておらず、金属の面が剥き出しだった。剥ぎ取ったというより、用途のために元からそういう形をしている、というのが一目で判る。寝転がったときに四肢と首がくる位置に錆びついた鉄輪があり、頭の位置には血痕が付着していた。

 ここは医務室ではない。一般的な手術室でもない。

「……きもち、わる……」

 寝台から手を放し、弾みで壁に寄り掛かる。それほど広い部屋ではない。なるべく寝台には目を向けず、きょろきょろと見回した。

 早梛がいるのとは反対側の壁に薬棚が設置されており、中を引っ掻き回したような形跡がある。左手にはぽっかりと開いた出入口。元からそういう造りなのか、それとも扉を取り外したのか。その前に中身を散乱させたウエストポーチが転がっている。見覚えがあった。あれは早梛の持ち物だ。思い出した途端、一気に記憶が戻って来る。

「……そうだ」

 替え玉作戦は失敗、琴羽と分断されて人質になった。そこまでは想定内のことで、早梛も備えてある。捕えられた場合は、密かに待機状態を保ち、後から来るエージェントと連携して志緒を捕縛。そのはずだった。だが。

 志緒に囚われた後、小さな子どもを見た気がする。女の子だ。早梛はあまり詳しくはないのだが、一昔前の子供向け番組のようなアップテンポの歌を口ずさんでいた。

「――っ」

 その子どもが行なったことを思い出し、息を飲んだ。あれはいったい、何だったのだろう。得体の知れない恐怖が、背筋を這い上っていく。

「……」

 息を整える。少なくとも同じ部屋の中には、子どもの姿も志緒の姿も見当たらない。

 次に自分の状態を確認する。手足の縛めと猿轡は外されている。何者かが外し、ここに運び込み、冷却シートを貼り付けた。そういえば、腰辺りにひりつくような感覚がある。引き摺られたらしい。

 そろそろと周囲を警戒しながら、しゃがんで床に散らばる荷物を掻き寄せた。医療パックが開封されている。冷却シートはここから取り出したようだ。

 頭痛の原因と、なぜ意識を失ったのかは、記憶が曖昧で憶えていない。ただ、少なくとも乱暴された形跡はない。それどころか、拘束を外され、介抱された様子さえある。いったい誰が? いや、それはいまは関係ない。問題は、何が起こっているのか、何をすべきなのか。

「落ち着いて……」

 自分に言い聞かせ、深呼吸する。ひとまず、事前の打ち合わせ通りに動くべきだろう。

 腕に巻いていた端末とバングル型メタルウィップ(仮・名称検討中)は志緒に没収されたが、それも予想通りだ。腕を持ち上げて、ポニーテールの根元に触れる。

 カチリという音とともに、髪を結わえていた環が二つに割れて、中から腕時計型デバイスが現れた。次いで、腰のベルトを探って、薄く細く加工された金属板を取り出す。

「あれ?」

 デバイスを起動すると、不在通知が三件表示された。二つは琴羽から。そしてもう一つは、連絡先は元からデバイスに自動登録されているものの、早梛は一度も使ったことのない回線からだった。受信履歴を見ると、琴羽からの二度目の通信の直前に送られている。

 迷いながらも、琴羽のメッセージから確認した。一つ目は、事前の打ち合わせ通り状況に応じて施設内に潜伏しろ、連絡がとれるようなら折り返せ、というもの。ざっと見てから、二つ目のメッセージを表示させる。

 二、三度、読み返して。一旦目を離してから、もう一度見返して。

 ずるずると床に沈み込んだ。解いたままの黒髪が広がり、青い軌跡を描く。

 連絡できるようならすぐ折り返せ、とあったものの、その前に最後のメッセージを開示した。短い文言で、誰にもばれないように通信してほしい、とあった。それ以外に用件はなく、早梛の気持ちを不審と苛立ちに染めていく。

「なんなの……」

 早まる鼓動を自覚し、不安で押しつぶされそうになるものの、結局気になって、スクリーンの通話ボタンに指を滑らした。

 三、四回ほどのコールの後に。

『やあ』

 いつも通りの軽い調子で、相手が通話に応じた。

『いま大丈夫? コトちゃんにはもう電話した? 怪我はない?』

「いえ、まだですが……特に怪我とかはないです。付近にもいま誰もいません」

 開きっぱなしの出入口から廊下に目を遣った。一応、メタルウィップは構えておくことにする。

『そう……状況は、もう伝わってるかな』

「ええ。それで……」

 部屋と心中に充満する緊張と不安を吐き出すように、早梛はその人の名を口に出した。

「こんなときに、いったい何のお話でしょうか。寺坂さん」


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