揺れる大樹 5 新たな始まり
「………そろそろいい頃合いだろう、全部隊に伝達、前進を開始せよ、もはややつらに抵抗能力はない、前身を開始せよ………。」
そう加藤がいよいよ戦いに決着をつけようとしていたとき、世界においても、一つの転換期となる出来事が起きようとしていた………。
「………ナーノ!!」
「リリー!!生きてたのね!!」
私達は戦線の後方で合流すると、そこへセーヤもドタドタとこっちに向かって走ってくる。
「俺が森の中で迷子になってる間に何があったっていうんだ?どうしてこんな事になってるんだ?」
「分からない、世界樹が影響しているのか、何なのか………でも、この世界がおかしくなってるのは確かよ。」
「………。」
そこで、リリーはしばらくうつむいて考えていると、突然俺たちの話を遮って話し始める。
「………あのね、聞いてほしいの………。」
「………リリー?」
「………どこから話せばいいの変わらないけどね、この世界の異常がなんで起こってるのか、私は知ってるの。」
「………!!!!」
俺とナーノはリリーを見やると、リリーは二人に話し始める。
「………まず、突然現れた人や建物、それらはすべて私達とは異なる世界から送られてきた。」
「異世界………。」
「それは、本来10年に一人二人、人が送られてくればすごいくらいの頻度だった、だけど………そのバランスが大きく崩されようとしているの、他ならぬ、世界樹のせいで。」
「世界樹が、この原因なの………?」
「この混乱は、世界樹が引き起こしたことなの、私には分かる、理由は分からないけど、私にはそれが分かる………これから状況はもっと酷くなるの、だから………!!?」
再び揺れが起こり、また地面からビルが突き出してくる、俺達はそれを黙って見上げると、やがてそのビルが貫く空が、真っ黒に染まっていることに気がついた。
「………雨………。」
「………ありえねぇ、ありえねえって。」
「そうだよ、そんな、なんの確証もなくそんな事できるわけ無いだろ?やるにしてももっと説明とかさ、そういうのをな………。」
翌日、雨の中崩れかけた建物の中であつまった俺達は、リリーが提案した計画を聞いて一様に反対した、それはそうだろう、どうやってやるのか、具体的な説明もなくいきなり私を空まで届けてほしいと言ってくるんだから。
「………空まで届けるって、実際問題できるのか?」
「そこはセーヤ、あなたがやってくれるって話だったわね、そうよね………?」
「あ、あぁ、俺が竜化して飛んでけば、行けないこともないと思う………それでだめだったら最悪魔法でゴリ押すよ。」
「問題はな、そこじゃないんですよそこじゃ、届けたところでどうするのかって話ですよ、リリーさんはなんでそこだけ頑なに話してくれないんです?」
「………。」
リリーが黙っていると、反対しているエルフ達はその矛先を長老にも向けた。
「長老も、なんでリリーさんを止めないんですか?昔から面倒を見ていたんでしょ?いまこそあなたが動かないと、他に誰が動くんですか!」
「………ワシは面倒なんか見取らんよ、むしろ、面倒かけたのはワシの方だったくらいだしの、思い出すのぉ、子供の頃リリーさんに本をよく読んでもらったもんだしの。」
「………!?!?いや、いやいや冗談でしょ?長老が子供のときから………え!?」
エルフ達はあまりに唐突すぎる事実に混乱し、信じられないと口々にいうが、長老は断言する。
「………リリーさんはの、ワシの知る限りではワシの祖父の代からずっと生きてこられたお方じゃ、だが、本当は、もっと古くからいたはずだと思うがの。」
「………!?!?そんな、はぁ………!?」
「なんだと………。」「あのリリーさんが俺の父ちゃんより年取ってんのかよ!!?」「嘘だろ………。」
「………もっとも、私今は長老のお父さんのあたりの記憶しかなくなってるんですけど………。」
ともかく、これでみんなはより真剣にリリーの話を聞くようになってくれ、中には賛成に傾いた人もいたが、だがやはり大半の人は中立か反対といったところだった。
「………やっぱりさ、どうやるのか説明してくれないと、俺たち納得できないよ。」「そうだ!」「それも聞けないうちから仲間を空に送るなんてできるわけ無い!!」
「………。」
それを聞いたリリーは、みんなに外に出るように伝えると、雨の中に消えていく、その後を追っていったみんなは、どういうわけか一瞬で山の頂上まで移動したリリーを見上げている。
「………!!!!」
エルフ達は、ここに来て周りの景色が様変わりしていくことに気がついた、あの岩肌をさらけ出す地面は緑で埋め尽くされ、やがてものすごい勢いで木々が生えていき、あるべき姿を急速に取り戻していく。
「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
みんな無数に生えてくる木々を避けるのに四苦八苦するが、それが落ち着いた頃にはもはや山頂に立っているリリーが見えなくなるほどの森が完成していた。
「………これが、私の力です、この力で、私は世界樹を鎮めに行きます、一時的ですが、1年………2年はなんとかなるはずです。」
「………な、訳なんですけど………これ、なにも、こんな巫女服引っ張ってこなくても。」
「いいじゃないか、可愛いと思うぞ。」
俺はそう言って肩を叩くとなぜかナーノが咳払いをして俺たちの間に割って入る。
「な、なにするんだナーノ。」
「………女の子の体を不用意に触るのはNG。」
「???」
「………まぁそれは冗談だとして………リリー、私は今回は何もできない、空中では何があっても何もできないわ、せめて浮遊術でもあれば話が違ったんだろうけど………。」
「………。」
「………でも、心配ないよね、リリーはもう私に守ってもらう必要なんかないからね、頑張って。」
そういうとナーノは奥の部屋に去っていく、なんだか、随分と軽い挨拶だな。
「………リリー、それじゃ、竜化した俺の背中に乗ってくれ、しっかり捕まっててくれよ。」
「うん………。」
「巫女様!!里の未来を頼みましたぞ!」
「わ、私そういうのじゃないから〜!!」
「かえってこいよぉ!!」「頑張ってー!!」
エルフ達だけではない、その周りにはこの世界に転移してきた異世界人たちが輪になって俺達を見送っている。
「………。」
ナーノはそれを陰で見送っていた、それはいままでの親密ぶりから考えれば到底ありえないことだったが、周囲のエルフ達はしばらくしてようやくその理由がわかった、ナーノは家に閉じこもり、椅子に座って頬杖をついたり、指を時々噛んだり手を合わせたりしながら、落ち着きなくリリーの帰りを待っていたのだった。