表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
already dark, however still blue ‐血鎖絶ち斬れ不退の純青‐  作者: 浮城燈往
エピソード3 魔女の鳥籠
33/64

*第5章* 5‐1 交渉準備

 通されたのは、法廷を思わせる円形の部屋だった。

 足元がおぼつかず、ここまで来るのに何度もふらついた。それでも、不調を訴える身体とは裏腹に気が昂っている。休んでいるわけにはいかないし、たとえ休んでいろと言われたとしても、聞き入れるつもりはない。

 一緒に入室した女は、列車旅が気に入らなかったのか、不貞腐れたように明後日の方向に目を向けている。

 ここまで案内した職員が、全員が入室したことを確認して施錠を行なう。同時に、彼らを中心とした擂鉢状の空間に一斉にホログラムスクリーンが投影された。映っているのはどれも幹部の面々ばかり。状況が状況でなければ、いろいろと特殊な立場とはいえ、組織内部でも末端に近い彼が面会できるような人々ではない。この緊急会議の場ではむしろ、彼らの方が異質な存在だ。

 直属の上司の姿を見つけると、向こうは軽く笑みを浮かべた。疲れ切っているためか、いつものような覇気はなかったが、聞いていたよりも元気そうだ。

『……突然の招集にもかかわらず、会議に参加してくれた諸君らには感謝する』

『はいはい。挨拶はいいから、さっさと本題に入りましょうよ』

『うむ』

 真正面のスクリーンの主の言葉を、各支部の最高責任者が遮った。

『確か、四年ぶりか。カンザス以来動きのなかったあの女が、また世界を引っ掻き回しに出てきおった。それも、いま話題の「不破の時計塔」だったか、面倒臭い場所に陣どりおって』

 彼から見て斜め右上の画面に映る中年男性が、勝手に話を進めだした。

『あら、逆でしょう。本人の言っていることが正しいのであれば、今回の一件で位置が特定できたから、わざわざ出向いたんでしょう』

 倦怠感の滲んだ蓮っ葉な声が、左下から男を煽る。

『いまはそんなことはどうでもいいでしょう。問題は、今回のテロに対して彼女がどういったスタンスであるのか。そしていつまで一所に滞在するのか、でしょうね』

『うむ』

 次々に幹部が話を進める。

『我々の……本部も含めた各支部の情報も握られている以上、“檻姫”を看過するわけにはいきませんな。【魔女】とて、【眷属】の真実が民衆に暴露されれば動きにくくもなるでしょう。我々の利害は一致しています。交渉次第では、出向かずとも彼女自身が手を打つ可能性もあるかと』

『ですが』

 と、反対側から比較的若い女性の声。

『占拠したのが【第三魔女】や【第六魔女】であればそうでしょう。しかし、今回の件に限らず、【第一魔女】の目的は不明瞭です。我々の懇願を聞き入れるとも思えません。一応、施設近辺には現地職員を待機させておりますが、一型が相手ではなすすべはないでしょう』

 しばし、沈黙が場を支配する。判っている。実績はあるとはいえ、まだ若造の彼でさえも知っている。

 富良賀湖麻由は……あの女は、【魔女】の中でも規格外だ。何をしでかすか判らない。何を考えているのか理解できない。……太刀打ちできない。

 まして十八年前の【紅鹿事変】、四年前の【カンザスの墓標作戦】における一型の《ディヴィジョン》の凄まじさを思い知っている上層部の面々にとっては、恐怖の対象でもある。

 できるだけ関わり合いにならず、しかし利益は浚いたい。問題は、その責任を誰に押しつけるのか。腹を探り合うように、各々口ではなく目で会話を行なっている。

『では、我々のなすべきことは……【第一魔女】と「取引」を行い、見返りと引き換えに漏洩計画を阻止させること。その上であわよくば新情報を得ること、でしょうか』

 沈黙を破ったのは、彼の上司だった。

『そんなことが可能なのか?』

「はい」

 一斉に視線がこちらを向いた。初めて発言した若造を、皆、怪訝な、或いは好奇の目で見つめている。さざ波のようにしめやかに、ひそひそと話し声も聞こえている。あれが例の……とか、信用できるのか? といった言葉が聞き取れた。会議の様子など我関せず、といった様子だった女が、不愉快そうに少しだけ眉根を寄せた。

 雰囲気に呑まれないよう、彼の師の言葉を思い出し、自分を鼓舞する。唾を飲み込み、凛とした声で、告げた。

「我々には【第一魔女】と交渉するだけの材料があります」

 真正面のスクリーンの男が、真っ直ぐに彼に視線を注いだ。

『……やってくれるか』

「はい」

 自身を見つめる上司達に向けて、揺るぎない眼差しを返す。

「やってみせます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