第1話 願い事
新作です。
よろしくお願いします。
その日は一日晴れの予報だった。
暑くも無く寒くも無い気候。
多くの人達が心地よい気持ちで幸せな一日を過ごすことができる日だと思う。
私、室戸 叶は市立の高校に通うごく普通の女子高生だ。
そんな私は、最近一つ気がかりな事はあるけど、学校へ行くことが以前よりずっと楽しみで仕方がない。
なぜならば、今まで私は大人しいその性格から友達も少なく、なかなかと学校になじめなかった。
特に高校では年度が替わるとクラス替えもあり、進学した段階では中学までの仲の良い友人達とは進路の違いから離れ離れになっていたため、新しい友人関係を作ろうにもうまくはいかなかった。
そんな私に最近多くの友人達ができた。
何が切っ掛けだっただろうか? テレビドラマの話題? 勉強の話題? それとも流行りの音楽?
理由は忘れてしまったが、中には苦手な人はいるけども、私は遅まきながらクラスに馴染んでいったんだと思う。
だけど……。ここ一か月、私の周りにいたクラスメイト達は次々と病気で倒れていった。
原因は不明。
1、2日で治って学校に戻ってくる子もいれば、1週間入院した子もいる。
それでも1、2日で治った子も再び倒れて入院してしまった人もいるのだ。
今日は私がクラスに馴染んでおおよそ2ヶ月後の出来事だった。
特に私の身の回りにいる友人やクラスメイト達が次々と倒れていることから、私は自分が原因ではないかと考え始めた。
私の体から何か悪いものが出ているのだろうか?
そう考えた私も病院に行ったが、特にそんなものは発見されなかった。
病院の先生から言われたのだが、第一私から悪い何かが出ているのならば、真っ先に家族に影響があるはずだからだ。
言われてみればその通りとしか言い返せない。
だから、友人達の身に何が起きているかわからなくなった。
昨日だって友人の一人が体育の授業中に意識を失ったのだ。
だから私にはもう、頼るところがここしかなかったんだと思う……。
―狭間神社―
全国各地に分社が存在するが、あまり有名ではない神社。
ここで私は神様にお願いをしようと思ったのだ。
昔からこの地に住む私の祖母から聞いた話だが、ここは夫婦の神が祭られている縁結びの神様が居るという話を以前してくれた。
縁結びの神様が今、私が抱えている問題を解決してくれるかはわからない。
だけど家から近いという理由と、学校への通り道にあるという事からここを選んだ。
ここでもダメなら、別のもっと有名な神社かお寺でお願いをしよう。
我ながらオカルト的な要素に頼むのはどうかと思ったけど、今私にできる事で思い当たるのはそれしかなかった。
「綺麗……」
神社の敷地内に入って出た感想は、真っ先にその外観であった。
こじんまりとした神社で、あまり有名な場所ではないはず。だけど中の様子は手入れが行き届いているようで、管理がしっかりとされていた。
枝はも落ちていないきれいな道を私はゆっくりと景色を見ながら進んでいく。
あまりにも美しく、清らかな雰囲気だったからか、『お願い事をしても無駄かもしれない』という気持ちはどこかに吹き飛んでしまっていた。
「あれ?」
道を進んでいくと社が見え、その社の階段に座っている人影を見つけた。
どうやら女性のようで髪は長く、上は白。下は赤の袴のような服装をした人物……。巫女さんのようだ。
巫女さんというのは大きな神社のおみくじ売り売り場や、初詣位でしか見たことがない私は、平日の早朝に珍しい人物を見たなという気持ちになる。
「……?」
だけど、近づいてみてわかったが、巫女さんはしかめっ面で地面を見つめ自分の太ももへ片肘をつき、何かを悩んでいるようだった。
所謂考える人。のポーズなのだろうか?
