107 私達の行きつく先
中庭に着くまでの廊下は祐が殺した衛兵達の死体があちこちに転がり血で汚れていた。
国王の執務室に来るまで祐が戦いで多少は体力が消費しているだろうが楽観はできない。隣を歩く祐に疲れている様子が微塵もないのだ。祐にとって衛兵達との戦いはウォーミングアップという所なのだろう。
八十代のご老人から三十代の青年に若返り、しかも、この三年鍛え今生まで《バーサーカー》と呼ばるまでになった。ただでさえ男と女という埋められない力の差がある上、前世と違って今の祐は私を殺す気満々だ。
死ぬ気はない。けれど、はっきり言って勝てる気もしない。
(それでも祐に致命傷を。私が死んでもアンディ達が祐を殺せるように)
中庭で対峙すると私と祐は両手にそれぞれ抜き身の太刀を構えた。
師匠である祐からは、あらゆる殺人術を教わった。二刀流もその一つだ。
祐は実行部隊員として、あらゆる殺人術を習得し、そのどれも最高の技術を持っている。一番楽で確実なのは銃による殺人だが太刀による戦いを好んだ。それが一番殺し合いが実感でき楽しめるからだという。
私が打ち込んだ右の太刀を祐が左の太刀で受け止めた。
「後悔しているわ。あなたのアレをちょん切らなかった事をね!」
私が左の太刀を横薙ぎにすると祐は右の太刀で振り払った。
前世の人格が目覚めてすぐの頃だ。お父様が今生の私を虐待してくれた仕返しに刑務所に拉致して囚人達の目の前で公開剃毛と排泄させた。
けれど、お父様を慕っていた今生の人格に免じて男性の大事なアレをちょん切るのだけはやめてやったのだ。
「お父様が『あなた』になると知っていれば今生の人格に構わず、ちょん切ってやったのに!」
「やめろ。せっかく肉体が若返って、そっちのほうも復活したのに、男としての愉しみがなくなるだろうが」
祐は、げんなりした顔になったが、さすが《バーサーカー》。その太刀捌きが鈍る事はなかった。
「だから、最高の嫌がらせになるんじゃない!」
私は声を上げて笑いながら心の中で呟いた。
(……何より祐が他の女を抱くなど私には耐えられないもの)
私自身は、どんな男に抱かれても嫌悪も快楽も何も感じなかったのに、祐が私以外の女性を抱くのを想像すると……耐えられないのだ。彼が今生きている肉体が今生の私の父親であってもだ。
前世では両親の仇だったし、ご老人だった彼は、そっちのほうは、すでに枯れていたから、いくら前世の私が《エンプレス》の曾孫で彼女にそっくりな容姿をしていても、そういう関係になる事は当然なかった。
まして今生は親子だ。彼と肌を重ねる事だけは絶対にできない。
彼が唯一恋したのは、《エンプレス》、武東祥子、前世の私の曾祖母だ。
誰を抱こうと、彼の心に《エンプレス》以外の女性が入り込む事は決してない。
体も心も手に入らないならば――。
(――殺し合いで決着をつけるしかないじゃない)
結局、前世でも今生でも私達が行きつく先は、それしかないのだ。




