ある奴隷の物語 1
「おい、聞いたか?」
「あぁ、あのぽっと出セーヤか。」
ここはオドロア王国東の街。
冒険者ギルドでは、つい一ヶ月前に入ってきた生意気な新人の話に盛り上がっているところだった。
「あいつもうこの街を出るらしいぜ。」
「へぇ、そうかい。」
「ふっ、いい気味じゃねぇか。」
そう突然話に混ざってきた冒険者が吐き捨てるように言う。
「おい、お前………。」
「別にいいだろうがよ、あんなの、インチキに決まってんだから、どうせ貴族のボンボンかなにかで、親に引っ付いてるだけだろうよ。」
「あのなぁ………。」
そう平気で言いまわるその男に周りの冒険者はさすがにため息をつくが、とはいえ彼らも口には出さずとも同じことを思っていた。
彼らには気に入らないことがあった、それはその男の自分達に対する態度だ。
例えば、これはやつがまだFランクだった頃の話だ。
『よう、お前が新入りか、これからよろしくな。』
そういってやつにBランク冒険者が話しかけてきたことがあった。
周りは途端にざわめいた、なにせBランク冒険者ともなれは間違いなく英雄クラス、束になっても敵わない魔物を日々単騎でぶっ倒している。
『はい、よろしくお願いします。』
そうお辞儀をしてやつは帰っていった………これがそこらのEランクならわかる、Dランクでも笑い話で済んだだろう、だがBランクとなれば話が違う、これを日本で例えるなら平と社長、学生と校長くらいの開きがある。
ただでさえそういう先輩後輩の上下関係がきっちりしている中世世界だ、そんなところでこんなことしていたらいやでも総スカンを食らってしまう。
それに、それにだ………その新人はたった一ヶ月でダンジョンの最下層まで到達、FランクからAランク冒険者に一気に上り詰めたのだ。
他の冒険者は皆こう思ったことだろう。
『俺達先輩に対する態度が薄いのは、内心俺達を雑魚だと見下していたからか!?!?』
と、冒険者達は思ってしまうわけだ。
そして、これが一番の原因だが、人というものは、理解できる成功は称賛するが、理解できない成功は疑ってしまう、たとえそれが真実だとしてもだ、一体この中の何人が聖也の成功を理解できたのか、理解できるはずがない、なにせ聖也はある意味自分の力でやったわけではないのだから。
なんでこの男は日本で会社を首になり、ニートになっていたか嫌というほど分かる場面である。
「だれだよこんなにゴミを溜め込んだ阿呆はよ!!」
あ〜はいはい知ってますよ悪うござんしたねぇ、まったく、どいつもこいつもなんだよあの言い方はよぉ………。
「さすがの俺もゴミだしくらいはやるわ!だけどよ………。」
「この世界じゃゴミってどうやって出すんだっけ!?」
この悩み、きっと異世界人にしか分からないに違いあるまい。
そう思いながら俺はゴミを燃やしたあと袋に捨てて街の外れに捨てておく、これでもマシな方だろう、地球じゃ糞尿は街路にぶん投げていたらしいからな。
「………終わったんですか!セーヤさん!」
「はいっ!!終わりました!!」
俺はそうキレ気味に言うとその大家は一瞬驚いて口をあんぐり開けていたあとすぐに自分を取り戻し、礼儀がなってないだの何だのギャンギャンブチ切れ始める(くそったれ)
そうです、俺はクズです、どうしようもないクズ人間でーす!悪うござんしたねー!(開き直り
「ちっ、異世界に来たあともこんな調子かくそったれが。」
俺はそう吐き捨てながら荷物をまとめる、くそう、こんな街捨てて出ていってやる!覚えてろよバーカ!!
「………ちぇっ、一人ぼっちかそうですか、でもいいんだよ〜ん、僕ちんこれから仲間探しに出かけるからねーだ!」
俺はこの街で仲間となってくれる、あるいはパーティに入れてくれる冒険者を探していたのだがことごとく失敗した、一体何がいけなかったんでしょうね?
