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六 軍事施設に行ってみました

「さてと、どっちに行こうかな」


 舞花は魔術研究所を出ると、あたりを見渡した。


 石畳で舗装されたこの道は、右に行けば市街地に続き、左に行けば王様の住んでいる宮殿に続いている。舞花がナターニャに譲って貰ったこの世界の携帯時計を確認すると、自由になる時間は1時間程しか無い。市街地に出るには少々時間が短いと判断した舞花は宮殿方面に行くことに決めて歩き始めた。


「おーい! こんにちは、マイカ。」

「あ、セドラさん。こんにちは」


 舞花は歩き始めてすぐに、オープンタイプのミニカートに乗った友人のセドラと会って足を止めた。セドラは魔術研究所をはじめとする王宮敷地内の施設にお昼のお弁当を届けに来てくれる女料理人だ。明るくて歳も近いのですぐに舞花はセドラと仲良くなった。

 舞花がチラリと見ると後ろの荷台には空になったケースがおいてある。どうやら、今お弁当を届けてきたところのようだ。セドラは舞花と立ち話でもしようと思ってくれたのか、ミニカートを広い道路の端に寄せて停めた。


「こんな時間に珍しいですね」

「今日は訓練場にガングニールズ将軍が顔を見せてるのよ。皆さん扱かれてお昼が遅くなったってわけ」


 肩を竦めて見せるセドラに、舞花はフーンと鼻を鳴らした。

 ガングニールズ将軍の名前は書面で見たことがある。たしか、何回か来た回復薬と治癒魔法師の派遣を要求する依頼書の依頼人欄にその名前が書かれていた。


「こんなにお昼が遅くなるまで扱くなんて、やっぱりその人は鬼将軍なんですか?」

「ははっ、見た目は完全に鬼将軍ね。なんと言えばいいのかしら。自分にも他人にも厳しい人よ。妥協を許さないといえばいいのかな」


 セドラは将軍の顔を思い浮かべたのかクスクスと笑った。


 舞花が以前にナターニャに聞いた話では、この国には四人の将軍とそれを纏める大将軍が居るそうだ。その四人の将軍は皆同程度の規模の部下を持っているというが、中でも精鋭として名高いのがガングニールズ将軍率いる北方軍だ。

 舞花が把握しているこの三週間では回復薬や治癒魔法師の依頼はガングニールズ将軍率いる北方軍以外からは来ない。と言うことは、北方軍はそれだけ厳しい鍛錬を行っていると言うことだ。


 精鋭部隊を率いる厳しく、見た目も完全に鬼将軍。


 それはその人には近寄らないに限るな、と舞花は思った。


 幸い、この世界では個人ごとに入って良い場所と駄目な場所が明確に区別されている。

 この世界に来たときに、舞花はアナスタシアから身分証明の魔法のIDストーンを渡された。首からぶら下がるそのストーンで入って良い場所、駄目な場所を扉の方が自動認識して勝手に鍵がかかったり外れたりするのだ。

 魔術研究所の一職員である舞花は当然ながら国衛軍の居る訓練場エリアには立ち入れない。だから、普通に過ごしていればまずその鬼将軍とやらとは顔を会わすことは無い筈なのだ。


「ところでさぁ、マイカの持ってるそのオモチャの弓はなに?」


 ミニカートから降りたセドラは不思議そうに舞花の右手を指さした。舞花の右手には先ほどアナスタシアに貰ったばかりのクロスボウがある。 


「あ、これですか? 恋に効く弓矢です。貰いました」


「恋に効く弓矢? そんなの初めて聞いたわ。普通のオモチャの弓矢に惚れ薬が塗られているのでは無いのね?」とセドラは首をかしげた。


「うーん、どうなんでしょう? アナスタシアさんの特製だって言ってましたけど……」


「アナスタシアさんの特製!?」


 セドラは驚いたようにがばっと舞花に詰め寄った。


「マイカ。アナスタシアさんって国一番の大魔女なのよ。その彼女の特製の『恋に効く弓矢』って絶対凄いわよ! いいな、いいなー。私も欲しいなー」


 セドラは目を輝かせてピンク色の弓矢を見つめる。


「セドラさんは素敵な旦那様が居るじゃ無いですか」

「それとこれとは話が別よ」


 セドラがこのピンク色の弓矢に視線を釘付けにするのも無理はなかった。アナスタシアはこの国一番の大魔女であり、故に彼女の作る魔法道具の効果は国で最も効果が高いとされる。王族貴族、国関係の機関から沢山の依頼があり、そうそう庶民が手に入れられるものではないのだ。


