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ある奴隷の物語 5

「おい、やっと戻ってきたか。」

「これは?」

「どうしたもこうしたもねぇよ、放っておけないからみんな助けちまった。」

「………いいわ、私もそうすると思うから。」


この店にいた仲間は、総勢で30人、なかなかの大所帯だと思う。


「さぁ、逃げよう。」

「分かったわ、マハグニークが外で馬車を用意してるそうね。」

「おう、今すぐ向かうぞ。」

「おいおいナーノ、こんなにたくさん乗れるのか?」

「馬車には荷物だけ載せてみんなは歩けばいいわ、公平でしょ?」

「馬車が必要になる荷物なんざねぇよ、こちとら物持ちがよくねぇんだ。」




「………これもぉ、これもぜぇぇぇんぶ親父のせいだよぉぉぉぉ、ヒック。」

「お、おう、何だお前は、妻と離婚したあとみたいじゃないか。」

「……う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


俺はそういって親父に泣きつく。


「おいおい、とりあえず今日は酒はやめとけよ、何があったんだ。」

「実はなぁ………。」




「………ふっ、なるほど、そりゃあダメだな、まったく!」

「うぇぇぇぇぇ………俺はどうすればいぃんだよぉぉ、ヒック。」

「まぁまぁ、お前はやっぱりタイミングといままでの行いが最悪すぎたな、まぁいい、だったらそれはそれで考えがある。」

「………ど、どんなぁ?」

「いいか………ゴニョゴニョゴニョ………。」

「いや耳元でゴニョゴニョ言ってても分からないからぁ!ヒック。」




俺はいまでも若干ふらつきながら戻ろうとしていた。


「………え………?」


道の角まで来たところで、建物から突如兵士が倒れ込んでくる、つづくステータス上昇。


「ど、どうなって」

「………はぁっ!!!」


俺は後ろに回り込んできた影に気づくことなく、次の瞬間には意識を失った。




「………う、う〜ん?ここは………。」


俺は手足が鎖で縛られていることにようやく気がつく、さすがの俺でも引きちぎるわけにはいかない。


「………目が冷めた?旦那?」

「………ナーノ?」


俺は頭を持ち上げるとナーノが俺を見下ろしている。


「………なんのつもりだ。」

「旦那には悪いと思ってるけど、私、もう行かないといけなくなったの、仲間を助けたし、もうここを出るわ。」

「はぁ………?どういうことだ。」

「私達は、ようは脱獄したのよ。」


そこで自分の首を指し示す。


「もう何人もの仲間がいる、これから他の街にでも向かうつもり。」

「………そんな、なんで。」


そう俺は疑問を口にするが心の中では痛いくらいわかってた、俺はナーノを殺しかけたのだ、そりゃあ逃げられても文句は言えない。


「………旦那のことは、決して嫌いじゃなかった、欠点は多いし迷惑もかけられたけど、望んで私を傷つけるようなことはあの日まで無かった、でも無理、私には、わかってしまった、奴隷と主人という関係で仲良くするなんて無理な話だったのよ。」

