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ある奴隷の物語 3

「………うわぁぁぁ、きったないなぁこれ、どうなってんのマジで。」


そう漏らしているのはナーノだ、俺のバックを見て引いている、まぁそりゃそうだ、この中ときたら旅の間に入り込んだ土埃や砂利で白くなっていて、外見も風雨にもろにさらされているし、ドロドロの地面におっこどしたせいで下のほうが真っ黒だし、せいぜい産業廃棄物あたりが妥当なところだ。


「………ご主人様って、ずっと思ってましたけどこういうの全くできないんですね………。」

「めんどくさいし、何か問題でも?」


『いい加減部屋片付けたらどうなんだい、あのね、こんな部屋にいるから心も荒むんだよ?』

『うるっさいなぁ!!黙れよババア!めんどくせぇし、汚くてなにか問題でもあるのか!?』


俺は悪しき記憶を掘り起こして苦い顔をしていただろうが、ナーノはそれに気が付かず勝手に荷物を整理し始める。


「………え、いいのか?」

「………まぁ、私はもうあなたのものですし、生も死も、ね。」


そういってナーノはうつむきながら首輪を触る、奴隷につけられるという首輪だ、普通は奴隷紋を肌に刻むだけらしいが、この街では呪いをかけた特注の首輪を取り付けるらしい。


「………生も、死もかぁ。」




「ナーノォ、おっはよ〜!!」

「やっと起きたんですか、ご主人様。」


ナーノは下でご飯を作ってくれていた、ナーノは本当に何でもやるな………。


………ナーノを買って俺は本当に良かったと思う、こいつマジで何でもできるからな、飯から戦いまで本当に何でもやれる、こいつに出来ないことなんて無いんじゃないか?


