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第5話 クソ野郎の称号を授けましょう


 音楽の授業は特に何もなく終わり、平和であった。

 そしてその日の残りの授業、休み時間を含め3人目の被害者は出ることがなかった。




 放課後。




 2年4組の教室の生徒達は部活に行っているか帰宅したかのどちらかである。

 現在教室に残っているのは、琴音と叶だけだ。





「結局クラスの誰かが妖怪に取り付かれているわけではありませんでしたか……。

 ですがまだ妖怪の気配は学校内に濃く残っているという事は、まだ校内に元凶が潜んでいるということです。

 さて、それでは捜索範囲を教室の外に広げましょう」


 と、琴音は提案をしてきた。

 勿論それを拒否する理由がない叶はうん。と頷く。



「ところで、調査をする前に聞きたかったことがあるんですが……」


 と、琴音は叶の方を向き質問をしようとしてきた。



「うん? なんでしょう」



 何を質問されるのかとドキドキしている叶。



「お昼休み中に半分叶ちゃんに告白していたあの『天羽』って男子生徒の事についてなのですが、叶ちゃんはどうやらあの方にあまりいい印象を持っていない様子でした。

 理由を聞かせてもらってもいいですか?」




「あっ。はい……」



 叶は若干言い辛そうにしていたが、決心を固めたようで事情を話し始める。



「あの男子生徒、『天羽あもう 栄太えいた』君は、私が苛められる切っ掛けとなった事に関係する人だったんです」



「ほう?」



 その話にかなりの興味を示した琴音。

 重要な話だと感じた琴音は体を完全に叶の方へと向け、話を聞き入る体勢をとる。



「私は2ヵ月前まで苛められていたのだけど、そうなった切っ掛けが彼から告白を受けたことでして……」


「うん? と、いう事は叶ちゃんは一度天羽君と付き合っていたのですか?」


「はい……。期間は4日だけでしたが……」


「そりゃまた……」


 とんでもないスピード破局である。

 琴音が驚いている間にも叶の説明は続く。


「私が告白を受けた後、その話が次の日には一気に学年中に広がっていて……。天羽君は学年だけじゃなく学校全体の人気者でしたから……」


「ま、まさか。天羽君の彼女になった叶ちゃんに嫉妬した女子達が苛めを開始した……とか?」


「はい……。その通りです」


「ゴハァ!」



 なんと器の小さい事なのだろう。そしてそれは人としてどうなのだろうか。できれば当たってほしくはない予想だった。という感情が一気に琴音に襲い掛かる。

 思わず琴音は少女が出してはいけない声を出してしまった。


「付き合って次の日には、いろんな女子から『お前のような奴は天羽君にふさわしくないから別れろ』とか、『ちょっと気に入られたからっていい気になるな』とか、散々言われて……。

 それを更にその3日後に天羽君が知ることとなって……」



 嫌な思い出なのだろう。

 叶の口は段々と重くなる。


「それは叶ちゃんが天羽君に相談したから?」


 と、琴音は聞くが、叶は首を振り、



「いいえ、偶々私が問い詰められているところを見られたんです。


 私達がお昼休み中に行ったあの体育館裏でいろいろと言われている所を、私を探しに来た天羽君が見つけて……。

 その後直ぐ私を連れ出してくれた天羽君が、『さっきの件はどういう事なんだ?』って。

 私は色々と言われていた事を隠そうとしていたけど、あそこまで見られて言い訳なんかできなくて、正直に言いました」



「ふむふむ。そうしたら?」



「天羽君は、『そうか……僕と付き合うことで君にそんなに負担がかかってしまっていたなんて思わなかった。よし、分かった。僕達は別れよう。そうすれば君も嫌な思いをせずに済む! うん、名案だね』って、言って……。


 守ってくれると思った……。だけど、私が苛められているって知ったら……私から離れて……。

 でも、別れた事をみんなに伝えても苛めは無くならなかった。

 『一度学校のアイドルと付き合った人間はみんなの敵だ!』って……。

 それからどんどんと苛めはエスカレートしていって、誰も助けてはくれなかった……。

 私もそんな事が原因で苛められているなんて親にも先生にも言えなくて……」



「ひえぇぇぇ~~!?」



 琴音は目玉が飛び出そうになった。

 そんな理由で虐めていた連中もそうだが、天羽君はとんでもないクソ野郎であった。

 自分の彼女が自分達が付き合っていることが原因で苛められていると知れば、面倒な事が降りかかる前に別れることにしたのだ。

 アフターケアも無し。面倒ごとにはとことん首は突っ込まずに逃げ去る。

 そんな彼の称号はクソ野郎でピッタリではなかろうか。


「えっ? ちょっと待って下さい。

 そうなると、天羽君は2ヵ月前から叶ちゃんが苛めを受けていないことはすでに気づいていた……はずですよね?」



「たぶん……」


 確証は無いが、恐らくそうだろうと叶は肯定する。



「そ、そそそ。それじゃぁ、天羽君はすでに面倒ごとがなくなっていそうだから、一度は見捨てたくせにもう一度叶ちゃんと付き合おうとしているってことですか!?」


「実は今日以外にも何度か告白を受けているの。その度に断っているけど……。

 私……もう天羽君の事信じることができなくて……」


 と、涙を瞳に溜め始める叶。

 その話を聞いて当然信じることなどできないだろうと琴音は共感する。


「天羽君の頭には綿アメでも詰まっているんですか??」


 等と暴言までさらっと出てきてしまう。



「苛めがなかったかのように接してきて来る人は今でも苦手だった。

 苛めをしてきた中心人物だった清香さんとか、天羽君と別れろと迫ってきていた有紗さんとか……。

 だけど、それと同等に私を振った事を忘れているような言動をする天羽君も苦手なの……。」


「そりゃそうでしょうよ……。って、有紗さんってお昼休み中に気絶した有紗さんですよね?

