第4話 犯人の正体は?
次話は、3日後に投稿します。
「では、犯人の正体を探っていきましょう」
琴音はいまだに鼻をすする叶に対してそう話を始めた。
「実は、私は叶ちゃんをあの神社で見た瞬間、恋愛関係のお願いに来たのでは無いとは思っていたんですよ」
「えっ。そう……だったんですか?」
これから教室へと戻らなくてはいけないため、腫れていたり赤くなっているであろう目を正常に戻すため、叶は必死に涙をこらえていた。
もともと目元まで髪が伸びているが、隠しきれるかわからない。
「えぇ、だって叶ちゃんの体の周りに"妖気"が漂っていたんですもの」
その話を聞いて叶は恐怖を感じたものの納得をした。
恐怖というのはオカルト的な要素であり、納得というのは普通、いくら人があまり来ないとはいえ、恋愛成就の効果があるとされる神社に参拝客が来たとしても、一般客に一々恋愛事情を聴く巫女などいないだろうからだ。
琴音が初めから叶に何かが憑りついていると予感していたのならば、事情を聞いてきたとしても不思議ではない。
「でも、叶ちゃん自身にそういった悪いモノが憑りついているわけじゃなさそうなんですよねぇ……」
「私に……じゃない?」
そう聞いて少しだけ安心した。
だけど、疑問は残る。
何故ならば自分に憑りついていないのであれば、なぜ自分の身の回りの友人ばかりに被害が及んでいるのだろうか、というものだ。
「先ほども言った通り、叶ちゃんを抜かしたあのクラスの人達全員が憑りつかれているような状態です。
叶ちゃんからは悪魔とか妖怪とかと契約を交わした際にできる独特の"縁"も感じられません。
だから直接叶ちゃんは関わっていないと思われますので、この事件を引き起こした犯人を捜すとともに、なぜ叶ちゃんだけが憑りつかれる対象から外れたのか調べなくてはいけません」
「うぅん……」
叶は泣くのを止め、事件について考え始めた。
しかし、考えれば考えるほど自分が対象外になった理由がわからない。
勿論オカルト的な術を行い、相手を呪ったことは無い。
苛められていた時は憎らしいとは思っていた事はあったが……。
「とにかく教室に戻ってクラスの人達を一人一人観察してみます。
もうそろそろお昼休みの時間も終わりそうですから」
「……あっ。本当だ」
スマホで時刻を見てみればすでに結構な時間が経っていた。
その後琴音と叶は急いで昼食をとり、教室へと戻っていった。
教室へ戻ってくると、次の授業が始まる10分ほど前であった。
「…………」
琴音は改めて周囲を確認してみたが、皆叶に注目しているようだ。
しかし、敵対心というわけではなく、親しみといった視線であることはわかる。
琴音はそれがなんだか気持ち悪く感じた。彼女が見たのは表情や仕草だけではない。一部の生徒達の目の奥だ。
恐怖、憎しみ、絶望。何故だかそんな感情が読み取れてしまう。
「よ、よう。室戸」
と、ここで一人の男子生徒が叶に声をかけてきた。
かなりのイケメンで、爽やかな雰囲気もあり、クラスの女子からも人気は高そうな人物である。
「えっと、どうしたの? 天羽君……」
叶はその男子生徒の名前を呼び、自分を呼び止めた理由を聞こうとする。
「じ、実はな――――。あれ? その目、どうしたんだ?」
天羽と呼ばれた男子生徒は、叶の目の腫れに気付く。
「あ、いや。ちょっと目にゴミが入っちゃって……」
それとなく言い訳を考えていた叶は、定番の回答を選んだ。
「それよりどうしたの?」
話題を変えるため、叶は再度天羽に自分を呼び止めた理由を聞いた。
「あぁ、そうだった。実はな? 今日の放課後、ちょっと体育館裏に来てほしいんだけど……」
そう勇気を振り絞った様子で天羽が発言すると、
「きゃー!」
と、黄色い叫びを皮切りに、
「ついに!? ついに栄太君が!?」
「おぉお! 栄太、やるじゃねぇか!」
「頑張れ天羽君!」
男女関係なく歓声を上げた。
「(おやおや。まぁまぁ)」
それを見ていた琴音はこの雰囲気から導き出される行為は一つしか当てはまらないだろうと考える。
つまり、放課後【天羽 栄太】が叶に告白をしようとしているという事を。
半ばここでその告白をしているようなものだったが、聞かれた叶はというと、
「……」
顔が引きつっていた。
「?」
その表情の意図がわからない琴音は、なぜだろうかと思い、様子を見守る。
「えっと……ごめんなさい。今日は用事があって……」
誘いを断ろうとする叶。
「「「おぉぉぅ……」」」
その回答に明らかに落胆の表情を見せる天羽と周囲で事の成り行きを見守っていた生徒達。
天羽という少年はガックシと肩を下げ、
「うん。いや、いいんだ。またの機会にでも――――」
諦めきれず今日の所は引き下がろうとした天羽が、そう切り出した時、
「うぐっ……」
「「「!?」」」
様子を見ていたクラスの女子一人が倒れた。
「有紗!? ちょっと、有紗ったら! どうしたの!?」
倒れた少女の周囲には人だかりができる。
必死に倒れた少女の名前を叫ぶ友人達。
「また倒れたぞ! 早く保健室へ!」
