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第6話 人を操る妖



「ここは……。隣のクラス?」



 2年5組。

 とても近い場所で琴音は立ち止まり、表札を見た叶は、ここに犯人が居ると思うと身が引き締まった。



「さぁ、犯人はこの部屋にいますよ。

 おっと、ちょうど一人だったようですね。

 これは僥倖です」



 そう言って引き戸を開ける琴音。

 戸を開ければズカズカと部屋へと入っていった。



「あっ」


 叶も急いで後に続く。

 そして、琴音が犯人だという人物を探した。



「あれ?」



 教室の中には確かに一人だけ人間が存在した。



「(あの人は……)」



 そして、一人の男子生徒を見つける。

 タイトルはブックカバーがされていて何を読んでいるのかわからないが、イヤホンを装着しながら本に視線を落としながら真剣に読書を続けている。

 その人物に叶には見覚えがあった。


「(確か、一年生の時に一緒のクラスで隣の席だった……)」


 【加藤かとう 正章まさあき】。


 叶の記憶通り、彼は叶の一年生の頃のクラスメイトであった。

 あまり話すことがない生徒で、男版の叶と言っていいほど友達が少ない人物だった。

 彼とは席が隣同士であったため、話す機会は他のクラスメイトよりも多かった記憶がある。




「(でも……なんで彼が?)」



 特に恨みを買った記憶もなければ、彼がこの事件を引き起こした理由もないように思える。

 叶が思い当たるふしを考えていたが、


「知っている人ですか?」


 と、琴音に聞かれ、


「は、はい。彼の名前は加藤 正章君です。

 一年の時にクラスが一緒で隣同士だった人です」


 そう正直に答えた。

 すると、


「なるほど……。こんにちは~。加藤君」


 と、琴音は大きな声で彼を呼ぶではないか。



「!?」



 叶もびっくりしたが、加藤本人も放課後人に呼ばれるとは思ってもみなかったようで、驚いた様子でイヤホンを外し、視線を本からずらして琴音を見た。



「……何か用?」



 一度叶の方を見て驚いたようだったが、すぐに自分の名を呼んだ琴音の方へ問いかける。

 その目は鋭く、邪魔をするなと言っているようだった。



「えぇ、ちょっと用事がありまして……」



 と、琴音は切り出し、


「今、この学校で不思議な事件が起きているのはご存じですか?」


 そう質問から入った。


「事件? 何のことだ?」


 加藤は目を更に鋭くとがらせ、琴音を睨みつけながら言う。


「ほら。隣のクラスで頻繁に発生している生徒が突然気絶をしていく件ですよ。

 知らないんですか?」


 『知らないんですか?』というセリフが煽っているように聞こえた加藤は機嫌を悪くし、


「生憎他人にそこまで興味がないんでね。隣のクラスで人が倒れようが何しようが俺は知らないんだよ」



 と、言って素早く本やイヤホンを鞄の中に詰め込む。



「話はそれだけか? 俺は忙しいから帰るぞ」


 加藤はそう言って足早に教室から出ていこうとした。



「そうですか……」



 琴音は残念そうに呟くが、


「……ん? あれ? なんだ??」


 加藤は部屋の奥の廊下への出入口を開けようとしたが、戸は開かないようだった。


「鍵が……は? なんだよコレは!?」


 鍵がかかっているかと思った加藤は、ガチャガチャと鍵を閉めたり開けたりを繰り返す。

 しかし、戸は一向に開かない。


「クソッ」


 焦った加藤は琴音達が入ってきた方の扉を開けようとし、琴音達を警戒しながらも彼女たちの近くにあった扉を開けようとした。

 しかし、



「はぁ!? 一体どういう事だ!?」



 奥の戸と同様に、琴音達が入ってきた戸も開くことは無かった。



「チッ」



 次に加藤は窓へと走る。

 窓を次々と開けようといたがどの窓もビクともしない。



「なんだよ……。なんなんだよ! おい、お前ぇ! 何をしたぁ!?」


 本能的にこの状況を作り出した犯人を導き出し、琴音に対して敵意を露わにする加藤。

 しかし、恐怖を感じているのか、ジリジリと琴音から距離をとっていく。

 それを見た琴音は、



「へぇ……。"お前達"じゃなく、"お前"ですか……。

 直感からなのか、それとも叶さんにはこの現象は作り出せないと信じているのか。

 よく私がこの部屋に貴方を閉じ込めたってわかりましたねぇ」



 ニヤリ。と、怪しい笑みを浮かべた琴音。

 そして――――。



「「えっ!?」」



 一瞬で琴音の姿が変わった。

 正確には着ている服である。



「み、巫女!?」



 加藤は琴音の服装を見て呟く。

 そう。今琴音は一瞬でブレザー姿から、叶が最初に琴音を見た姿である巫女装束に身を包んでいたのだ。



「なんなんだよぉおお! お、お前!」



 完全に危機感を覚えた加藤は、キョロキョロと周囲を見回し、



「おい! 居るんだろ!? 返事をしろぉ!

 お前の敵が来たんだぞ!?」



 と、誰もいないはずの空間に向け語り掛けていた。

 言っている本人もどこに語り掛けている"ナニカ"が見えていないらしく、いろんな方向を向きながら呼んでいた。












『ぐひひひひひひ』










「えっ」



 叶の耳に声が聞こえた。

 低い男性の声。

 しかし、その声は加藤のものではない。



「おや? ようやく正体を現しますか?」



 と、琴音は落ち着いた様子で言った。



『まさか、退魔の能力を持った巫女が現れるとは思わなかったな……。

 いいだろう。姿を現してやろう』



 モクモクと、黒い煙が加藤と琴音の間にある空間に湧き出す。

 その煙は段々と人の形へとなっていくが、明らかに人よりも大きい。

 天井すれすれの大きさとなった人型の煙は、やがてその姿をはっきりと見せ始めた。





「ひっ」



 叶はそのおぞましい姿に恐怖する。



「……」


 加藤も目を見開いていた。



「おやおや……。良ければ貴方の名前を教えて頂きますか?」



 琴音は不敵な笑みを浮かべ、その出てきた元凶を見据えていた。

 出てきたのは大きな体。そして人の肌とは思えない紫色の皮膚。

 角や牙は鋭く尖り、身に着けている服はボロボロではあるが、元々はそれなりに身分が高かったのだろうと思わせる着物。

 その怪物は、琴音をジッと見ながら、名を名乗った。



「よぉ、俺様は【天邪鬼】と呼ばれている妖怪だ。さすがにそこら辺の雑魚妖怪と違って俺様の名前は有名だろうから知っているだろう?

 しかし、よくぞ俺のところまでたどり着いたな。流石は巫女……と、言いたいところだが、これ以上邪魔をするなら貴様を食らってその神へと通じる力。この俺がもらい受けるぞ」



 自らを【天邪鬼】と名乗った妖怪は、そう言って琴音と対峙するのであった。



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