あまりにも動かないものだから、丸っこい可愛らしい雀が一羽巫女さんの肩に乗っていた。
声をかけたりして彼女の考えを邪魔するのはまずいだろう。
だけど、彼女の近くにある賽銭箱と大きな鈴に用がある。
私は大きな音を鳴らして考え事を邪魔していいものかと悩み、
「今日はやめておこう」
学校の帰りにまた寄ろうと考え、私は引き返そうとした。
あまりにも真剣に悩んでいるようだったから、気をそらすような真似はしたくない。
そう思ったその時、
「あっ、おはようございます!」
後ろから声がかかった。
今、私の後ろにいる人は一人……。
「えっと。おはようございます……」
巫女さんだ。
彼女が私の姿に気付き、声をかけてきたのだ。
しまった。邪魔をしてしまっただろうかという罪悪感が湧いてきてしまう。
当然だけど既に巫女さんの肩には雀はいない。
「参拝ですか? あぁ、すみません。私、邪魔をしていましたね」
邪魔をしたのは私なのだろうけど、そう言って巫女さんは慌てて社から離れて、
「どうぞ」
と、参拝を勧めてくる。
「えっと。ど、どうも……」
ここで断るわけにもいかず、私は当初の目的でもあるお願い事を神様にしようとして賽銭箱に小銭を入れて手を叩き、お願いをした。
「……」
1分。いや、2分以上はお願いをしていただろうか。
必死になって友人達に起こる原因不明の体調不良を何とかしてほしいとお願いした。
せっかく声をかけてもらったという気持ちもあり、長い時間をかけて願い事を念じ終えると、私は巫女さんの方へと向き、
「えっと、お忙しいところありがとうございました」
と、お礼を言う。
「あはは、どういたしまして。大丈夫ですよ。
私はただここで人を待っていただけなんですから」
どうやら仕事中ではなかったようだ。
しかし、人を待っているだけであれほど難しい顔をしているだろうか?
「それよりも~。あんなに長くお願いをしているなんて、よっぽど好きな人がいるんですかぁ?」
「えっ!? い、いえ。違います!」
突然そんな事を聞かれたものだから、私は驚いてしまった。
同時に初対面なのにとんでもないことを聞いてくる人だと思った。
「違うんですか?」
私が否定している様子を不思議に思ったのか巫女さんは首をかしげていた。
「いえ、ここは恋愛成就としてならばそれなりに有名なんですが、他の事をお願いしてくる人が珍しくて」
と、続けて言った。
「あ、はい。私もその話は聞いたことがあります……。だけど、ちょっと違う内容でして……。
ダメだったでしょうか?」
恋愛関係の神社で病気? の事を相談するのは間違いだったのだろうか。
その辺りの知識は皆無である私は、内容をぼかして聞いてみた。
「いえ、ダメではありませんよ。実はのところ、元々ここの神様は恋愛関係とは無関係の神様なんですから、今更別種の願い事をしても問題ありませんよ」
「えっ? そうなんですか!?」
衝撃的な事実。
私の家族は代々ここの地域に住んで居たから祖父母や父から、ここは恋愛関係の神社だと教えられてきた。
なのに、ここがそういった神様が祭られていないというのは私の中にあった知識を根底から覆されたようなものだったのだ。
「ここはですね空間を守る神様が住む場所。と言ったらわかりやすいでしょうか?
人々の安息の地を守り、提供する神様。
悪い幽霊とか妖怪とか。そういったモノが入り込まないようにするための神様なんです」
「へぇ~……」
巫女さんの話は私が今まで聞いてきた話と全く違うものであった。
「ま、人々の安息の地イコール子孫繁栄につながりますから、あながち恋愛成就の空間を作り出していると言っても過言ではないかもしれませんしね。
神様本人達……えっと、ここに祀られている夫婦の神様は年がら年中イチャコラしてるようですから、ポコポコ子供が生まれているのです。
もはや恋愛成就より安産祈願の神として売り出した方がいいんじゃないでしょうか?
いったいどれだけ子供を作ってんだ。って話ですよ」
「はははっ……。そうなんですか……」
話がとんでもない方向に行っている。
巫女さんはまるで見てきたかのように神様の事を口にするものだから、なんだか面白おかしい気もする。
「で、そんなバカップルな神様にどんなお願いをしたんです?」
「バカップ……」
神様に対してなんて暴言を吐くのだろうか。
私はその暴言によって驚き頭がマヒしていたのだろうか、正直に答えてしまった。
「えっと、ここ1ヶ月の間に学校の友人達が次々と倒れていって……。病院に行っても原因もわからず……」
「それでここの神社で神頼みをしようと?」
「はい……」
馬鹿正直に巫女さんへ話してはみたが、解決するとは思えない。
ただ、誰かにこの事を相談できたという満足感だけはあった。
私の心のモヤを少しでも軽減する。それが巫女さんの狙いならばさすがは聖職者なのだろう。
「……わかりました。
では、私も神に仕える身として、私も事件解決に尽力いたしましょう」
「へぁ!?」
唐突に思わぬ提案をもらってしまった。
なぜそんなことを神社の巫女さんが? 初めて会った人へ何のために??
先ほどから自分とは違う常識をぶつけられて混乱してしまう。
これはアレだろうか? 新手の押し売り商法なのだろうかと疑ってしまう。
そんな私の感情を察してか、
「あっ、大丈夫でですよ。料金とか頂こうとしているわけではありません。
単純に暇つぶし……ゴホンッ。巫女である私に相談をしてくれたのです。これは協力しなければ巫女の名折れですよ!」
「暇つぶし……」
慌てて言い直してはいたが、人が真剣に悩んでいるのになんてことを言うのだろうかという怒嫌な気分になってしまう。
そんな事を思っていると、
「良くないモノが付いたのではないか? と、思ってここに来たのでしょう?
