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第7話 偽りの妖


 天邪鬼。


 それは日本古来から存在する有名な妖怪の一匹であり、現代社会でもわざと思っても居ないのに周囲と逆の意見、もしくは思っている事と逆の事を言う"人間"に対して指す代名詞でもある。

 そんな有名妖怪天邪鬼は、日本各地にその逸話が存在している。

 小柄なものから大きなものまで姿形は様々であり、姿を化けたりすることもできる。話によっては大妖怪と認識されてもおかしくない。

 更に歴史を辿れば神話にも行き着く由緒正しい? 妖怪である。


「天邪鬼……ですか」


 琴音はポツリとそう呟いた。

 その呟きが聞こえた天邪鬼は、



「おう。天邪鬼だ。

 そういうお前は俺様が封印される前でもなかなか見ない才能の持ち主のようだなぁ?

 見ていたぞ。一瞬で服を着替える様。そして、式神を操る技能。

 お前を喰えばどれだけの力を手に入れることができるのだろうなぁ?」



 ニタニタと笑いながら涎を垂らす天邪鬼。



「ひ、ひぃぃ……」


 その様子を見て叶は恐怖に染まり、立っていることもできずに床へと座り込んでしまった。

 そんな天邪鬼の姿など気にも留めないといった感じの琴音は語り始めた。



「今回の騒動。大体予想は付きました。

 言葉を操り、行動を操り、人を不幸にしていく。

 確かに天邪鬼の仕業といっても納得してしまうでしょう。

 実際、私も狐妖怪と共に候補に入れていましたからね」



 ウンウン。と頷きながら言う琴音。




「ぐひひひひ。

 そうだとも。ここにいる正章が、俺様の封印を解いてくれてなぁ。

 その感謝の気持ちとして、こいつの願いを叶てやったのさ!」



 嬉しそうに語る天邪鬼。




「な、なんで……?」



 叶はとっさにそんな質問をしてしまった。

 怖かったのだが、疑問の感情の方が打ち勝ったのだ。




「なんで……? ぐひひひひ。小娘。お前、鈍感だなぁ。

 そんなの理由は一つしかないじゃぁないか」



「お、おい!?」



 慌てて天邪鬼を止めようとした加藤。

 だが、



「ぐひひひひひひ。正章はなぁ、お前に惚れていたんだとさ。

 同じ部屋で学んでいた頃からお前を秘かに慕っていたのさ!

 だが、お前は別の部屋で学ぶことになってから、嫌がらせをされていたそうじゃないか?

 ぐひひひひ。だから正章はお前を助けようと、俺に願ったのだ!!」



「い、言うなぁぁぁぁ」



 消え入りそうな声で顔を真っ赤にさせながら加藤は天邪鬼に言った。

 しかし、秘密を暴露した天邪鬼はとっても満足そうである。


「なるほど。それで叶ちゃんを苛める人たちを操り、叶ちゃんの生活環境を改善させようと努めた」


「その通りだ。どこの所属かは知らぬ巫女よ」


「ふむふむ。理由はよくわかりました」


 うんうん。と、腕を組み頷く琴音は、


「……あれぇ? 動機が不純な目的じゃないですね」


 と、難しい顔をする。


「ふんっ、当たり前だ。これは封印されていた俺様を助けてくれた正章に対する礼だからな」


 何を当たり前なことを。と言うように、天邪鬼は鼻を鳴らす。


「お代として、正章君の魂や他の命を頂くとか? 例えば叶ちゃんのとか……」


「ひっ」


 琴音の質問に恐怖した叶は悲鳴を上げる。


「馬鹿か貴様は。正章や叶とかいう正章の想い人の命を頂いては礼にならんではないかっ!

