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三十一 隠れんぼ②

 舞花は暫くここで出会った人懐っこい鳥とお喋りしていたが、ふいに甲高い悲鳴が聞こえた気がして喋るのをやめた。若い女性の悲鳴のように聞こえた。


 舞花が喋るのをやめると隣の鳥の「テッテ、テテッ」という鳴き声だけが異様に際立って聞こえる。後は虫の鳴き声と、小鳥の囀る声。舞花は不安からその場で立ち上がって辺りをぐるりと見渡した。


「気のせいかな?」


 耳を澄ましても聞こえて来るのは隣に居る鳥の声、虫の鳴き声、小鳥の囀り……


 気のせいだと気を取り直してもう一度しゃがんだとき、その声ははっきりと聞こえた。


「うぎゃーぁぁー!!」


 舞花はびくんと肩を震わせる。今度は間違いなく悲鳴が聞こえた。別の方向から、男性が絶叫するような悲鳴だ。


「な、なんだろう??」


 隣に居る鳥に問いかける声もおのずと不安げなものへと変わる。悲鳴が起きている場所でいったい何が起きているのか。そもそもなぜ悲鳴が聞こえてくるのか。情報が無いと不安感もより一層高まってくるというものだ。

 時計を持っていないかの確かなことは言えないが、そろそろ三十分位は経ったはずだ。それなのに、舞花の元には人っ子一人やって来ない。


 不安感からテテッッと鳴く鳥を引き寄せると、舞花はすぐ近くの大木の根元にしゃがみ込んだ。とにかく早く誰かに捜し出して欲しかった。

 奇妙な悲鳴はその後も何度も聞こえてくる。年配の男のような声の時もあれば若い女のような声の時もあった。聞こえてくる方向もバラバラで脈絡がない。


「なんで隠れんぼで悲鳴が聞こえるのよ……」


 舞花の知る隠れんぼとは鬼さんが隠れ役の人を探し、見つかったらゲーム終了という遊びのはずだ。悲鳴をあげる要素はどこにもない。

 いったい何が起きてるのかわからずに暫く鳥と一緒に座り込んでいると、舞花は自分の名前を呼ばれたような気がして顔を上げた。


「マイカ!」


 視線の先には木々をかき分けてこちらに近づいてくるウルロンの姿があった。ウルロンは今日はきちんと礼服を着ていて、木々をかき分けたせいで肩には枯れ葉が付いている。


「ウルロンくん!!」


 舞花の声と表情は途端に明るくなる。やっとここで独りぼっち状態から解放されると安堵した。


「よかった! 誰も来てくれないかと思ったよ!」


 ホッとして立ち上がった舞花に息をきらせて近づいてきたウルロンは、舞花の二メートル位手前で足を止めた。そのまま、目の前の宙を睨んでいる。


「どうしたの?」


 目の前のウルロンの様子に疑問を持った舞花がウルロンに近づくと、ウルロンのすぐ手前でぐにゃんと軟らかい何かにぶつかった。


「え?」


 舞花は驚いて何も見えない空間に手を伸ばす。そこには確かに見えない壁があった。その壁に阻まれてウルロンのもとに行けないのだ。


「侵入防止の遮断壁だね」とウルロンは呟いた。


「遮断壁?」


「うん。おそらくアナスタシア様が舞花の身の安全のために造ったのだと思うよ」とウルロンは顎に手をやり考えるポーズをとる。


「これを解除しないとマイカを連れて帰れない」

「え!? ウルロンくん解除出来るんだよね?」


 舞花は見えない壁に阻まれたウルロンを不安げに見上げた。ここまで来て置いてきぼりは絶対にいやだ。


「自信はないけどやってはみるよ。アナスタシア様の掛けた術だから、僕に解除出来るといいのだけど……」

「大丈夫だよ! ウルロンくんなら出来る。お願いします」


 自信なさげなウルロンを舞花は必死でおだててやる気にさせる。お願いだから助けて欲しい。舞花の足元の鳥も「テテ」「テテッ」っと鳴いて応援している。

 そして、舞花と一羽の鳥に応援されながら、ウルロンはアナスタシアの防御壁解除に奮闘し始めたのだった。 


「ところでさ、なんでさっきから悲鳴が聞こえるの?」


 ウルロンが来てくれてからも周囲からは悲鳴が度々聞こえてくる。しかし、聞こえているはずのウルロンはあまり気にして無さそうだった。


「さあ? 僕はコンパスを使わないで探索魔法でここにきたから。たぶん、コンパスの所にアナスタシア様が何か細工してるんじゃ無いかな?」

「細工?」

「うん。おおかた虫でも落ちてくるんだと思うよ」

「ああ。なるほど」