「………。」


俺はあの日の事を思い出していた、俺がその気になれば言葉一つでナーノを殺せるのだ、圧倒的な、立場の違い。


「………さぁ、鎖を解くわよ。」

「………!!なぜ?」


俺は立ち上がってナーノに聞く、ナーノはその問いを無視して俺に言う。


「斬るなら斬ってくださいよ、どうぞ?」

「………。」


俺はナーノの言いたいことがわかった、ナーノは俺を試しているのだ、俺がここで悪漢になるのか、それとも何もせずに逃げてくれるのか。 


「………。」


俺は当然その場を立ち去る、もういい、この街は出よう、全く、今日はひどい日になってしまった………。




「………行ってくれて、ありがとう。」


私はそう言うとリリー達と合流する。


「リリー、もう行きましょう。」

「分かりました、ナーノさん。」

「いいぜ、出発だ。」


私達が奴隷商の店に火をつけたせいで空はオレンジ色に染まっている、もう夜だというのに。


私達は人気のない道をひたすらあるき続けた、疲れたり、怪我をしたものは馬車に乗せて休ませた。


「………もうすぐ夜も明けるわね。」

「あぁ、そうなるな。」




「………これは、これはどういう事だ、奴隷の脱走!?」

「はい、そうでございます、領主様。」 

山の上の領主邸で怒鳴り声が響いていた。


「衛兵は何をしていたのだ、それに、この為に大金を叩いて遠方から最新の奴隷用の首輪を購入したのではないか。」

「はっ、しかし、どうやら首輪の鍵を入手したようで、鍵穴と鍵はどの首輪でも共通です、別の奴隷商で購入した奴隷でも、他の奴隷商が奴隷の管理をできるように。」

「………裏切り者がいる?くそ、どこのどいつだその馬鹿は、おかげで計画は台無しだ、これで奴隷販売の拡大計画は半年は先延ばしになる。」

「はっ、しかし、今回の不始末のケリをつけるためにいま騎士団が討伐に向かっております、もうすぐやつらに追いつくところかと。」

「………そうか、何騎が向かった。」

「50騎ほどでございます、我が騎士団は、勇猛さと装備にかけては右に出るものはおりません………。」




「………はぁぁぁ、もう、嫌になっちまうなぁ。」


俺は荷物をまとめ街を出た、いまは道を歩いている。


「なんで異世界に来てまでこうもうまく行かないのか、一体何が行けなかったんだろうなぁ。」


俺はそうなんども、なんども問いかける、だがその答えは空に消え、答えが帰ってくることはない。


「………うぉぉぉっと!?危ないんだよ馬鹿野郎!!」


俺は突如として後ろから走ってきた無数の兵士達にそう怒鳴りつけ、なんだよくそったれと吐き捨てる。


それからというものの、俺はひたすら歩くうちに、奇妙なものを目にするようになっ。


落ちている剣、地面に垂れた血、兜、まるでさっきまでここで誰かが争ったかのようだ。


「………?………!!!?おい、お前!!」


俺は倒れ込んでいる女に声をかける、俺は抱き上げるとそれは………奴隷商の店で見かけたエルフの女だった。


「おい、お前、しっかりしろよ、畜生、回復魔法を早くとって………。」

「………あなた、は、冒険者ですか。」

「黙ってろ、いま治してやる!!」


俺は回復魔法を手に入れて、即座にそれをエルフに使う、回復魔法を使うためには、人間の中に宿る魔力が必要だ、俺は自分の魔力を操り、それをエルフの女に注ぎ込んでいく、体が少しずつ脱力していくのを感じるが、エルフの女の傷口も塞がっていく。


「………これで終わりだ、良かったな。」

「………いけない、お願いです、助けてください、ナーノさん、ナーノさんが危ないんです!!」

「なに?ナーノ?そうかお前はナーノの仲間………。」


「おいおいおいおい、何してくれてんだよ、せっかく俺が足を叩き斬ってやったのに治ってやがるじゃねぇか。」

「…………!!!」


俺は後ろをこれの方向を見ると、三人の騎士が馬に乗って槍を構えているところだった。


「まったく、お前は冒険者か?兵士でもない、戦士ですらない魔物を殺してイキるクズ共が、お前らには邪魔しないことすらできないのか?これだから嫌なんだ。」


「悪いが死んでもら………え………?」

「くそったれ、上等だよ。」


俺は次の瞬間には騎士の首を刈り取った、暴言だけでも頭にくるが、なによりこいつは一番してはならないことをしでかした、ナーノたちに襲いかかったのだ。


「ひっ、なんだお前はぁ!!」

「死ねっ!!!」

「グワァァァ!!!?」

「ひぃぃぃぃ!!!」


最後の一人が逃げようとするが、馬の脚に土の触手が絡みつき転倒する。


「い、いやだ、助けて、死にたくない………ウワァァァァァァァ!!!」

「………これで終わりか、くそったれ。」

「す、すごい………。」


俺はエルフの女に近づいて言う。


「今からあいつを助けてくる、お前はもう安心しろ。」

「え………ナーノさんの事知ってるんですか、というか、もしかしてあなたは………。」

「………うん、そうだ、ナーノを買ったのは俺だ。」

「………じゃあ、あなたはナーノの元ご主人様なんですか。」

「まぁ、粗雑に扱いすぎて逃げられたマヌケだけどな。」

「粗雑って………。」


エルフの女は俺を見て細い目をする。


「………悪いことをしたと思ってるよ、俺はこれでも人間のクズで通ってるからな、ナーノとも最悪な終わり方をした。」

「………。」

「………でも、だからこそ俺はナーノにいままでしたことを精算しようと思ってる、まぁ、こんな軽い言葉じゃなんの信用も生まれないよな。」

「………。」

「………。」


エルフの女は表情を和らげ、頭を下げる。


「どうか、ナーノさんを救ってください、このとおりです。」

「おうよ、分かった、やってやんよ。」




「………ぐぁぁぁぁ!!!」

「くっ、早く援護に入れ!!」

「くそぉ、助けてくれぇ!!」


ナーノの攻撃で馬から落とされた騎士は鎧の重さと落馬の衝撃でまるで身動きが取れない。


「くそぉ、何たる屈辱ぅぅぅぅウワァァァァァァァァ!!」


その叫びは悲鳴に変わり、やがて途切れる、ナーノがやつの鎧の隙間から短剣を差し込んでいた。


「………いまだ!!やれっ!!」


ナーノは今の今まで最前線で積極的に戦っていた、それはナーノがこの中ではぶっちぎりで最強だったのもあるが、非戦闘員が狙われないようにヘイトを集める目的もあった。


だが、彼らもようやくナーノの思惑を理解したのだろう、ナーノを無視して後ろの戦えない奴隷達に狙いを絞ったのだ。


「まずい!!?」

「おらぁ!!俺を忘れんじゃねぇよ!!」


援護に回ろうとするナーノを邪魔するのはある一人の騎士だった、素人なら踏ん張るだけで精一杯の馬上で、両手を離して槍を巧みに振り回す。


「………うぉぉぉぉぉ!!!」

「アッカー!!やめろっ!!」


力自慢のアッカーが馬の突進を止めようと大の字になって立ち塞がる、アッカーの肩にやりが突き刺さり、貫通するが、それでも馬にしがみつき、なんとか止めることに成功する。


「アッカー!!」

「………マックス!ベニー!こいつをひぎずりおろせぇ!!」


その意味を理解したマックスとベニーは騎士を馬から引きずり降ろしマックスが顔を苦くしながらとどめを刺した。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「アッカー!!!!」


アッカーの体にはさらに槍が突き刺さり、さらには馬に吹き飛ばされ、森の中に吹き飛んでいく。


「くそぉぉぉぉぉ!!!」


マックスが飛び出そうとするが、目の前に突き立てられる槍に怖気づき足を止める。


「動くなぁ!!投降しろぉ!!」

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