揺れる大樹 1
「………電気はつかないんだっけな………。」
「あぁ………なんせ、こんなことになっちまったからな。」
ビルの中では中で働いていた会社員達が右往左往していた。
「おいっ、懐中電灯はできるだけ消しとけ!」
「ろうそくはないのか?」
「ないな、でも、あの人たちが持ってきてくれるってさ。」
「あぁ………。」
「あれってさ、エルフだよな〜エルフ。」
「やたら美人だと思ったら、耳が長かったからそうなんだろうな………。」
「………いや、まだしんじらんねぇ、転移つっても会社ごとってのはないわ〜。」
「そうだよなぁ………。」
そのうちの一人が早速もらってきたろうそくにひをつけると、まわりの人たちがぞろぞろと集まってくる。
「………前の震災のときもこんな感じだったよ。」
「お前、あのとき被災したのか?」
「あぁ………おい、遠くから光が見えるぞ。」
「なにっ………!?」
「………きましたよ!!」
エルフの男達は馬車にたっぷりの物資を積み込んで到着する。
「おぉ〜!!」
「さぁ!!降ろせ降ろせ!!」
食料品は降ろされていき、エルフの里の中にどんどん運び込まれていく。
「ナーノさん、料理できます?」
「え………なんでそんなこと聞くの?」
「決まってるでしょ、これから飯ですよ飯、飯作るんですよ。」
「………ん………おかしい………何かがおかしいぞ。」
「………わかってます、セーヤさん。」
「あぁ………道がわからん………!!!」
エルフ達より到着が遅れるという事態に陥ったセーヤだが、まだまだ彼らは辿り着けそうにはない………。
「………はい、これどーぞ。」
「ありがとうございます!」
エルフ達が配るスープを飲み飲み異世界人となった日本人達はこれからの事について様々なことを話し合っている、絶望する声もあったが、逆に新しい生活にワクワクしているという声も少なくなかった………。
「………………まただ!!またきたぞ!!」
「くそっ………!!」
強い揺れとともに飛び出てくる巨大な建物。
「………くそっ、あれで終わりじゃないってのか!」
「このままじゃ里もやばいぞ!?」
その時だった、再び地震が起きたかと思えば、次の瞬間、ビルの下からビルが飛び出てきたのだ、その結果として上にあったビルは地面ごと上空に持ち上げられ、しばらく揺れたあと倒れてくる。
「おいっ………逃げろぉぉぉぉぉ!!!!」
ドォォォォォォォン……………。
「………くっ………予想以上にやばいな。」
「なんだってんだよ………俺たち、なんかした?」
「するわけねぇじゃん、それより、まぁ、あれだ、とにかくビルの中の人達を助けないと!」
私は崩壊した瓦礫の山の中に入る………。
「………う〜………いててて………。」
「………さすがにセーヤの世界の人だけあって頑丈ね………。」
私は呆れ半分にそういった、大半の人は恐ろしいことに軽い怪我で済んでおり、重症者も少なかった。
それは、死人が出なかったというわけではないけど………。
「………………!!!!」
と………崩壊したビルの瓦礫を突き破り、次の瞬間巨大な何かが飛び出してくる。
「なにっ………!!?」
ドロンとしたその液体はみるみるうちに膨れ上がり、その液体に吸い込まれた瓦礫や人は中で浮き上がり漂っている。
「………みんな!!下がって!!下がって!!」
だが、そのスライムはそれよりも早く周辺の人々を飲み込んでいった、触手で絡め取られたそばの男を助け出した私はやつを止めようと剣を抜き放つ。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
飛んでくる触手を切り裂きながら私は進んでいく、切り裂かれた触手は地面の上で消えていく。
一回、二回、私はスライムを切り裂いていくとドボドボと本体から分離したことにより体が崩壊していく、一度分離した肉体はもうもとには戻らない、スライムは体をタプタプと揺らし逃げようとした。
「させないっ!!」
私は剣を振ったその瞬間………。
「………え?」
その剣は空振りした、その剣が通った場所にいたはずのスライムはどんどん小さくなっていく。
「………なに………?」