 部下からこんな事を言われてしまうとはさすがはアナスタシアだ。日頃の行いのよさが窺える。しかし、ウルロンの予想に舞花も納得した。


 暫くすると、魔術研究所の同僚達も続々と舞花の元に辿り着いてきた。皆、コンパスは使わずに探索魔法を使ったようだ。

 そして、全員がウルロンが先に到着しているのにゲームが終わらないことを不思議に思ったようだが、近づいてきて納得したような表情になる。


「えぇ!? 所長の防御壁?」

「解除出来るかな?」


 次々に彼等の口から漏れる弱気な言葉に舞花の不安は益々煽られる。


「みんななら出来るよ! 頑張って!!」


 応援する舞花も必死である。目の前に見つけてくれた人が沢山居るのに戻れないってどういうことなのか。普通の隠れんぼなら見つけられた時点でゲーム終了のはずだ。置いてきぼりは断じて御免である。なんとしても彼等には頑張って貰わなければならない。


「みんな頑張って!」舞花は叫ぶ。「テテちゃんも、ほらっ」


 足元の鳥、舞花の命名『テテちゃん』も「テッテ」「テテテテタ」とクルクルと回りながら応援してくれた。




 ♢♢♢




 王宮の広間から魔法の扉を抜けたガングニールズは辺りを見渡した。例年ならガングニールズは余興には参加しない。しかし、今年は見つける対象者が舞花だったのでなんとなく参加してしまった。


 鬱蒼と生い茂る密林に時折聞こえる魔獣の声。北の森とアナスタシアは言っていたので、ここはガングニールズが時折利用する訓練地と同じ密林の一角のようだった。扉を抜けた人々はある程度場所がばらけるようになっているのか、あたりに先に来たはずの余興参加者の姿は無い。


 アナスタシアは密林の至る所に魔法のコンパスがあると言っていた。まずはそれを捜そうとガングニールズが歩き出すと、すぐに遠方から「いやー!!」と女性の悲鳴が聞こえてきた。


「あっちか?」


 ガングニールズは進行方向を改めて悲鳴がした方向に足を進める。道という道はなく、地面は生い茂る草木や蔦で覆われてい鬱蒼(うっそう)としている。

 近づいて行くと、叫んでいたのは綺麗に着飾った貴族令嬢と子息達のグループだった。何度も訓練で来たことがあるガングニールズには見慣れた光景のこの場所だが、温室育ちの貴族連中には相当過酷な環境だろう。


 アナスタシアはこの光景を遠い王宮から眺めて腹を抱えて居るのかと思うと腹立たしいが、まずは舞花を探し出すのが先決だ。

 ガングニールズはコンパスを闇雲に探すよりはまだ探索魔法の方がいいかと思い直す。あまり得意で無い探索魔法を使って舞花のだいたいの位置に見当を付けると、コンパスを捜しがてら、そちらの方向に向きを変えて歩き始めた。


 生い茂る草木をかき分けて歩き始めること五分もすると、ガングニールズは目的のコンパスを見つけた。覗き込むのと同時に何かが頭上から降ってきたので右手でそれを受け止める。手を開いて中を見ると、ハート模様のカエルがゲコゲコと鳴いていた。そして数秒後にはふわりと姿を消す。アナスタシアの仕掛けた悪戯のようだ。


 コンパスは洗面器程の大きさの円盤にハートの形をした矢印が付いていて、ガングニールズが進んでいた方向より左に十度ほどずれた方角を指していた。ガングニールズは方角を正すと、再び歩き始めた。


 携帯用コンパスを持たない状態である一定の方角を違える事無く歩き続けると言うのは、ガングニールズのような熟練の軍人ですら簡単な事では無い。

 ガングニールズは途中であと二回ほどコンパスを見つけて方角を修正した。ちなみに二回目のコンパスではハート模様の蛇が、三回目のコンパスではハート印がお尻についた蜘蛛が空から降ってきた。


 ようやく見つけた舞花のところには、何人もの先客がいた。魔術師ばかり居るのは恐らく彼らがガングニールズよりも探索魔法に長けていて精度良く舞花を探せたからだろう。

 まさかこの勝負に自分は負けたのかと思ってガングニールズは呆然としたが、よく見ると何やら様子がおかしい。全員が舞花を囲むように距離をおいて何かをしているのだ。


「何をしている?」


 ガングニールズが声を掛けると、そこにいた魔術師達はガングニールズの方を向き、一様に困った顔をした。


「実は……」








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