1‐5 過去の歌声
「……It`s all dark in the afternoon, but when I look up, the stars are full, like a jewel box. I feel happy, so I and you will dance……」
「好きなの、その歌」
「別に」
事実、問いかけられて中断したその歌を、再び口ずさむことはなかった。
「ねえ」
「なあに」
「歌ってよ」
「そう……何がいい?」
「何でもいい」
先ほどの彼女よりもずっと投げやりな言葉に、思わず肩を竦める。会話するのに早くも飽きたのだろうか。
「何でもいい、だとちょっと困るの」
「じゃあ……」
考え込む顔を覗き込んで、彼女は密かに笑った。この世で最も愛おしい存在を、確かめるように。
「……“Anything Goes!”」
「……」
あまりにも予想外のチョイスに、さすがの彼女も顔を強張らせた。
それから、困ったように頬を掻いて。
「うーん……ごめん、よく知らない」
「そうなの?」
小首を傾げる彼を見ていると、いたたまれない気持ちになる。こんな気持ちになる日が来るなんて、かつての自分は思いもしなかった。
人生に絶望し、世界を灰色にしか見れなかった彼女に、彼は希望を与えてくれた。彩をつけ、生きる意味を持たせてくれた。
彼女を一喜一憂させているとも知らず、相手は「しょうがないなあ」と肩を竦めた。
「じゃあ、歌ってあげるから、憶えてね」
「ええ」
そう言って歌いだした彼を、彼女は温かく見守る。
出会えてよかったと、その幸福を噛み締めるように。