私はスライムを見つめていると、スライムはやがて手で持てるほどの大きさになり、一匹のネズミへと変化した。
「え………。」
私はそれを黙ってみていたが、変身しようとしていることに気がつくと、急いで剣を振って叩き潰そうとしたがもう遅い、スライムはネズミに変じて瓦礫の山に消えていった。
「くっ………!!!」
「………次が来るぞ!!」「またビルか!!」
「いやっ、違う………なんだ、なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「………は………?なに………?」
「はい………確かに、確かにこの目で確認してまいりました、エルフの里で巨大な山が突如隆起、一瞬にして2000mクラスの山が誕生しました、現在共和国軍が山の中に入って生存者を探しておりますが………どれ程助かったかはわかりません。」
「………記憶がない………?なんで?お姉ちゃん、なんで子供のときの記憶がないの?」
「ごめんね、でも、思い出せないの、両親のことも、どれくらい生きているのかも………ごめんね。」
「いいんだよリリーお姉ちゃん!!じゃあね!」
そして、彼女はいまも変わらずそこにいる、エルフとて不老ではない、その寿命には限界がある、それはおおよそ300年と呼ばれているが、100年ぶりに帰ってきた彼女の姿は、何一つ変わってはいなかった………。
「………長老、ご無事で!」
「………あぁ、すこし身体を打ってしまったが問題はない、それより、皆は?」
「わかりません………くそっ、この瓦礫をどかせればいいんだが。」
「何人くらいがここに閉じ込められている………。」
「さっき数えたところ、およそ数百人………おいっ、しっかりしろ!おいっ!!」
「はは………悪い、俺はもうだめだわ………。」
長老はこの瓦礫の中にあるたった60m平方程度の空間におし込められた面々を見やる、そこにはエルフだけではなく転移してきた異世界人もいる。
「………なぁ、あるんだろ、お前らさ。」
「………なによ、何があるっていうの?」
「もらったんだろうがよ、スキルをあの女神から。」
「………。」
それは、転移してきた人達が今までお首にも出さなかった事実だった、そうだ、彼ら一人一人が強力な能力を授かっているのだ。
「………もらったけど………。」
「………あのさぁ、いままで俺達、なよなよして、いままでなにもせずエルフ達に頼り切って生活してきた、だけどさ、俺達には力があるだろう?もうこんなマネはやめないか、彼らは困ってる、いまこそ俺たちが立ち上がるときじゃないか?」
「………。」「でも………できるのか………?」「俺達なんて、ただの平社員だぜ?」「こんなこと、任せられるなら警察に任せたかったよ。」
「………あのっ!!」
そこへ、手を上げた女性がいた、彼女は会社員じゃない、転移してきたのは会社だけじゃない、当然人が住んでいるマンションもこれに含まれる。
女性は、なんと1児の母親だった、子供が保育園に行っているときに転移にあったためにずっと子供の心配ばかりして、ソワソワしていた、というか、今も体をわずかに震わせていたが、その目は本物だった。
「私達、もっと頑張らないといけないと思うんです!!たしかに私達はいきなり日本から飛ばされてこんなところに転移させられました、右も左もわからない、だからウロウロして、何もかもさせるがままに、流されるままに行動していました!でも………その………。」
そこで彼女はうまい言葉が思いつかなかったのかしばらく黙ってしまう、中には悪態をつくものすらいた。
「………俺もやるぜ。」
だが、その思いは伝わっていた、その男はさえない頭のハゲかけたおっさんだった、だが、その目には外見からはわからない何かがあった。
それから、パラパラと手は少しずつ上がっていた、小さな波紋が、少しずつ広がるように、やがてはいままで尻込みしていたものも、関係ないだろと思っていたものまでもさっきまでの言動を忘れたかのような情熱で沸き立つ始末だった。
これは、山の中で孤立していた各地で見られていた光景であった、いままでとてつもない能力を秘めていながら何も出来なかった、しようとしなかった彼らは、この瞬間ついに立ち上がり、将来的には大きな力となっていくのである。