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111 助かったけれど

 国王達が見つける前に銃創がある祐の遺体はロザリーの遺体と共に回収した。


 この世界ではまだ銃が開発されていないから医者が遺体の銃創を見ても理解できないだろう。けれど、刀傷によるものではない死因に興味を持たれ詮索されるのが煩わしかったのだ。


 あれだけの騒ぎを起こしたのだ。王宮に残って尋問を受けなければいけないのは分かっているが、祐の死でショックな今は冷静に対処できない。


 かといって今まで滞在していたヴェルディエ侯爵邸に戻るのも気が引ける。ジャンとは婚約解消したし、何より私の父親()ヴェルディエ侯爵(アレクシス)を殺したのだから。


 王都にあるブルノンヴィル辺境伯邸には脳内花畑の異母妹(ルイーズ)がいる。フランソワ王子の婚約者になっても変わらずレオンに執着している彼女の前にレオンを連れて行けば面倒な事になるのは分かりきっている。


 結局、私達はウジェーヌがロザリーと暮らしていたあの家に行く事にした。


 王都から離れている間も管理してくれる人間がいたのだろう。家には埃一つなかった。


 翌日、昼近くになって起きてきて朝昼兼用の食事を終えた後、散々アンディとレオンとリリに怒られた。ウジェーヌは説教に加わる事はなかったが助けてもくれなかった。


 彼らを心配させた事は分かっていたので私は彼らの気が済むまで甘んじて怒られていた。


「あ、あのさ、銃は、どうやって入手したの?」


 三人の「お説教」が終わると私はずっと気になっていた事をウジェーヌに尋ねた。


 ウジェーヌは天才ではあるが、それは頭の出来と科学や医学に関してだ。さすがの彼も銃は作れないはずだ。


 だが、ウジェーヌの人脈なら前世で銃職人(ガンスミス)だった人間を探し出して作らせるくらい訳ないだろう。わざわざこの世界の人間をガンスミスとして育成するより、そっちのほうが手っ取り早い。


「タスク・ムトウの噂を聞いた頃、ちょうど一流のガンスミスだった前世の知り合いに出会った。幸い私達のように前世の記憶を有していたからな。脅し……いや、説得して銃を作らせ……作ってもらったんだ」


 私が考えた通りだったけど……今絶対「脅して」とか「作らせて」とか言いかけたよね?


 私は心の中で前世のウジェーヌの知り合いであるその一流のガンスミスに同情した。


 まあウジェーヌがその人を脅して銃を作らせたから私は助かったのだ。私にウジェーヌを非難できるはずがない。


 その事で非難する気はないけれど……銃が開発された事で戦争が起きれば確実に今までとは比較にならないほど人が死ぬだろう。 


「ふん。人間がいる限り戦争はなくならない。今回、私が無理矢理銃を作らせなくても、いずれこの世界の人間も銃を開発するぞ?」


 ウジェーヌが私に向かって淡々と言った。思っている事がしっかり顔に出ていたようだ。


「……分かっている」


 言葉ではそう言っても実の所、割り切れない。それは、「ジョゼフィーヌ」と融合したせいなのだろう。


 人格が融合したとはいえ、今までと、人格が相原祥子だった時と基本は変わらない。それは、ジョゼフィーヌが祥子の生き様を羨ましく思い、そう生きたいと願ったからだ。


 けれど、時々、こんな風に祥子ならば気にならない事でも気になってしまう。


 こうなる事は予め分かっていた事だ。割り切れないならば割り切れないまま抱えるしかない。


 よほど私が思いつめた顔をしていたせいか、ウジェーヌが溜息を吐いた。


「あいつにも約束したが、銃を使うのは今回一度だ。この世界の人間が開発しない限り、戦争で使われる事はないから安心しろ。そんな事、絶対に『祥子』も望まないからな」


 ウジェーヌの言う「あいつ」はアンディが使った銃を作った前世からの知り合いのガンスミスだろう。


 ウジェーヌの言うように、いずれこの世界の人間も銃を開発するだろう。それは歴史の流れだから止められない。


 けれど、ウジェーヌの唯一絶対の存在である「祥子」が望まず、今はまだ、この世界で唯一銃を製作できるだろうウジェーヌの前世の知り合いのガンスミスが「今回一度」と明言しているのなら、しばらくは戦争で銃が使われる事はないはずだ。


 せめて私が生きている間は戦争で銃が使われる事がありませんように。


 私は心の底から願った。


「この世界ではまだ銃は開発されていないし、何より、あいつなら絶対太刀での戦いになると思った」


 私が一応納得したせいか、ウジェーヌは銃を作らせた理由を話し始めた。


「卑怯だろうが、君との戦いに気を取られている隙に遠くから銃を撃てば殺せると思ったんだ」


 そこまで言うと、ウジェーヌはアンディに目を向けた。


「こいつは前世でも頭脳労働が主だったけど実行部隊員としても充分使えたし、何より射撃の腕前は超一流だ。まあ今生では全く銃に触らなかったから、しばらく練習したけど。すぐに勘を取り戻したぞ。さすがは《アイスドール》だ」


 ウジェーヌに褒められてもアンディは氷人形(アイスドール)らしく無表情のままだ。


「……そう。お陰で助かったわ。アンディ」


 唯一恋した男であり今生の父親である祐を殺した事を恨んではいない。アンディは私にとって家族のように大切な人だからだ。


 それに、アンディが祐を殺さなければ私が祐に殺されていた。


 何より、祐は前世でアンディを殺したのだ。これも因果応報というやつだろう。


「もっと早く駆けつけていれば、ロザリーは死なずに済みました。申し訳ありません」


 アンディがそう言うのは今生の私の母(ロザリー)の死自体に責任を感じているのではなく、その事で私がショックを受け悲しむからだ。


「アンディが私に謝る必要はないわ」


 ロザリーの死は私のせいだ。


 祐への恋心を抜きにしても、男女による体力の差、何より技量が違い過ぎて、私一人では彼を殺せなかった。


 一人で祐に挑んだ私の無謀さがお母様(ロザリー)を死なせたのだ。


「……貴女を捜すのに僕達、ばらばらで行動してたんだ。しばらく王宮をうろついているうちに、リリとアンディとウジェーヌと合流して貴女の元に駆けつけたんだ」


 レオンの説明でロザリーが一人だけ先に駆けつけてきた理由を知った。


「僕が早く見つけていれば、ロザリーに庇わせる事はしなかった。……貴女の今生の母を失わせる事はしなかったのに」


 レオンは心底悔しそうに言った。


「レオンが私を庇って死ぬのも嫌よ」


 もう二度と私が大切に想う人が私を庇って死ぬ事態にはなってほしくないのだ。






 





 








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