だが、この中世世界には、奴隷という便利なものが存在しているのだ。
「オドロア王国の西端、大山脈地帯には奴隷を使って鉱石ほってるところがあるらしいな………。」
しかも、最近は奴隷の売り買いまで始まっているとか………これは勝ったな。
そう思った俺は荷物をまとめ向かうわけだ。
「………さすがにずっと歩きっぱなしも精神にこたえるな。」
【ステータス:鈴木聖也】
【レベル:1251】
HP:125100
力:12510
防御:12510
魔力:12510
知力:12510
素早さ:12510
【スキル】
カオスアップ・ソウルドレイン・スキルツリー・開眼・魔力操作・特級火魔法・特級水魔法・特級土魔法・特級風魔法・ベック式金属化法・身体強化レベル10
「ふっ、最強だな。」
このようにステータスが化物じみているために体の疲れは感じない、だがずっと森やら平原やらただ歩いているだけではさすがにな。
「………まぁ、せいぜい頑張りますか。」
こうして俺がやってきたのがオドロア王国西端の鉱山都市。
俺がここに来て最初に思ったこと、それは………。
「………なんか人多くね………?」
どこもかしこも人、人、人、人でごった返してなんかやべぇ。
「どうなってんだこれ?」
俺は人混みにもまれながら町中を歩いていると変わった人たちが見えた。
古びてシミだらけの服を着た人たちが鉱山に向かって歩いているが、その首には首輪がついている、きっとあれが奴隷なんだろうと俺は目星をつける。
「………さて、奴隷商を探すか。」
「………こんにちは、あなた様は冒険者のようですね、戦闘奴隷をお求めですか?」
「あぁ、まぁそんなところかな?」
そう俺は若干言葉を濁す、どんなやつが欲しいとかとかこっちに来てから考えればいいや(鼻ホジ)だったから答えられないんだよ!
「あの、適当に見てピンときたやつを買おうと思ってたんですけど………。」
俺はそういうど奴隷商は一層笑みを浮かべ、黙って部屋に案内した。
「………これは。」
窓がない部屋、奴隷たちは暗い部屋で牢屋というより籠の中に押し込まれていた、成人一人が入るかどうかという狭さだ。
「………お、おぉぉぉぉぉぉ………。」
「あぁ、あの奴隷ですか、あれは素晴らしいですよ、あれこそ当店自慢の商店です。」
おぉぉぉぉぉ、エルフだエルフ、めっちゃ美人というかかわいい、み、耳が、耳がちゃんと長い!!
そのエルフだけはちょっと大きい籠の中に入れられていた、じっと地べたに座りながらこちらを見ている。
「奴隷商、あの子は金貨何枚ですか!」
そう俺が聞くと、奴隷商はカラカラ笑いながら答える。
「それはそれは、金貨なんてちゃちなものではどうしようもありませんよ、あれは聖銀枚1枚、価値にして1000万Gとなっております。」
俺は目をひん剥いて言ったさ、買った!
奴隷商はそのとき初めてびっくりした顔をしたがすぐに眉間にシワを寄せる。
「お客さん、お金はあるんですか?いくらなんでもこんな」
「ほい。」
俺はそういって聖銀貨を1枚渡すと奴隷商だけではない、周りががやがやと驚いている。
「おいおい………。」「冗談だろ」「あんな大金見たことねぇ………。」「ここら一帯の奴隷買い占めれるぞ………。」
その時だった。
「おいおいおいおい、お客さん、こっちこっち。」
そう俺を呼ぶ声が聞こえたのでその方向に顔を向ける、それは俺の隣の籠の中で座っている女から聞こえてきたものだった。
「お客さんお客さん、私だったらいまなら銀貨1枚で済みますよ?だったら買うしかないんじゃないですかねぇ。」
「………。」
俺はそいつとエルフを見比べる、まぁ、うん、褐色肌、巨乳、銀髪、ダークエルフかなと思ったが別に耳は長くはない、顔を可愛い方だし………。
「………ねぇ、頼みますよ旦那ぁ、私じつはちょっといろいろやらかして、旦那が買ってくださらないとヤバイことになるんですよ、だから、ねぇ?」
「えぇ………。」
なんだろう、そう思うとちょっと怪しい感じだけど同情心で買いたくなってくる。
「頼みますよ!」
「…………、奴隷商さん、エルフはやめにします。」
「えぇっ!?は、はい………。」
「うふふふふふふ、ありがとな旦那、いやご主人様!」
「う、うん………で、名前は。」
「私?私はナーノ、ご主人様は?」
「俺は聖也だ、鈴木聖也………分かるかな?」
「へぇ、ご主人様顔つきおかしいと思ったら異国の人なんだ。」
………とにかく、こうして新たな仲間としてナーノが加わった。