ある奴隷の物語 4
「………なによ、あの言い方。」
呆然とするのは、今度は私の方だった、私の剣幕も相当なものだったとは思うけど、彼のそれはまるで比べ物にならなかった。
な、なによ、ビッチって、これでも私まだ処女なのよ!?失礼ね!!
「………お、お皿片付けない、と………。」
私はそのお皿の欠片を手にとったその時気がつく。
あ、あれ………私、体の自由が聞かない………?
「………あ………ああ………!!」
いや………死にたくない!私は必死で抵抗するけど、お皿の破片を握った手はプルプル震えながら首筋に近づいていく。
「………いやぁ………いやぁぁぁ………!!た………助け………助けて………。」
私は助けを呼ぼうとするが、誰も来ない。
私は必死で格闘するが、ついに破片は首筋に突き立てられ、血がダラダラと流れていく。
「いやぁ………助けてぇぇ…………。」
「………おい?おい!!?!?ナーノ!!何してるんだ!!!」
「ナーノ!!やめろっ!!止めるんだ!!」
俺は必死でナーノの腕を掴む。
「う、うぉぉぉぉぉぉぉ!!!止めろぉ!」
そう言うと、次の瞬間ナーノは糸が切れた人形のように力を緩め、床に崩れ落ちる。
「何があったんだ………!!」
俺はその時気づいてしまう、首輪からほんのり赤い光が漏れ出ていることに。
『うるせぇんだよクソビッチ!!死ねよ!まったく、アホくっせえ………。』
『クソビッチ!!死ねよ!』
『死ねよ!』
「………嘘だ………。」
「はぁ………はぁ………。」
ナーノは俺を呆然とした目で見ている、俺はその目が俺を責め立てているようにしか見えなかった。
「………ナーノ、今日は休んでいい。」
「………。」
あれ以来、ナーノは口を聞かなくなった、だがナーノは誰も掃除せず汚れていく部屋を見ると暗い顔で掃除を始めるので俺はナーノが心配しないように掃除をしなければならなかった、それだけじゃない、洗濯などの家事もやった、だが俺は家事炊事なんてなんにもやったことが無い、俺は上手くできないことに苛立ちながらも必死でやった。
困ったのは、炊事だ、俺は飯を一人で作ったことがない、全部コンビニで弁当を買って食べていた、ここに来ても同じ事だ。
だから、俺は仕方なく買ってきた食べ物を出した、今日はこれでいいだろうと、だが、そのたびに俺は悔しくて悔しくてたまらない、なぜならそのたびにあの言葉が聞こえてくるからだ。
『浅ぁぁぁい考えが透けて見えるのよ!!』
「………。」
ナーノはそれを黙って食べていた、暗い顔をしていて、感情を読み取ることがまるでできなかった。
「………はぁ。」
なんでこんなに落ち込んでるんだろ私。
この事を言葉にするとしても、ただの不運な事故、あるいは、クソ野郎の起こした糞な出来事、そのどちらか。
どちらにしても、私がこんなショックを受ける意味なんてない。
「………はぁぁぁ………どうしよう………。」
私は外で何気なく地面に咲いていた花を手に取り、しげしげと眺める。
「………昔、お母さんに花かんむりの作り方教わったっけ。」
私は花をつんできて、花かんむりを久しぶりに作ってみようとした。
だけど………あと少しのところで、花のほうがなくなった、そのまま繋げると、あまりにも小さくなりすぎる。
それが私とセーヤの今の関係を表しているようで、私はいっそう憂鬱を深めるのだ。
「………?………。」
後ろの方から男が一人迫ってくることに気がついた。
「ごきげんよう、ナーノさんですね?」
「………えぇ、そうだけど。」
「ちょっと待ってください、はい、身動きしないで。」
「え………。」
男はナーノの首輪の鍵穴に鍵を差し込むと、首輪は地面に音を立てて落ちた。
「これって………!!?」
「時間はありません、早く行かないと。」
「待って、あなたは一体何なの、この鍵は奴隷商が街の領主から預かったもの、手に入れるなんてありえない………。」
「話はあとです、いいんですか、リリーさんに会えなくなりますよ!!」
「………!!!リリーに、会えるの………?」
「ええ、あなたの協力があれば、ね。」
「………マックス!それにベニー、アッカーまでいるじゃない!!」
「ようナーノ!!檻でメソメソ泣いてるお前を助けようと思ったらもう売られた跡とはな!!」
「ナーノ、早く行きましょう、私達であのいけ好かない奴隷商をボコボコにのしてやるんだから!」
「そうだ!いくら奴隷と言ってもあの扱いは限度がある!!」