何かの不運。悪霊とか妖怪とかそういったモノの可能性も考えたのでは?」
「……うぅ」
まさしくその通りの事を言われてしまう。
これだけ立て続けに私の身の回りの状況が変化したのだ。
いいことがあった後には悪いことが起きるという考えもあるけど、確かに霊的な存在の可能性だって考えなかったわけではない。
「一つ一つ可能性をつぶしていくにはもってこいじゃないですか?
霊的なものではなければ別の可能性を探せばいいんです。
一応、私はそういった霊的なモノの専門家。なんですよ?」
巫女さんは胸をポンと叩き自慢げに言った。
言われてみれば巫女さんというのは魔を払ったりするイメージはある。
だけど、近代の巫女さんはほぼアルバイトでそういう格好をしているのではないだろうか?
そうじゃないとすれば、目の前にいる巫女さんは本物? の巫女さんということになる。
「霊的なモノではないことが分かれば、後は偶然なのか医学的な事なのかで的は絞れます。
ここで会ったのも何かの縁です。
どうです? 私に調査させていただけませんか?」
言葉だけ聞けばうさん臭さはある。
だけど、はたしてこんな私と変わらない歳の少女が詐欺師になんてなるのだろうか。
もし目の前の少女が詐欺師であれば、私はもう今までの事も重なって完全に人間不信になりそうだ。
「えっと、軽く見てもらう事が可能ならば……お願いできますか?」
「えぇ、もちろんです!」
巫女は笑顔でそう答えた。
そして、
「あっ、そうだ。私の名前は【榊 琴音】。17歳の職業巫女です!
琴ニャンって呼んでもいいですよ♪」
と、自己紹介を始めた。
「わ、私は室戸 叶です……。よろしく?
えっと、じゃぁ、私の友人を学校の終わりに連れてきますので……」
琴ニャン発言はどう返したらいいのかわからないので、それを無視して私も自己紹介をした後そう提案すると、
「いえいえ、その必要はありません。私が学校に直接お伺いしますから。
直接そういった現象があった場所を見ておいた方が何かと判断しやすいですから」
などと言うではないか。
「えぇぇ!?」
学校に来る!?
どうやって中に入るの??
校門から中の様子を見て、倒れた人を待っているという事だろうか?
私の中で疑問があふれてくる。
「まぁ、やり方はいろいろありますから、大丈夫です。ご心配せずに。
ほら、そろそろ学校へ行く時間じゃないです?」
「え? あ、はい……」
スマホで時間を確認してみればまだ余裕がある時間だ。
神社でお願いするために早朝から来ていたことも幸いし、遅刻するような時間ではない。
「で、では待ってます。
あの、これ。私の電話番号……です」
「あ、はーい。ありがとうございます!」
電話番号を交換した後、私は学校へと向かった。
こうして私は今日初めて会った巫女さん。琴音さんに私の身の回りで起きている不思議な事件の調査を依頼することになった。
琴音:「お久しぶりの方はお久しぶりです! 初めての方は初めまして! 美少女実力派退魔士の榊 琴音で~す」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:ちゅん太です! この小説には後書きだけの登場ですがよろしくお願いします。
琴音:「まさか! 私が主人公の話が書かれるとは思いもよりませんでした! 可愛く美しく、そしてかっこよく活躍できることを願います!」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:厚かましいご主人様ですが、どうか温かい目で見守ってください。
琴音:「ちゅん太! 失礼な事を言わないでください。私のイメージが下がってしまいますからねっ」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:いや、登場時点で既にイメージが……。
琴音:「さて、私の事をご存じないという方には簡単な説明を。私は名家【榊家】の正式な跡継ぎとして日々退魔士の仕事等をしている超実力派巫女でございます。
優秀な式神を作ったり、ゲーム世界で魔神化した悪霊を退治したり、その悪霊から人々や魂を救済したり。
活動内容はさまざまです! うわっ、私の才能って無限大!?」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:ですが、仕事を行う上で欲を出して、余計な時間を使ったり、出さなくても良い被害や出費を掛けるので、そこさえなければ完璧です。
琴音:「えぇい! お前は私を上げたいのか下げたいのか!」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:HAHAHAHAHA! まっさかぁ。そんなわけないじゃないですか。僕は琴音様の元を離れたとしても、琴音様の式神ですよ?
琴音:「ぐぬぬ……。なんとも感情がこもっていない言い方……。まぁいいでしょう。ちゅん太も先ほど言っていましたが、温かい目で見守っていただけると嬉しいです」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:どうかこれからもよろしくお願いしますね!