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あなたを破滅させます。お父様  作者: 青葉めいこ
第一部 ジョセフ
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38 肉親の愛など要らないと思っていても

 アンディとの言い合いが終わった頃、お祖母様とお祖父様がやってきた。


「もう大丈夫なの? ジョゼ」


 いくらお祖母様がぶっ倒れた孫娘(わたし)を心配していても、お祖父様(国王陛下)の妾妃で臣下でもある以上、お祖父様(国王陛下)への挨拶を優先させねばならず、先にアンディを私の許に行かせたのだ。


「はい。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」


 私はベッドに半身を起こした格好のまま、お祖父様とお祖母様に向かって頭を下げた。体調は戻ったからベッドから出ようとしたら、二人から「そのままでいい」と言われたので甘えさせてもらった。


「驚いた。お前でも怒鳴るんだな」


 お祖父様が私の傍に控えたアンディに意外そうな目を向けた。


 お祖父様とお祖母様は私の部屋に入室する直前、アンディの普段ではありえない怒鳴り声を聞いたのだ。


「それだけ、この子が大切か?」


 国王陛下(お祖父様)に訊かれても、アンディは《アイスドール》らしく無表情で立っているだけだった。


「彼とは前世からの知り合いですから」


 何も言わないアンディの代わりに私が答えた。


「そうだったな」


 お祖母様から聞いていたのだろう。お祖父様は納得したように頷いた。


「アンディがあれだけ言ったのだから、わたくしからはもう何も言わないわ。あなたも反省しているようだし」


 アンディが私に怒鳴らなければ、お祖母様が私を叱ったのだ。


「ジョゼフィーヌ」の記憶と「私」が目覚めて一年、共に過ごして分かった事がある。


 お祖母様は、ジョセフィンは、決して冷たい人ではない。


 冷たいだけの人なら息子を愛せない事に苦しむはずがない。


 どんな思惑で息子の娘(ジョゼフィーヌ)メイド(ロザリー)に生ませたにしろ、その孫娘の中身が「私」でも、消えてしまった「ジョゼフィーヌ」でも、お祖母様なりに愛してくれている。


 お祖母様は確かに、肉親の情よりも貴族としての在り方を優先する人だ。それを国王(お祖父様)孫娘(わたし)にも強要している。


 けれど、肉親を愛する温かい心も、ちゃんと持っている人なのだ。


 残念ながら消えてしまった幼い今生の人格(ジョゼフィーヌ)には伝わらなかったけれど。


 私に辺境伯としての能力だけを期待しているのなら、メイド(ロザリー)から「お嬢様を何とかしてください!」と電話で泣きつかれたくらいで、わざわざ日程を調整して列車で丸一日かかる王都まで駆けつけたりなどしないだろう。


 お祖母様なりに孫娘(わたし)を心配したのだ。


 今生は肉親の愛など要らない。


 本当にそう思っていたのに――。


 前世で人を殺しても何とも思わなかった私だが、機械でも人形でもないのだ。


「殺し合いでしか生きている実感がない」などと宣った、人間でありながら人間をやめているとしか思えなかった《バーサーカー》(Berserker、英語で狂戦士という意味だ)のコードネームを持っていた「彼」に比べれば、私は充分人間だ。


 人間としての心を持っていなければ、前世で愛してくれた両親の復讐に人生を捧げないし、今生は肉親の愛など要らないと思っていても、愛されて気に掛けられれば情も湧く。


 最初は、お祖母様の庇護がなければ、この幼い体では生きていけないから従っていたという気持ちが大きかった。けれど、今は私自身が彼女に肉親の情を抱いているのだ。元々、今生の私(ジョゼフィーヌ)がお祖母様を慕っていたからか。


 ジョゼフィーヌ・ブルノンヴィルに生まれ変わった義務だからというだけでなく、お祖母様が望むならブルノンヴィル辺境伯になってもいいと思った。


 まして、傍にはアンディがいる。


 今度は生涯ずっと一緒にいたい。


 それもあって、ブルノンヴィル辺境伯になろうと決めた。


 アンディに自覚があるかどうかは分からないが、彼は組織のために働く事に安らぎを見出すタイプの人間だ。


 前世で主だった《エンプレス》が亡くなっても《アネシドラ》のために働いていたのは、亡くなる前に彼女に《アネシドラ》の事を頼まれたからだろうが、彼自身がその立場が心地よかったからだろう。


 それでも、その立場がどれだけ心地よくても、自分が定めた主の命令に従うのが彼という人間だ。最初の主である《エンプレス》が創立した秘密結社でも新たな主である私が望めば、あっさりと壊滅させたのだから。


 前世では、その事について何とも思わなかった。両親の仇である彼を恨む気持ちが少なからずあったし、私と共に《アネシドラ》を壊滅させようと決めたのは彼自身だと突き放して考えていたからだ。


 けれど、生まれ変わって彼への恨みが消えた今生だから、私が彼にどれだけ酷い事を強いていたのか分かったのだ。


 前世で彼が何よりも大切にしていたものを壊滅させただけでなく、彼の命まで奪ってしまった。


 彼なら「自分が勝手にした事だから貴女が負い目や罪悪感を持つ必要はない」と言うのだろう。


 それでも、前世の私は無自覚に彼から全てを奪ってしまったのだ。自覚して他人の心をえぐるより、無自覚にそうするほうが余程質が悪い。


 ともかく、ブルノンヴィル辺境伯になろうと決意したが、フランソワ王子の妃は絶対に嫌だ。


 フランソワ王子自身が嫌いだし、王太子妃や王妃の地位を煩わしく思っているからだ。


 だから、この婚約は絶対破談にしてみせる。













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