 先ほどから言っている通り、これは俺を封印から解いてくれた礼だ!」



「そうですか……。困りましたね」



「何?」



 首を振る琴音に対し、不快感を表す天邪鬼。

 威嚇をするためか半開きになった口の中は真っ赤であり、普通の人間ならば恐怖を誘うだろう。

 実際叶はガタガタと震え、今にも気を失いそうになっていた。


「いえ、貴方のやっていることは確かに苛めを無くし、叶ちゃんの生活をより充実なものへと変えました……。

 討伐しようにもその気が無くなってしまいそうな理由です」


「えっ?」


 正章は琴音がまさか妖怪との実力差ではなく、その行動理由から討伐を諦めるとは思っていなかったので、驚いていた。


「ふんっ、なんだ……。問題が無いのであれば別に良かろう。これからも俺様はそこに居る娘を傷つけようとする輩は操って阻止するだけだ」


 拍子抜けした様子で天邪鬼はそう言った。

 だが、



「あぁ、でもやはり貴方は討伐しなくてはいけませんね……」


「なんだと?」


 一度は天邪鬼との対峙を取りやめようとした琴音が、すぐに再度敵対しようとしている事に苛立った天邪鬼が聞き返す。


「ほら、貴方って人を操ってはいますが、感情を今も生かし続けたうえで、操り続けている。

 これが今回の気絶事件を引き起こしているんですよねぇ……。

 このまま頻繁に気絶をさせていく状況を貴方が作るのであれば、きっと叶ちゃんのクラスの生徒達は精神が衰弱していき、最後には死んでしまいます。

 つまり、貴方の術は中途半端なんですよ」



 天邪鬼にも負けない鋭い眼光で、琴音は睨んだ。




「貴様……。まさか……」



 その様子に天邪鬼はたじろぐ。



「えぇ、気付いてましたよ。割と最初から……。

 天邪鬼は感情や精神を操る妖怪……。ですが、あなたが操っている人達は、みんな感情や精神。つまり心まで操ってはいないでしょう」




「心まで操っていない?」



 反応したのは叶である。

 心を操っていないのであれば、先ほどの説明と食い違いが発生するのではないだろうかと考えた。

 先ほど琴音は叶が苛められないようにみんなを操ったと推理し、それを天邪鬼は肯定した。感情を操らなければそんな事は不可能なのではないだろうか。



「はい。この妖怪は人の心を操る力までは持ってはいなかったのでしょう。

 できるのは体を操るまで。この学校の生徒達を操り人形にし、叶ちゃんと仲良しごっこをさせたんですよ」



「えっ……」


 にわかには信じられない話だ。



「で、でも言葉や表情は……。体を操られていたならば、常に苦しんでいるはずじゃ……。

 そんな様子は見られなかった。

 倒れた皆は笑顔で……私に話しかけてきて……」



「単純な話ですよ。声帯も表情筋も感情以外を全て操っていたんです。

 ここからは辛い話になりますが、きっと気絶をした人達は、叶ちゃんと仲良くしようと言葉や体は動くのに感情はそれに対して抵抗していたり恐怖や怒りを感じていた事でしょう。

 つまり……叶ちゃんを嫌っている人ほど、過度なストレスにより倒れてしまったのではないでしょうか?」



「そ、そんな!?」



 そんな恐ろしい事があっていいものだろうか。

 一緒に話したくもなく、行動もしたくない相手が自分と共に行動をし、限界に達したら気絶していく。

 とてもじゃないが気分が悪い。

 そんな事実を聞かされ、叶は悲しさや悔しさの感情が湧き上がる――――が、一つ疑問が浮かんだ。


「気絶をしたら……その分操りやすくなるんじゃ……?」


 自分でも鬼畜な事を思っている自覚はある。

 だが、行動だけではなく会話や表情も操ることができるのであれば、気絶をしても問題なく操ることができるのではないかと思ったのだ。


「あぁ、それは私も医者ではないのでこれは個人的な想像ですが、気絶をしたまま操った場合、命にかかわるからじゃないですか?」


「命に……?」


 気絶した状態で操られた場合、その分自分と関わる記憶が無いはずである。自分との会話などでストレスを感じなくなるため、気絶状態の方が精神に優しいのではないかと叶は考えた。


「えぇ、気絶をした場合、脈拍、肺呼吸が弱くなります。

 そんな状態で体を激しく動かしてしまえば、酸素が足りなくなって死んじゃいますよ。

 じゃぁ、酸素を多く供給させるために肺を操って呼吸をさせればいいじゃないかと思いますが、それは難しいんじゃないでしょうか?」


「そ、そうなの?」


 難しいかどうかなんて分からない叶は、首をかしげるだけだ。


「ちょっと肺と声帯を操作して都合がいい会話をさせるのとはわけが違います。

 起きている時ならば、勝手に吸ってくれますが、その時々人間にどれだけ酸素が必要なのかなんて繊細な事を考えるも、気絶したならばそのまま寝かしておいた方が楽でしょう?

 だからといって脳みそなんて人体で更に繊細な部分を弄って無理矢理起こして失敗してしまったら、取り返しがつきませんからね。

 脳なんて医者でもないのに人間の急所を下手に触ると死んじゃいますよ。

 案外人の命を大切に考えているんですね。そこの妖怪は……」



「なぜ……わかった?」



 天邪鬼はそう言ってそんな二人の様子を見てなぜか固まっていた。

 妖怪の表情は依然恐ろしいままであったが、何となく焦っているように思われる。

 視線の動きや体の動かし方。

 余裕がある者の動きではない気がする。

 一番の不思議なのは、真相を知られては困る相手である叶に対してペラペラと話す琴音をどうにかしようとしない事だ。

 話している姿を見守っているわけではない。

 体の大きさだけでは力量を判断できないと察したのか、琴音に対して一定の距離を保っているのだ。



「結局は、感情を支配できる力が衰えている……。いいえ、そもそも元からそんな能力なんてなかったのでしょう。

 そうですよね? 天邪鬼の名を騙る、別の妖怪さん?」



「「「!?」」」



 琴音の発言で、聞いていた2人と1匹はそれぞれ別の反応を示した。

 天邪鬼は目を見開いてギョッとし――――。

 加藤は『ヤベェ!』と、焦った表情になり――――。

 叶は状況が理解できないという様子であった。




「うふふ。

 一応この部屋には結界を張ってはいますが、外で調べ物をしている式神とは念話……わかりやすく言えば、通信ができるんです。

 私の式神は貴方が封印されていた神社の近くにある石碑にたどり着きましたよ?

 だから、その形跡から貴方の正体も判明しました。

 おそらくは、名が売れている天邪鬼を騙れば私が怯むとでも思っていたのではないでしょうか?

 天邪鬼は強力な妖怪の一種ですからね。

 さて、そんな天邪鬼の名を騙った貴方の名前は、そうですね……。



 『おどろおどろ』さん。



 と言えばいいのでしょうか?」




「き、貴様ぁ!?」


 その瞬間、妖怪の姿は変化した。

 恐ろしい顔はや身長は変わらなかったが、全身から長い毛が一気に噴き出し、来ていたボロボロの衣も毛の一部と変わったのだった。


加藤君が天邪鬼の姿を模った【おどろおどろ】を見て驚いた理由。


加藤「あ、あれ? お前俺が封印を解いた時の姿と違うんじゃ!?」


おどろおどろ「こっちのほうがネームバリュー強いから、話し合わせてっ!」


加藤「お、おぅ……」

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