「勿体ない! もうちょい早く会ってたら一緒にお弁当届けに行かせてあげたのに」とセドラは口を尖らせた。

「なんで勿体ないんですか?」

「だって、みんなガングニールズ将軍が直々に指導するほどのエリート達なのよ!」


 セドラはフンっと鼻息を荒くした。

 国衛軍には多くの軍人がいるが、その頂点となる四将の側近ともなる軍人達はとてつもないエリート集団らしい。特に精鋭部隊とされる北方軍はみんなの憧れの的なのだとセドラは舞花に熱弁をふるった。


「えー。でも、鬼将軍がいるんですよね? 私は怖いからいいです」

「鬼将軍はほっとけばいいのよ。こっちはお腹空かせた人達にお弁当を売るだけなんだから何もしてこないって。それに、アナスタシアさん特製ってことはきっと狙いを定めたら絶対に外さない特製の弓だわ」

「そうかな?」


 セドラはずいっと人差し指を立てる。そして、「絶対そうよ!」と言い切った。


 エリート軍人か……と舞花は小さな声で独りごちる。


 実は舞花も興味がないと言えば嘘になる。というより、めちゃくちゃ興味はある。決して舞花は軍人フェチではない。しかし、筋肉フェチなのだ。

 鬼将軍に鍛え上げられた精鋭部隊の軍人たちはさぞかし筋骨隆々のマッチョ集団なのではないだろうか。きっと、見事なもっこり胸筋にうっとりとするようなシックスパック腹筋に違いない。そう考えると、なんだかその精鋭部隊なる人達を見てみたくて堪らなくなってきた。


「入れるところまでちょっと見に行ったら、誰か出てきたりしますかね?」

「どうかしら。誰かしらは出てくる可能性があるわよね」

「私、ちょこっとだけ見に行ってみます」

「そうするといいわ。このまま少し坂を上って左側に大きな鉄の門があるから、そこが北方軍の訓練場よ。一番いい男に向かってその弓矢で打ち抜いちゃって!」


 セドラは楽しそうに舞花の背中をバシンと叩いた。


 数分後、舞花はセドラに言われたとおりに坂を登って左側の鉄扉の前にいた。濃いグレーの大きな鉄扉はいかにも軍隊っぽい重厚な造りをしている。

 あたりを見渡して誰も居ないことを確認した舞花は、少し迷うようにしてからそっと鉄扉に手をかざした。すると、鉄扉はカキンっという音と共に自動的にドアが開く。


「あれ? 開いちゃった。セキュリティエリアはもっと奥なのかな?」


 絶対に開かないと思っていた扉のロックが呆気なく外れて舞花は拍子抜けした。おずおずと中を覗くと目の前には大きな広場があり、その奥の正面には大きな建物がある。そして、右も左も高い塀があったが、左の塀には更に奥に行くための大きな木製扉が見えた。

 立ち入り禁止地区はもっと奥なのだと判断した舞花はさらに足を進めた。木製扉に手をかざすと、ここでもカチャっと鈍い音がして自動的にドアが開いた。


「軍隊の施設って以外と一般開放エリアが広いのね」


 舞花が木製扉を開いた先を覗くと、今度は先程正面に見えた建物に沿う形で広い通路になっていた。恐る恐る進んでいくが、人っ子一人見当たらない。


 ──うーん。誰も居ないことだし、戻ろうかな……


 そう思って舞花が踵を返そうとしたとき、遠方に人影が見えた気がして舞花は足を止めた。せっかく来たのだからちょこっとだけ見てみようと進行方向を変更する。

 歩いて行って通路がひらけると今度は大きな訓練場が目に入り、舞花は足を止めた。沢山の軍人さん達が訓練場の一角に集まっている。ちょうど舞花が来た側の一角に居たので距離にして十メートル位だ。

 この世界に来て舞花が道端で見かける軍人さんは皆が黒色の軍服をカチッと着込んでいてビシッとしていた。しかし、今目の前にいる人たちは訓練直後のようで、いつもとは違う軽そうな皮鎧のようなものを着ていた。


 ──わぁ! いた!!


 舞花が感動してもっとよく見ようと身を乗り出した瞬間、事件は起こった。視界の端からピンク色のものが超高速でヒュンと飛び出したのだ。


 ──え? えぇぇっ!?


 舞花は手元のピンク色の弓矢を慌てて確認したが、既に後の祭り。急にあたりの気温がグンと下がった。


「俺に向かって矢を射るとは良い度胸だ! どこのどいつだ! 前に出ろー!!」


 地響きのような怒号があたりに響き渡り、舞花は震え上がったのだった。


そして話は2話に戻る

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