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104 王宮へ

「……今更だが、こんなやり方で(やしき)を出るのは、どうかと思うぞ」


 止まった車のトランクから身軽に飛び降りた私を見る国王の瞳は何とも呆れたものだった。


「本当に今更ですよ。陛下」


 国王相手にどうかと思うが私は冷たく返答すると車のトランクから邸を抜け出す時に持って来た旅行鞄を取り出した。


 ここは王宮の敷地内だ。国王との話し合いが終わった後、アンディ達にばれないようにヴェルディエ侯爵邸を抜け出し王宮にやって来たのだ。


 (ジョセフ)は私を殺した後、国王の命を狙うだろうと脅し……忠告した私は、国王を守るために傍に置いてほしいと願い出たのだ。アンディ達に知られれば反対されるのは確実なので、こっそり抜け出す協力もしてもらった。


 心配しないように部屋には書き置きを残してきた。王宮ならばブルノンヴィル辺境伯である私と一緒でないと、おいそれと足を踏み入れられないから離れるには最適な場所だ。


 まさか王宮に行く事になるとは思わなかったが、どちらにしろアンディ達からは離れるつもりだった。そのために、あらかじめ旅行鞄に着替えなどの荷物を詰め込んでおいたのだ。


 祐が再び現れればアンディ達は私を守る盾になろうとするだろう。


 これは私と祐の問題だ。


 彼らを盾になどしたくない。


 だから、アンディ達から離れたのだ。





 王宮にやってきた翌日、この時の私は執務室にいる国王と一緒にいた。


 国王を守るという名目で王宮に連れてきてもらったので最初は護衛として国王の傍に、ただ控えているつもりだったのだが「宰相が死んで仕事が山積みなんだ。突っ立っているんなら手伝え」と問答無用で私にもできる書類仕事を押し付けられてしまった。


 一応今生は辺境伯だが私の本質は前世と同じで一兵士でしかないと思っている。執務室に押し込められ書類と睨めっこより敵を(ほふ)るほうが性に合っている。


 いつもならアンディや他の有能な部下に押し付け……もとい、やってもらえればいいが、ここには私しかいないし無理矢理王宮に押しかけて来たのだ。王宮の主である国王陛下に「手伝え」と言われればやるべきだろう。


 しばらく仕事に集中していたらフランソワ王子に突撃された。


 元婚約者だった私の部屋に突撃してきたのも褒められたものではないのに、よりによって実の父親とはいえ国王陛下の執務室に突撃するのは、どうかと思う。


「父上! ジョゼがこちらにいると伺いました!」


 ノックもなしにやって来たフランソワ王子に私と国王は眉をひそめた。


「話があるなら後で聞いてやる。今は忙しいんだ。出て行け」


 父親が息子に向けるとは思えない冷ややかな眼差し。


 国王のフランソワ王子への態度は「父親」ではなく「国王」以外の何者でもなかった。


 フランソワ王子は一瞬だけ怯んだ様子を見せたが、国王がいる執務机の前にあるソファに座っている私に気づくと顔を輝かせた。


「ああ、ジョゼ! 僕との事、父上に言ってくれた?」


「何の事でしょう?」


 フランソワ王子が何を言っているのか、私には全く分からなかった。


「僕と君の婚約だよ!」


「は?」


 喜色に満ちた顔で叫ぶフランソワ王子とは違い、私の顔はさぞかし間抜けだっただろう。


 そんな私に構わず、フランソワ王子は再び私が理解不能な事を言い始めた。


「あんなキスをしたんだ。君もやっぱり僕を好きだったんだろう? 今までのあの態度は僕の気を引くためだったんだね!」


「……えっと」


 人間思いがけない事を言われると思考停止に陥るものらしい。


 何を言っていいのか分からない私の態度に構わずフランソワ王子は国王に向き直った。


「ジョゼと再婚約させてください。僕達は愛し合っているし、ジョゼはもう王妃教育を終わらせている。何の問題もないでしょう?」


「……お前は今、ルイーズ、ジョゼフィーヌの妹の婚約者だが?」


 国王も私と同じく理解不能で、いろいろ疑問がある様子だったが、まず()()を指摘した。


「彼女と婚約してからずっと言い続けていますが、彼女は将来国王となる僕の婚約者に相応しくありません」


 フランソワ王子は、まだ自分こそが将来国王になると思っているようだ。


 彼自身が今言った通り、王妃に相応しくない脳内花畑娘(ルイーズ)を婚約者に宛がわれた時点で国王が自分を次期国王にするつもりがない事が、なぜ分からないのだろう?


「……何だか、とんでもない勘違いをされているようですが、私は、あなたが嫌いなので再婚約はありえませんよ」


「またそんな事を言って。君の気持ちは分かっているんだから」


「……何が分かっているのでしょうか?」


 にこにこするフランソワ王子とは違い、私は何だか疲れを感じてきた。


「人前で、しかも婚約者の前で、あんなすごいキスをしたんだ。僕が好きでないとできないだろう?」


「できますよ」


 私は素っ気なく言った。


「前世ではハニートラップを散々やらされた。今更私にはキスもそれ以上も何て事ない。必要とあれば衆人環視の中であっても躊躇なくできますよ」


「……ジョゼ」


 信じられないと言いたげなフランソワ王子に私は冷たい視線を向けた。


「あんな事くらいで私があなたを愛していると思われるのは迷惑です」


「分かったなら部屋に戻れ」


 国王に追い払われ、フランソワ王子は来た時とは違い意気消沈した様子で部屋を出ようとした。




 








 

次話はレオン視点になります。

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