「じゃあ俺はダンジョンに行ってくる、ナーノ、頼んだぞ。」

「はぁぁぁ〜い…………。」




「………ふうぅぅぅぅぅ、疲れたぁぁ………。」


私はそういって椅子にもたれかかる、あぁぁ、冒険者とかいうから戦闘奴隷かと思ったのに、まさか家事やらされるなんて、こんなことしたの家を出て以来ね。


はぁぁ、疲れる、これはこれで疲れる、これでも私ステータス高いから肉体的な疲れはない、だけど人間には精神というものがある、


「………でも、仲間と比べたらずっとマシよね。」


私はそういいながらあの店で出会った仲間たちの顔を思い出す、はぁぁ、今元気にしてるかなぁ………。




自分でも気づいていなかったけど、私の足はいつの間にか貧乏ゆすりを始めていた、些細なことだったけど、私はこのあとのことを思うと結び付けられずにはいられなかった。




「………おう、来たか。」


それは夜のことだった、俺は最近よく来てるこの街の酒場に今日も足を運んだのだ、そして珍しいことに普段注文のとき話すだけだった親父が話しかけてきた。


「お前のことを知ってるぜ、べっぴんさんの奴隷を家でこき使ってるそうじゃねぇか。」

「あぁ、そうかい、別にこの街じゃ不思議じゃないだろ?」


俺はそう返すと親父はガハハと笑ってから


「………で、どうなんだい、お前ベットの上でも」

「あーあーあーふざけんな!!!お前いきなり絡んできたと思ったら何なんだよ!」


俺は突如下ネタをかます変態親父に思わずそう怒鳴ってしまう、まったく、こんな人前でそんな話すんじゃねぇよ。


「というか、俺別にそういう目的であいつ買ってねぇから。」

「嘘付け青二才、アッチの目的じゃないならなんだってあんなかわいこちゃん選ぶんだよ?俺には分かってるぜ?」

「うるさいなぁ、本当にしてねぇよ馬鹿、あぁもう、頭湧いてるんじゃねぇか………。」

「………そうかそうか、そういうことか………いざ女の奴隷を買ったはいいが、恥ずかしいからやれねぇんだろ?」

「なっ………。」


認めたくないところだな………。


まぁね、下心が無かったわけじゃないよ?内心ナーノの下着の下とかめちゃくちゃ気になっていたけどそれこそ正常な反応だよね。


「………でもなぁ親父、だとしても俺にはむりやりする気はない、抵抗して、泣きわめく女の子に手を出す趣味はないからな。」

「紳士だねぇ?」

「強いて言えば、むしろこう、なんていうか………侍らせる感じがいいな、あぁ、そうだよ、ハーレムだよハーレム。」

「SはSでもベクトルが違うだと………!?そんなことがあり得るというのか………!!!」


そうは言うがよくよく考えれば無数の女を侍らせてハーレムを作るのは異世界無双の常識だもんな。


あと、別にSじゃないし、SだったとしてもSにMが加わっただけだしベクトルが変わってるわけじゃないぞ。


………ゴホン、いつの間にか下ネタに走っていたが違うんだよ馬鹿、そうじゃない。


「で、なんだよ。」

「お前、女を手玉に取りたくないか?」

「へ?」


親父は奥の方に消えていき、しばらくすると箱を持ってくる。


「………え、これ………。」

「ケーキだな、うちの特製で、こんどメニューに載せようと思う、女の子がバンバンやってくるぞぉ………!!」

「こんなむさ苦しい酒場で正気か………?」

「むさ苦しいからこそ女に来てほしいんだよ、わからないか?俺だってお近づきになりたいんだよぉぉぉ、いいなぁぁぁ美女奴隷にしやがってよぉぉぉぉ!!」

「………。」

「と、いうわけでナーノちゃんにこれよろしくな。」


………だが、と俺は思う。


ナーノはここ最近さすがに働かせすぎたかなぁとは思う、必死に洗濯物を処理してるときに急いでいかないといけないお使い頼んだりたか、ちょっと酷使しすぎたとは思う。


ここらでこういうケーキでも送っておかないとちょっと仲というか、色々大変なことになるんじゃないか?


俺はそう思って引き受けた。




「………ナーノ?帰ってきたぞ。」

「おかえりなさいご主人様!」


そう奥の方でナーノの声がする、俺はその部屋を除くとナーノが洗濯物を畳んでいるところだった。


「ご主人様、これ明日の着替えです、どうぞ。」

「うん、ありがと、ところで、ナーノ、その………こんなもの買ってきたんだが。」

「へ?」


ナーノはケーキの箱を見ると眉間にシワを寄せる。


「なんですかそれ。」

「いや、これは」

「いま流石に忙しいので、前みたいにお使いは勘弁して欲しいんですけど。」

「………。」


俺は不機嫌な顔をするナーノを見て後ずさり、一旦引き下がる。




「………あのぉ………終わったぁ?」

「ええ、終わりましたよ。」

「そうか、じゃあ」

「これから遅いですけどゴミ捨ててきますね、夕食作るのに時間取られてしまったので。」

「………いやいや、ちょっと待ってそんなに待ったらケーキが腐る、ストップ、ストップ!」


俺はナーノを引き止めるとテーブルに座らせ、箱を開ける。


「これがケーキだ!」

「………。」

「………いや、その、ケーキ買ってきました、はい………。」

「………これは、私のですか?」

「うん、そう、だけどぉ………。」


俺の声はどんどん小さくなっていく、おかしい、何かがおかしい、何か、大切なことを間違えている気がする………!!!


「………食べ終わりました。」

「うん」

「じゃあこれから仕事に」

「ちょっと待った、待って!これ作った人に感想聞くように聞かれてるんだよ、感想、感想!!」

「美味しくなかった!!これでいいですか!」

「………え………。」


ナーノはテーブルをダンと叩いて俺をにらみつける。


「と、いうより美味しく感じられるわけ無いじゃん!考えても見てよ、こっちは今どれだけ忙しいかわかる!?今日もまだ終わってないことがたくさんあるんだよ!?そんな中呼び出されたと思えば買ってきたケーキを取ってつけたように差し入れ!?」

「買ってきたケーキは別に」

「お分かりにならない!?そこらの店で普通に買えるもの出して、出してぇ!ケーキ出しとけばご機嫌取れるだろって浅ぁぁぁい考えが透けて見えるんだよ!!」

「ギクゥ!!」

「ようは!!押しつけがましいんだよ!こんないやいや食べさせられて美味しいとか言う人、考えられる!!?美味しいと思っても私だったら死ぬ程まずいって言っちゃうところよ!!」

「いつもご主人様そうよねぇ!!こっちが仕事で手一杯ってあんたがいっちばん分かってるでしょ!なのにどうしたらさらにお使いだの何だの頼めるわけ!?正気!?頭イカれてんじゃないの!?私は一人なの一度に2つも仕事はできないの!!」


俺はしばらくの間、呆然としていた、あまりの剣幕になにも言い返せず顔は真っ白な状態で脳死しながらガクガクうなずいていた。


だが、だんだん頭が追いついていくと真っ白な頭に血が登っていくのがわかる、俺は次の瞬間テーブルのものをすべてなぎ払い、皿が割れる音が響く。


「うるせぇんだよクソビッチ!!死ねよ!まったく、アホくっせえ………。」


『せ、聖也………。』

『ちっ、さっさと出ろよクソババア、じゃま臭えんだよ。』


それは、かつて日本で母さんに対して投げつけた言葉と全く同じものだった。

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