友遠方より来る
電車で5時間あまりとな……ずいぶんと遠くから来たものだね。
お疲れだろうて、まずはおひとつどうぞ。
トプトプ
ほら、うすらと黄色が見えるだろうて。
私は高山の米と飛騨の良水をもとに、良く練りこまれているからね。
蛇の目の付いたぐい飲みだと、私の色が良く映えるのさ。
ま、それはさておき、まずは試してごらんなさい。
ゴク…………
芳醇な香り、力のあるコク、身震いするほど旨し、か。
フフフ、粋な――いや酔な言い回しをするじゃないか。
さて、小鉢の味噌漬け蒟蒻を拾ってからだとまた違うのだよ。
パク……モゴモゴ……グビリ……!
眼が醒めるような味わい、か。
ハハハ、醒酔というところかね。
ほら、飛騨牛の串カツをほおばってからだと、どうなるかな?
バクリ……ムシャムシャ……ゴクゴク……パアァァ
言葉はいらぬ、か。
カカカ、ずいぶんと良い笑み、醒酔笑というところさね。
私は人類の友、笑ってくれれば言うことなしというものだ。
――――おや、扉が開いて外人さんが入ってきた。
飛騨高山は、最近外国の観光客が多いのだ。
紅葉も綺麗が時期だから、さらに、ね。
さて、カタコトの日本語に英語……英米のお人か。
あなたよりも、さらに遠くから来たのだね。
おや、英字のメニューを指さす指が、なんとなく震えている気がする。
遠き国、初めてのお店だから、緊張しているのかもしれない。
ここは、ひとつ声を掛けてあげないといけないね。
How would you?
『――オ、オサケ、クダサイ』
酒の友、遠方より来る、また楽しからずや。
ヤオヨロズ企画11月のお題「紅」
飛騨高山の紅葉はとても綺麗でした
外国の方の多いこと、多いこと