ある奴隷の物語 2
「ナーノは戦えるのか?」
「もっちろん!これでも私元は冒険者ですから!」
俺が部屋に帰ってから聞くと、ナーノは自信満々に答える。
「そうか………じゃあダンジョンにもついていってもらおうかな。」
「ダンジョンかぁぁぁ、久しぶりだなぁ。」
ナーノは満面の笑みを浮かべている。
俺とナーノは防具屋と武器屋に行ってナーノの分を一式揃える。
「おおぉ、これは、結構いい防具かもしれない!」
「そうか。」
「ていうかご主人様剣二本あるんだから一本貸してくれてもいいんですよ?」
「だめだ!!!」
こんなお宝っぽい双剣を片方でも他人に渡す!ごめんだね!それに、いざとなればこいつには金策にきえてもらう予定なんだ!!
………まぁ俺結構魔法でどうにかしちゃう感じだし、持っててもあんま意味はないとは思う。
「………テント持たないんですか?日帰りですか?」
「う?うん、まぁそうだけど………なぁ、ここだけの話さ、他の冒険者って、やっぱりテントはってダンジョンに籠もってるの?」
「え………?」
ナーノは一瞬ぽかんとしたあと、知らないんですかという。
「………うん。」
「分かりました、こんど私が教えますよ、はぁぁぁ、ご主人様なんかすごそうな冒険者だと思ってたのに。」
「悪かったな!これでもAランクだわ!!」
俺はそう言い合いながら下層へと下っていく。
「………あれは、スライムですか。」
「スライムか………あれは苦手なんだよなぁ、べつに負けはしないけど、倒すのがなぁ。」
この世界のスライムは雑魚どころの話ではない、物理攻撃は基本完全耐性をつけており、ついたあだ名は戦士殺し。
基本的に工夫しなければ戦士が倒すことが不可能とすら言われている。
「………ご主人様、そんな事もできないんですか?」
「う、うるせぇ、あんなの無理だろ、お前できるのかよ!」
そういうとナーノは歩きだし、スライムに近づく。
「………はぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
ナーノはスライムの端のところを先制で一閃する、スライムの体は小さいのと大きいので分離して、小さい方は地面に消えていく。
「はぁ!!?」
「スライムは核と分断されると消えてなくなるんですよ!!」
ナーノはスライムが伸ばす触手を片端から切り落とし、落としたはしから消滅していく。
「………そしてっ、ある程度消えたなら!」
ナーノは一気に間合いを詰めて核を剣で叩き斬る、核の大きさは野球ボールくらいのサイズ、しかも縦横無尽に動いている、これを切れるとかバケモンかよ!!?
核が砕けたとたん、スライムは震えたあと、崩壊していく、やがて青い粒子となって。
これはスライムに限った話ではない、じつは魔物は全部このように粒子となって消えてしまう、スライムほど急ではないが。
「で、どうです?」
「………………。」
俺は黙って後ろのスライムを土魔法で押しつぶす、その轟音に気づいたナーノが後ろを見てぎょっとしている。
「………ご、ご主人様、もしかして私も、私も………?」
「何言ってんだよ、そんなん殺人じゃねぇかよ、誰がやるか。」
「………殺人、そうですよね、やるわけ無いですよね普通は。」
「………ふうぅぅぅぅぅ。」
「ええええぇぇぇぇ………。」
オーガを一匹ぶっ飛ばした俺は粒子が少しずつ漏れ出る死体の上に座り込む。
「どうよ!?」
「まぁ、オーガくらいなら私でも何とかなりますけどぉ………今のなんですかあの土魔法、ふつうあんな心臓貫けたりしませんよね。」
「うん………まぁな。」
そうか………金属化法は確かどこぞの冒険者が編み出したけど公にはなってない秘伝のスキルなんだっけ?説明にもそんなことが書いてあったな。
「ていうか、魔物からは経験値以外取れないんですよ?知ってますよね。」
「知ってるに決まってんだろ人をなんだと………。」
そう、魔物は時間が経てば基本死体は青い粒子になって消えるため、素材の回収はできない、にもかかわらずダンジョンに潜るのは、お宝のためだ。
魔物と戦っても金にはならないからいっそのこと戦わずに隠れながらお宝を回収してくる冒険者すら存在する。
「………と、言ってればあるじゃないか、金結晶が。」
「………!!?!?金結晶!?」
俺は剣でそれをたたっ斬り、クリスタル状の黄金を持ち上げる、うん、だいたい石ころくらいのサイズか。
元の世界では金の採掘はメチャクチャな重労働だった、なんせ何百キロの金鉱石から恐ろしいほどの手間をかけて精製しても砂粒ほどの量しか取れないのだ、それはこの世界でも基本的には変わらない。
だが、各地に点在するダンジョンの下層では、それが拳で握れる石ころサイズとはいえそのまま結晶化しているのだ。
むろん、Aクラスが命がけで潜る最下層でも見つからない日もあるくらいだが………別にダンジョンで手に入るのはこれだけではない、銀結晶なんてのもあるし、魔法に使う素材も取れる。
「………あと、ご主人様魔法使えるのに属性宝石のたぐいは持ってないんですか?」
属性宝石、魔法とは物質から魔力というやばい力を引き出すとその物質に由来する力を行使できるこれがこの世界の魔法だ。
いわば普通のラノベの精霊魔法みたいな、精霊から魔力を借りるのがこの世界では物質から借りているわけだ。
そして、じつは俺のようにそこらの物質から魔力を引き出すのはじつは時代遅れ、古代の英雄が使っていたような原始魔法と呼ばれるものだ。
この世界では、属性宝石と呼ばれるある属性の魔力の塊から魔法を行使する、そりゃそうだ、じゃなきゃ火魔法を使うたびに松明を持ち歩き、水魔法を使いたいなら水筒を、唯一土魔法と風魔法は大抵の環境でも使えるが、それだって水の中だったり、空中に放り出されるとやっぱり使えない。
「買おうとは思ってたんだが、冒険者の魔法使いは自分でとってきた属性宝石を使うこともあると聞いてなぁ。」
「あぁ………自分の手に入れた宝石で魔法を使いたいから買わなかったと、はぁ、呆れた………じゃあ、いますぐ探してみましょうか?」
「あぁ、そうしようか………。」