「せ、先生! 先生を呼んで!」
「くそっ。一体どうなってやがる!?」
「おい、しっかりしろ!」
クラスはパニック状態だ。
女子達の顔は恐怖に染まり、男子たちもアタフタとしている。
「なんで……こんな……」
叶も恐怖で身が竦む。
今まで一日2人も気絶した者が出た事はなかった。
明らかに事態は悪化しているように思える。
その混乱は次の授業の為に訪れた教師が来るまで続くことになったのだった――――。
昼休み後の授業はお通や状態であった。
授業を行う教師も気まずそうに板書をしている。
その間琴音は教室の様子をじっくりと観察していた。
「(ふぅむ。妖力はこの部屋に満ちているようだけど、犯人はこの教室には居ないようですね……)」
授業を受けている間に部屋に変化は見られない。
「(先ほど女子生徒……えっと、有紗さんだったかな? 彼女が倒れた際にも妖怪の反応は強くは無かった)」
妖気は教室中に満ちてはいるが、姿が見えず、生徒が気絶する際も変化は見えない。
妖怪が何かの力を加えて生徒達を気絶させているかと思ったが、どうやら原因は別にあるようだ。
何を切っ掛けに生徒達が倒れていくのかを考察する。
「(うぅん……。この神の力に当てられたような気配が混じる妖気。思い当たる妖怪の候補はあるんですよねぇ……。
この感じ、間違いなく日本に住み着く妖怪の気配なんですが……。
でも、第一候補のあんな強力な妖怪がこの場に居るわけが……。
それに、あの妖怪の影響で出る症状とは若干違うような気がします。
あれ? もしかして……)」
そして何かに気付く。
「(あぁ……、そうか。これがこの事件を引き起こした妖怪にとって"ベスト"な状態じゃないんだ……。
今日二人目が倒れた時は私への警告の意味もあったかと思いましたが、おそらく全然違うんでしょうね。
相手は私の存在に気付いているんでしょうけど、私を相手にできるほど力が無い。もしくは余裕が無いから手を下せない。
この"地"が関係しているのかどうかまでは、まだ分かりませんが……。これはちょっと学校外の情報も調べる必要がありますね)」
そう判断した琴音は一息つき、捜索範囲を拡大させる決意を固めたのであった。
次の休み時間。
約10分間で琴音は教室を抜け出し、人気のない場所の窓を開けた。
「では、調査をお願いしますね。ちゅん助」
「ちゅんちゅん」
どこから出てきたのか。
琴音の近くから飛び出した一羽の雀が琴音の言ったことを理解したかのように頷き、窓から外へと飛び出していく。
「さて……」
くるっと後ろを向いた琴音。
「あっ……」
目が合ったのは琴音の後をこっそりと付いて来た叶であった。
叶は慌てて近くにあったロッカーの陰へと隠れようとした。
「あぁ、隠れようとしなくて大丈夫ですよ。他の方ならまだしも、叶ちゃんに見られても問題ないですから」
「そ、そうなの?」
オドオドとしながらロッカーの陰から顔を覗かせる叶。
「えぇ、他の方に話さなければ全然問題はありません」
「うっ……」
琴音はにっこりと笑いながら叶に近寄る。
顔は笑っているが、雰囲気はとてつもなく怖かった。
「えっと……」
わずか数秒の間に数センチの距離に琴音の顔が叶の顔に近づいていた。
そのままジッと琴音は叶を見つめる。
表情は笑っているが、目は明らかに笑っていない。
叶は視線を泳がせながらこの後はどうすればいいのかと必死に考える。
「ふふっ、すみません。ちょっと試しちゃいました」
「へ?」
パッと離れた琴音に対し、拍子抜けしてしまう叶。
何がしたかったのかわからない。
「いえ、私が叶ちゃんに何かしようとしている雰囲気を出せば、私は狙われると思いましたが、どうやらそんな事はなさそうですねぇ……」
「はぁ……?」
どうやら琴音は叶の身に危険が迫れば何かが起きると考えていたようだが、当てが外れたらしい。
「~~~♪」
しかし、琴音の機嫌は良さそうだ。
「えっと、今のは琴音さんのペット?」
気を取り直して叶は先ほどの雀について訊ねてみた。
もこもこの可愛らしい雀であったが、雀をペットにしているのは珍しい。
「あぁ、あれですか? 式神ってやつですよ。魔法使いの使い魔とかと似たようなものだと思ってくれたらいいです」
「あぁ……」
そんな説明を受け、叶は物語に登場するような魔女が飼う黒猫を思い描く。
「いろいろなお手伝いをしてくれて便利な存在なんですよ」
と、説明を続けるが、叶はいきなり現実離れしたオカルト要素を使用してきた琴音に驚き、目を白黒させた。
これは妖怪の気配があるなどと言われた事とは別次元の話だ。
叶は今先ほどオカルトの物的証拠のようなものを見せられたのだ。
疑うのであればあの雀がただのペットの可能性もある。
しかし、叶は不可解な現象が続いている中、調査をしている琴音を疑う気にはなれなかった。
「さぁ、次の授業の時間が来てしまいます。
次は移動教室ですよね?」
「あっ、はい」
次は音楽の授業だ。
二人は急いでその場から離れ、音楽室へと足を運んだのだった。