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あなたを破滅させます。お父様  作者: 青葉めいこ
第一部 ジョセフ
65/113

65 ありがとう

「ジョセフ様に何をするつもりなのですか?」


 そっと尋ねてきたのはアルマンだった。


「私を止める?」


 私はアルマンの質問に質問で返した。彼の今の質問に答える気はないのだ。


「アンディの今生の父親というのを抜きにしても、私は人として、あなたを好ましく思っているわ。それでも、私の邪魔をするのなら容赦はしない。覚悟しておきなさい」


 親しい人間だろうと敵に回れば容赦せず叩き潰してきた。だから、前世で生き残る事ができたのだ。


「いいえ。確かに、ジョセフ様は主のお一人ですが、ブルノンヴィル辺境伯家の家令である私が最も優先すべきなのは、ブルノンヴィル辺境伯となった貴女だ。だから、ジョセフ様と貴女なら貴女に付きます」


 アルマンの言っている事は尤もだが。


「私の邪魔にさえならなければいいわ」


 アルマンに「お父様に『ざまぁ』するのに力を貸せ」と強要する気はない。ジョセフもまた彼にとって主の一人だ。私とジョセフの間で苦しませるのは申し訳ない。


 まして、私がジョセフに「ざまぁ」したい理由は、まともな人間であるアルマンには理解できないだろう。


 だから、邪魔をせず傍観してくれればいい。


「……なぜ、お嬢様は、そんなに怒っていらっしゃるのですか?」


 ためらいがちに尋ねてきたのはロザリーだ。


「言っても理解できないわ」


 暗に「言う気はない」と告げる私に、ロザリーは「まさか」という顔になった。


「……お嬢様が怒っていらっしゃるのは、あの程度の感情でジョセフが自分を虐待していたからですか?」


 今までは「ジョセフ様」だったのに、もう敬称をつける気もなくなったようだ。あんなやり取りをしたのだから無理もないけど。


「虐待してくれた『お礼』はしたから、それはもうどうでもいいわ」


 どんな事情や感情だろうと虐待していい理由にはならない。少なくとも私は許容できない。だから、七年前に仕返しをさせてもらった。


「だったら、あんなクズなど放っておきましょう。お嬢様が何かをする価値などないでしょう?」


 ロザリーの言う通り、放っておくべきだったのに――。


「ええ。私の怒りは見当違いで、それを晴らすために、この先の人生を懸けるのは間違っている。分かっているわ」


 それでも、やらなければ我慢できない。


 この先の人生を心安らかに歩む事ができない。


「それより、ありがとうね」


「お嬢様?」


 突然の話題の転換、しかも、それがお礼だったからか、ロザリーは困惑している。


(わたし)のためにジョセフに怒ったのでしょう? あの程度の嫌悪感で(わたし)を虐待していたのが許せなかったから」


「……私のためです。お嬢様のためではありません」


 この世で一番嫌いだと公言していたくせに、顔が綺麗になったくらいで妻や愛人にできる。その程度の嫌悪感で自分の娘(ジョゼフィーヌ)を虐待していた。


 それを許せないと思ったのは、ロザリーの感情だ。


 確かに、私は関係ないのかもしれない。


「それでも、ありがとう」


 これだけ大切に想われれば、やはり心は動く。


 私はウジェーヌや《バーサーカー》と違って充分人間の心を持っているのだ。


 もう私にとってロザリーは「今生の生物学上の母親」というだけではなくなった。


 けれど、それを彼女に告げるつもりはない。


 ロザリーや周囲が何と言おうと、私は本当の意味で彼女の娘ではないからだ。


 確かに、私が今生で生きるこの体はロザリーが産んだものだ。


 けれど、人格(なかみ)は、この体で本来生きるべきジョゼフィーヌではない。


 本当の意味で「私」はロザリーの娘(ジョゼフィーヌ)ではないのだ。


 この体に宿る魂が同じで今生(ジョゼフィーヌ)の記憶もあるのなら、前世の人格(わたし)も変わらず「私の大切なお嬢様」だとロザリーは断言した。


 ロザリーの言う事は間違いではない。頭では分かっている。


 けれど、心が、どうしても今生の人格(ジョゼフィーヌ)前世の人格(わたし)を同一に思えないのだ。


 だから、私はロザリーを母とは呼ばない。


 ……呼べないのだ。






 


 


























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