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三十五 さっきの続きをしようか

 

 ガングニールズ将軍に連れてこられたのは『休憩室』と呼ばれる気分が悪くなった人用の休憩室だった。ベッドとソファーセットがあり、高級ホテルのダブルベッドルームのような作りになっている。そこのソファーに降ろされた舞花はガングニールズ将軍を見上げた。


「ガングニールズ将軍」

 

 呼びかけられたガングニールズ将軍の眉間には不愉快そうな皺が寄る。


「リークだ」

「リーク?」

「なんだ?」


 今度はにっこりと笑って蕩けるような視線で舞花を見つめる。ちょっと前まで全然表情が読めない人だったのにいったい何があったのかと舞花は戸惑いを隠せない。ひげを剃ったこと以上に、そもそもの表情がよく動くのだ。その変わりように舞花は驚いた。


「私、訳が分からないんです」

「どうわからない?」

「ガングニールズ将軍には婚約者がいるんですよね? なんで私にこんなふうに接するんですか?」

「こんなふうとは?」

「これじゃあまるで恋人みたいです。抱き寄せたり、愛称で呼ばせたり、キスしたり。婚約者さんに悪いし、私も気持ちに区切りが付けにくくなるからやめて欲しいんです」


 表情を強張らせた舞花の言葉にガングニールズ将軍は驚いたように目を瞠った。そして、舞花の前の床に膝をつき舞花と視線を合わせた。


「今までマイカの想いを受け入れずに悪かった。しかし、マイカをもやし男にとられることなど到底受け入れられない」


 眉を寄せて悩ましげな表情をするガングニールズ将軍。しかし、舞花にはもやし男とは誰のことかさっぱり心当たりがないし、いまいち状況が掴めないままだった。

 ガングニールズ将軍は舞花の片手をとると、そこに巻きつくチェーンブレスレットに一つキスを落とす。


「これは魔法の契約鎖でいわゆる婚姻の証だ。国王陛下の許可を取っていないからまだ正式な夫婦ではないが、これは他者に対して同等の効力を発揮する。マイカは『俺にマシュマロを食べさせる役目と俺と一生食事を共にする役目』を引き受けた。つまり、嫁になるということだ」

「マシュマロを食べさせる? 一生食事を共にする役目? 嫁??」


 予想外の言葉に舞花は目をぱちくりとさせる。それはもしかして、昭和の時代の『俺に毎朝味噌汁を作ってくれ』的なプロポーズだろうか?てっきりマシュマロを食べさせるだけの契約を結んだのかと思っていた舞花は思わぬことに恐れおののいた。


「婚約者さんは!?」


 勢いよく問い詰める舞花にガングニールズ将軍は訝しげな顔をした。


「婚約者? 先ほどからマイカは『婚約者』と何度も言うが、婚約者は敢えて言うならばお前だ」

「そうじゃなくって、終戦直後に婚約破棄したんでしょ? その婚約者は??」


 舞花も事態を確認しようと必死だ。現代日本であればこれは婚約者を(たぶら)かしたとして損害賠償を相手の女性から請求されてもおかしくない案件である。 


「ああ、そんな昔のことをよく知っているな。彼女にはこの十年一度も会っていないし連絡も取っていない。夫が不祥事で飛ばされてどこかの辺境にいるようだが俺は知らない」

「え?」


 舞花は予想外のことに言葉を無くした。じゃあ、アナスタシアが言っていた『30歳の黒目黒髪の女性』ってもしかして……


「マイカ。魔法の契約鎖は双方の合意がないと現れない。つまり、マイカは俺を愛していて俺はマイカを愛していないと現れないということだ」


 ガングニールズ将軍は舞花の頬に優しく触れると茶色い双眸でしっかりと舞花と目を合わせ、少し微笑んだ。そして、ソファーの舞花に覆いかぶさると耳元で低い声で囁く。


「マイカ、さっきの続きをしようか」


 ──それよりも私達に必要なのは話し合いです!


 舞花が言おうとした次の言葉は、口から出る前に唇ごと塞がれて呑み込まれた。




 舞花とガングニールズ将軍は無事に国王陛下の許可をとり約一ヶ月後に正式に夫婦になった。何から何までアナスタシアの狙い通りにことが進んでいることを幸せな二人はまだ知らない。






(ある日のやり取り①)

舞花:「ガングニールズ将軍ってアナスタシアの弟なんだって」

セドラ:「そう言えばそうだね」

舞花:「セドラ、知ってたの!?」

セドラ:「忘れてたわ」

舞花:「言ってよ・・・」


(ある日のやり取り②)

スデリファン:「リークは前に将軍はアナスタシアごときの魔術に負けられないから舞花の気持ちには応えられないって言ってなかったか?」

将軍:「君子とは豹変するものだ」

スデリファン:「自分で言うなよ(負けず嫌いめ!)」




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