「………待って、奴隷商を襲撃!?どういうことなの?」
「話は私から、私はマハグニークと申します、貴方達の支援者です、味方ですよ。」
「そう………。」
「私は貴方達を支援したい、そして、奴隷商の店をめちゃくちゃにしてもらいたい、そのために私は貴方を助けたのです。」
「………え………待って、奴隷商をなんて言ったの?そんなこと私には」
「そうしないといけない理由があるんだナーノ、今あの店に貴族がやってきてる、それも最悪な部類に入るくそったれの豚野郎さ、しかも、金も路頭にばら撒けるほど持ってる。」
「………どういうこと?」
「飲み込みの遅いやつだなお前は!いいか、やつはリリーを買おうとしてる、今日にでもリリーはあいつに引き渡されて、その瞬間にやつのおもちゃになっちまうんだよ、あらゆる意味でだ!!」
「そんな………!!」
「時間はありません、武器は私が提供します、装備もね、まぁナーノさんはそこらへん困ってないようですが、消耗品のたぐいはどうにもならないでしょう?」
「………。」
「やりましょ、私は絶対リリーを助ける、あなた達はどうするの?」
「馬鹿野郎、俺たちゃもう腹は決めてるんだぜ?まったく、最初から最後まで飲み込みの遅いやつだ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「!!?何だお前たちは!!」
私はその日のうちに奴隷商に殴り込む、慌てて奥の部屋に逃げようとする奴隷商の頭にランプがぶち当たる。
「うっ………。」
「さぁみんな!!リリーを探して!!急いで!!」
私はそう周りにいうとみんなは急いで探し始める。
「おい!リリーの檻が空っぽだ!!」
「そんな!」
「………いや、待てよ、このコートは一体誰のだ?」
かけてあるコートを手に取るマックス、そのコートは恐ろしいくらい大きいのもそうだが所々の豪華な刺繍に目を止める。
「………まさか。」
「おい、ナーノ?どこへ行く。」
「黙って、こっから先は男はついてこないで、ベニー、あんたはいっしょ。」
「は〜い。」
私は奥の部屋にずんずん進むと、嫌な予感が当たったのがわかった。
「………っ!!!!!許せない!!」
私は扉を蹴破ると、そこには小綺麗な空間に大きなベットが一つ、そしてそこには………。
「………ナーノさん………。」
「リリー………!!!」
綺麗な金髪、長い耳、羨ましいほど真っ白で、陶器のような肌、それはまごうことなき森の人、エルフ。
そして、その上品な体には似合わない下品極まるキラキラした下着。
「グヘヘヘヘヘ、なんだぁ、奴隷商のやつ、俺におまけでもしてくれたのかぁ?」
「………!!!」
後ろを振り向いた先にいたのは、ゲラゲラ笑い、腹を揺らしながら歩いてくる豚、いや、豚の体の殆どは実は筋肉だ、あれと比べるのは豚に失礼というものだろう。
「へへへ、いいなぁ、俺は褐色も行けるぜぇ?お前は人間か?だがダークエルフみたいでいいねぇ、いいねぇ、お似合いだ、奴隷商も気が聞くな、せいぜい可愛がってやるぞぉ………。」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私は泣きながら絶叫し、やつの体を剣でめった刺しにした、あっという間に私の体も、床も、壁も血で染まる。
「………はぁ、はぁ………。」
「ナーノさぁん………もうやめてぇ………死んでる、その人死んでるからぁ………。」
私はそう泣きながら止めに入るリリーの声で我に返る。
………そうね、あのときもそうだったわ、奴隷商が前のご主人を殺しかけた私を処分しようとしたとき。
『その人が死んだらぁ、私も死にますぅ!!だから、だからやめてぇぇぇぇ!!!』
そういって、鎖を首に巻きつけて必死に訴えてたわよね。
そして、そのときまだ私と彼女は隣同士の檻だったから、自然と仲良くなった。
奴隷商が結局引き離したけど、その短い間に私達の間には硬い絆が生まれてた。
そして、あの日がやってきた。
『買った!』
『おいおいおいおい、お客さん、こっちこっち………。』
「………あ………。」
私はリリーの手をとろうとしたとき、血で染まってベトベトになっていることに気がついた、これじゃ、リリーの手は取れないか………!?
「………リリー?」
「行こう………ナーノ?もう行こうよ………。」
「………うん、そうだね。」
リリーと手をつないで私達は奴隷商の店を出た。