スズキ・フォン・セーヤ 4
「………バーン大将軍、ただちに以下の質問に答えてもらおう、王室常備軍は貴族の騎士団連合に勝てるか。」
「………不可能、とまでは言いません、しかし、勝率は10%程でしょう、それでもあの忌々しい貴族共に末代まで残る傷くらいは残してやります。」
「………そうか、よろしい。」
バーン大将軍は下がると、続いてアレクセイ公爵が質問を受ける。
「小麦価格制限法はどうなっている?」
「現在大急ぎで草案の作成に取り掛かっております、しかし………。」
「なんだ。」
「古来よりこの手の法案はまともに施行された試しがございません、たとえ貴族に勝っても裏取引で高額売買が行われるのが関の山かと。」
「………。」
ベルベス6世はしばらく黙りこくったあとで呟いた。
「いっそ、外国の小麦を流入させるか………。」
「!!!」
確かに、外国から安い小麦を輸入して国内に流せば、貴族達もそれに対抗して価格を引き下げざる負えない。
だが、そうなれば外国に対しての依存度が強まってしまう可能性がある。
「………とはいえ、それしかないでしょうな………どの国から小麦を?」
「隣のカーラン王国から輸入しよう、あそこは我が国と同じく穀倉地帯だ、あそこの小麦を国内に流せばいい。」
「………もっとも、それすらも貴族たちの激しい妨害にあうでしょうな。」
「国政とはこれほどまでに難しいものなのかと常々思う、頭の中ではいくらでもアイデアは思いつく、だがそれを実行するのは非常に難しいものだ、いかに優れていても、必ず権益とぶつかり合う。」
「全くですな、全くそのとおりです。」
「………それと。」
バーン大将軍はそこで間に割って入る、二人がまだまだ若いその将軍を見つめると、バーンは答える。
「マハグニークが、貴族連合側についたとの情報が。」
「………伝説のスパイマスターか、Sランク冒険者を一蹴する能力を持ちながら一切自らは干渉せず、周りのものを操って任務を達成するとかいうあれか………。」
「はい、この前の奴隷反乱の際彼が関わっていたという情報を掴んでいます、首輪の鍵を配って回るだけで一貴族を潰すとは、腕は健在のようですね。」
「考慮に入れておこう。」
「………この金額はやばいなぁ〜。」
「………やっぱり無理でしょうか?さすがに10億Gは払えないと思うのですが………。」
「いや、払えるけどさ。」
「………。」
「でもさすがにもう財布も空になっちまったなぁ、1億Gくらいしか残ってない。」
「………おかしい、おかしいぞこの人、伯爵クラスの年収くらいの財産がある、おかしい、おかしいぞ………どおりで空にならないわけだ………………。」
マックスはめんたまひん剥いているが、幸太の方はそれほどでもない、驚いてはいるが、まぁ想定の範囲内、「まぁ払えるっていうんだからそりゃあ持ってるよなぁ疑ってそんしたわぁ〜」くらいの軽さだ。
「じゃあ、俺は俺なりに財源確保してくるから、マックス君あとはよろしくお願い!」
「ははっ、マインカイザー!!!」
「………ずいぶん派手にやってるのね。」
「ほんと呆れ返るよ、セーヤは。」
性格のダメダメさで今の今までナーノですら理解できなかったが、こいつなんかヤバくね?
「………俺達はなんかやばいの引き当てちゃったのかも知れないなぁ…………。」
「でも、あれはあれで結構脆いと思うわ。」
「へ?」
ナーノは静かに話し始める。
「彼の力こそ超一流の戦士そのもの、でも精神は未熟そのもの………彼がそこらのDランク冒険者だったらそんな適当にやっても問題はない、でも、彼はいまこうして急速に力をつけて、もっと大きな事に足を踏み入れようとしている。」
「………ナーノ?なんか今日のお前変だぞ?」
というマックスの声を無視してナーノは言う。
「もっと大きな困難に出会ったら、彼は一体どうなるんでしょうね?」