 彼女も苛めを?」


「いいえ、苛めというまではいかなかったと思います。ただ、彼女は天羽君の熱烈なファンの一人だったようで……警告の意味合いもあって、そう言われました。

 でも、最近は私と天羽君の仲を取り持とうとしていて……」


「……なるほど。有紗さんの件はそういう事でしたか」


 その説明を聞き、琴音は納得したようだった。


「有紗さんの件?」


 叶は琴音が何かに気づいたのか? と思い聞き返す。


「法則ですよ。なぜ清香さんや有紗さんは気絶をしたか」


「それは私が関わっているから……ですよね?」


「はい。それは間違いないと思いますが、なぜ叶ちゃんに関わって気絶をするか。ですよ」


「私を苛めていた人だから? ……いえ、有紗さんは直接虐めはしていないですから、天羽君の事が好きだったから?」


「その通りです。ちなみに男子生徒で気絶している人は居ないんじゃないですか?」


 琴音は叶の疑問に一つ一つ答えていく。

 そして、琴音も叶に質問をした。


「言われてみれば、気絶した男子生徒は少ないと思います。謎の気絶事件が始まってからすぐには数人いましたが、今ではほとんど……いえ、全く気絶している男子は居ません」


「えっ。男子生徒でも居たんですか。

 それはちょっと予想外でしたね。

 ちなみにどういうご関係かお伺いしても? 苛めに参加していたとか?」



「それは……ありませんでした。

 せいぜい無視をしてくる位で……。

 これはクラスの皆と仲良くなってらその気絶した男子生徒から聞いたんですが、気絶した男子生徒の彼女が天羽君のファンだったから、無視するように協力していた……と」



 無視されるという事事態相当なものだと思うが、元々人付き合いが上手くない叶にとっては苛められる依然と大差ない話であった。



「えっ? 気絶した男子生徒の彼女が同じクラスのアイドル男子のファンで? 男子生徒は、アイドルに彼女ができたからって憤った彼女の言いなりになって、一時期とはいえ天羽君の彼女であった貴女の虐めに参加した……。

 どんだけ情けない男達だよっ!?」



 叶が所属するクラスにはどうしようもない男子生徒しかいないのか。

 そういった暗いとした気持ちがあふれてくる。

 本当に自分と同じ年齢の人間がこの学校に通っているのかと思うと頭がクラクラとしてくる。



「虐めてきた人や嫌なことをしてきた人は気絶をしたのは私が嫌悪感を感じていた人たち。

 でも、気絶をしたクラスメイトの中には元から優しかった人……友人もいたんです!

 それと、不思議なのは私を裏切ったのは天羽君です。

 彼はまだ一度も気絶はしていません。

 私を邪魔だと思っているのに、また近付いてきているのはあり得ないのではないでしょうか?」



 自分を傷つけた人たちが気絶の対象であるならば、友人や天羽も対象のはずだと叶は言う。

 だけど元から優しかった友人が気絶をし、天羽は気絶をしていない。

 これはおかしいと叶は思った。



「天羽君は……。おそらくそこまで深く考えていないんじゃないでしょうか?

 例えば問題なく付き合えてしまえば良い位の考えだと思いますよ。

 それに友人ですか……。失礼ながら、その方々は本当にご友人で?」



「えっ……」



 その言葉は胸に刺さる一言であった。

 失礼な質問の割には怒りの感情が湧き出ることは無く、変わりに気づかされたといった感覚の方が強い。



「その友人達は2ヵ月前から仲良くなったのでは?」



「それは……そうでしたが、それ以前でも嫌な顔をせず話してくれたことがありました」



「まぁ、そういう人もいるでしょうね……。

 叶ちゃん。人ってそう単純に感情を表せる生き物ではないんですよ?

 そういったものは女性のほうが上手いかもしれませんが、男女関係なく良い顔をすること位はできるんです」



「……」



 それ以上聞けば人間不信になりそうだった。

 今まで気絶してきた中のクラスメイトは、元々敵意を剥き出しにしてきた者達ならば何となく自分が原因だと察することができた。

 それでも苛めにも参加せず、元々仲が悪いという事がなかった"友人"達も気絶している事で、無差別に悪い何かが影響を及ぼしていると叶は思っていたのだ。



「これ以上色々とこのクラスの人達の事を伝える必要はありませんね」



 ショックを受けている叶を見て、この話を切り上げることにした琴音は、



「では、私は敵がいる場所へ行きます。

 叶さんは……付いて来ない方がいいかもしれません。

 この先は危険だと思いますから……」



 と、言って教室を出ていこうとした。

 だが、




「私も……。私も行って確かめたい。

 邪魔だったらごめんなさい……。

 でも、この目で今回の事件の真相を知りたいんです。なぜ私を中心に事件が起きたか……。なぜ苛めが突然止んだのか……。

 犯人に会って直接確かめたいんです!

 ダメ……でしょうか?」



 もしこのまま引き下がった場合、永遠に事件の真相を知る機会を失うのではないか。

 なぜかそう考えてしまった叶は、琴音にそうお願いした。

 お願いされた琴音はというと、




「……いいでしょう。

 では、全力で叶ちゃんを守りますから、くれぐれも私のそばから離れないでくださいね?」



 と、許可をした。


「は、はいっ!」



 叶は笑顔で頷き、琴音の後に付いていったのであった。


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