揺れる大樹 3 〜異世界人は世界を変えるか〜
戦端を切ったのは、ドラゴンでもスライムでも異世界人でもない、それは、地のそこから湧き出て来る無数の骸骨だった。
骸骨たちはその姿に似合わないきれいな鎧をまとい、坂道で陣形を形成して登っていく。
「………あれは………。」
「………今度はなんだってんだ………!!」
やっと休めると思ったのに、やっと解放されたと思っていたのに、彼らの戦いは、もう少しだけ続くのだ。
「………みんな!!迎撃用意!!」
「どうすればいい!!」
「魔法使いや弓使いは後方から攻撃、前衛は全面で防御する、それだけよ。」
「そんなの、当たり前じゃないか。」
「いいえ、こんなことでも準備するには時間がかかる、本当の意味で完璧にするにはもっと、多少なりとも戦場にいたことがあるから分かる………とにかく時間が勝負よ、彼らがここに到達する前に準備を終えて!!」
ナーノの言ったことは本当だった、各員はそれぞれ準備を始めるが、いきなりやれと言われても右を左をわからない、とりあえず武器を持って構えたときには骸骨たちはすぐそばまで来ていた。
「やれっ!!」
骸骨たちに斬りかかる異世界人達は、予想以上の骸骨の抵抗に焦りを見せる。
「こいつらっ、攻撃は大したことないが、粘り強い!!」
「頭を叩き割っても体は平気で動いてくる!!」
「しかも、やっとの思いで倒しても、次から次へと来ると来た!!」
戦いは消耗戦へと突入していく。
「………はぁ、はぁ、やるじゃないか。」
「そっちこそ………!!」
スライムとドラゴンはお互い殴り合い、疲弊しきっていた、ドラゴンの体表の炎はすでにろうそくほどの可愛いもので、もはやかつてのようにそれでスライムを焼き殺すなど思いもよらない。
「………こういう激戦を待っていたんだ!!」
「退屈しないな!!やっぱり異世界はよぉ!!」
スライムとドラゴンは最後の力を振り絞り方や巨大な炎、方や膨大な液体、お互いが津波となって最後の攻防が始まった。
そして、その余波となった炎と粘液は山頂から垂れ落ちて、中腹で戦うエルフと異世界人達を挟み撃ちにしていく………。
「………さぁさぁさぁさぁ機動攻撃だ!!精鋭骸骨軍団突撃!!」
凄まじいスピードで山を駆け上がる骸骨がいた、それはなんと足が六本もあり、どちらかというとケンタウロスのような外観をしていた。
それはあっという間に付近の異世界人とエルフを撃ち倒し、周りも無視してそのまま後方まで突撃する、穴は開けられ、そこから兵士がなだれ込み、彼らは前と後ろからこれまた挟み撃ちにされかねなかった。
「………はぁぁぁぁぁ!!!」
スケルトンケンタウロスはその剣をかろうじて防ぐのが間に合ったはずだった、だがその衝撃はその剣を通じて骨を砕き、腕を失ったそれは間もなく第二撃で切伏せられた。
「すごいぞ!!」「さすがナーノさんだ!!」
そう拍手喝采が降り注ぐが、ナーノの表情は暗い。
現在突破された箇所は3箇所、今いる中央と、左右の戦線、ナーノが対処できる場所はそのうちの一箇所だけ。
そして、骸骨に押されて戦線はジリジリと下がっているが、後方はすでに粘液と炎で固められ、下がる余地がなくなっている、このままでは、スケルトンに殺されるか、粘液と炎の海に溺れるかを選ぶことになりかねない。
こんなとき、とナーノはため息をつく、その場の成り行きで彼女が指揮官になっているが、本当はそんな柄じゃないのだ、こういうのは、バーン大将軍だの、レンタインにでも投げたい気持ちだった。
「………どうすれば………天にでも祈る?」
彼女はそう冗談を言ったその時だった。
ドォォォォォォ〜ン!!
どこか遠くから、この戦場の騒音の中ですら聞こえる巨大な爆発音が鳴り響く。
その音を聞いたエルフも、異世界人も、骸骨までもがその方向を見た、山頂を見ればそこで争っている巨大な竜も首をそちらに向けている、スライムにはどっちを向いているかわからないが、その触手は静止している。
「………おい………今のって……。」
「………まるで、大砲みたいだったな………。」
だが、次の瞬間、骸骨の集団の真っ只中で巨大な爆発が起きたことにより、ナーノは援軍の存在を知る。
「おそすぎるのよっ!!もうっ、もうっ!いつまで待たせるつもり!!」
ナーノは夜空の下でそう叫ぶ。
「………総員67名!!戦闘準備完了いたしました!!」
「加藤、俺はピンチらしい左に突撃するから、お前は右から攻撃してくれ。」
「りょーかい、生きて帰れよ。」
「帰るに決まってるだろ………じゃあな!!」
セーヤはそう言って目にも止まらぬ速さで走り出していく、恐ろしいスピードだ、あんなの銃弾じゃどうにもならないだろう、敵に回さなくて良かったと思う。
「………横隊を組めっ!!戦列歩兵だ!!固まれ固まれ!!」
近代戦だったら散らばって攻撃を受けないようにするが、相手は幸い遠距離武器を持ってすらいないようなので密集したほうが強くなる。
「パイクガン構えっ!………てぇぇぇ!!!」
3mの極長銃身から発射された弾丸は何キロも先の骸骨を胴体ごと吹き飛ばす。
「ぐおっ………。」「腕いってぇ………。」「嫌な音したんだが………。」
という嘆きの声はこの際無視する、ステータス補正あるからヘーキヘーキ。
「行進!!戦列を保って行進せよ!!」
「重機関銃用意!!発射!!」
「剣に頼る戦争弱者に鉛の味を教えてやれ!」
「………くそっ、なんだ、何だ何だ!!急激に損耗が激しくなっていく………なんだあいつら!!銃だと!!大砲だと!!?あぁ、こいつらっ、こいつらっ、こっちは百万の精鋭だぞ!!」
骸骨がぞろぞろ出てきた穴に入れば、そこには洞窟が広がっており、最奥に向かえば頭を抱えて転げまわっている指揮官様に会えるだろう。
彼は困惑していた、なぜだ、なぜ自分は負けそうになっている!?
敵部隊は後方を遮断され、しかも波状攻撃で疲弊しきり、あげく集中突破で戦線崩壊しかけではなかったのか!?
「………!?!?」
ドォォォォォォ〜ン、ドォォォォォォ〜ン。
「………この穴から骸骨が出てきたんだろ………だったら、俺たちがこいつを潰す。」
「そうすればみんなは助かるの?」
「おそらくはな………こういうプレイも中々いいと思ってな。」
男の顔は青ざめた。