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【電子書籍化】コワモテ将軍閣下が私にだけ甘々な件について  作者: 三沢ケイ
5 明かされる真実

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二十八 アナスタシアはツチノコだった

 舞花はアナスタシアの部屋の前でトントンとノックしてから扉を開いた。


「アナスタシアさん、お手紙です」


「あら、ありがとう。まあ! やっと来たわね」


 珍しく執務机に向かって何かの書き物をしていたアナスタシアはその封筒を見るとパッと顔を輝かせた。いつもは妖艶な笑みを浮かべている彼女だが、今日は子どものように目を輝かせてとても嬉しそうだ。

 

 舞花は駆け寄ってきたアナスタシアにその封筒を渡そうとしてと封筒に視線を落とし、動きを止めた。


──────────────────

魔術研究所 

 所長 特級魔術師 

  アナスタシア=ユリエンナ=ガングニールズ殿

──────────────────


 舞花は目を細めてもう一度封筒の宛名を読む。やっぱり同じ文字が書かれていた。


「アナスタシア=ユリエンナ=ガングニールズ??」


 怪訝な顔をして呟く舞花から封筒を受け取ると、アナスタシアは笑顔で頷いた。


「ああ、それは私の正式名よ。ガングニールズが名字、ユリエンナは母の名よ。男ならここに父親の名がくるわ」


「ガングニールズって名字なんですか?」

「ええ、そうよ」


 舞花は嫌な予感がしてくるのを感じた。ガングニールズが名字ですって? 確か、スデリファン副将軍はガングニールズ将軍は優秀な魔術師家系で、魔女の姉がいると言っていた。


「もしかして、ガングニールズ将軍も?」

「そうよ? だって、あの仕事バカは私の弟だもの。言ってなかったかしら?」


 首をかしげるアナスタシアに舞花は断言した。


「言ってない!」


 百パーセント聞いていないと断言出来る。そんなことを聞いたら絶対に覚えている。


 ──この人とあの人が姉弟ですって?

 ──なんてキャラの濃い家族なんだろう……

 ──って言うか、ガングニールズ将軍の姉?


 舞花は目の前の推定三十五歳、見ようによっては三十歳代前半の占いのお姉さん(アナスタシア)を見つめて恐れおののいた。


「アナスタシアさん、何歳なの!?」


「私? 四十一歳よ」


 キョトンとした顔で答えるアナスタシアに対し、舞花は衝撃のあまりポカンとしてしまった。


 四十一歳? 三十一歳じゃ無くて?

 もしかして、これはリアル美魔女なのでは?


 舞花は目の前で妖艶に微笑むアナスタシアをまじまじと見つめる。どう見ても四十歳を超えているようには見えない。

 数年前から存在をまことしやかに噂されていたものの雑誌の中にだけ生息し、その実態は謎に包まれているツチノコ級の幻の生物がついに舞花の前に現れたのだ。


「ちなみにあの仕事バカは三十八歳。ひげ面だからおっさんくさいでしょう?」


 アナスタシアは聞いてもいないのにガングニールズ将軍の年齢まで教えてくれた。


「あ、それは年相応ですね」


 ガングニールズ将軍についてはセドラから昔四十歳弱のはずだと聞いた事もあり、舞花も特に驚かなかった。


 と、そこで舞花は気づいた。姉と言うことは目の前のこの人(アナスタシア)はガングニールズ将軍の家族である。

 先日、若い兵士は将軍の家族が国王陛下に対して、将軍の婚約者が終戦10周年記念式典に来ると言ってを喜んでいたと言っていた。もしかしたら、アナスタシアはその事を知っているかも知れない。


「あの、ガングニールズ将軍って結婚するんですか?」

「するわね。一ヶ月後くらいかな」

「一ヶ月後!?」


 舞花は驚いて思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を両手で塞ぐ。

 一ヶ月後と言うのは舞花の想像よりだいぶ早い。驚く舞花に対してアナスタシアは嬉しそうに笑った。

 舞花はその笑顔を見てツキンと心が痛んだ。やっぱりガングニールズ将軍が家族歓迎の中で結婚するのは間違いないようだ。


「相手はどんな人ですか?」


 舞花の質問に、アナスタシアは上から下までこちらをジロジロと観察するように視線を動かした。プライベートな事を踏み込んで聞いて不躾な人だと思われたかも知れない。舞花はこの質問をしたことを少し後悔した。


「そうねぇ。肝は据わってるし頑張り屋なんだけど、だいぶ抜けているわ。歳は三十歳で黒髪黒目。この世界では少し顔立ちが幼くて、あの子の好みドンピシャよ」


 顎に指を当てて答えていくアナスタシアの言葉に、舞花は少なからずショックを受けた。

 もしかしたら同じ歳かも知れないとは思っていたが、本当に同じ歳だとは。きっと十代半ばで婚約したのだ。そして、その女性はガングニールズ将軍の好みど真ん中。一体あの厳つい男はどんな女性が好みなのだろう?


「そうなんですか……」


 受け答えする舞花の声は自然と暗くなる。

 俯きかけたところでパチンっと手を叩く音がして舞花は顔を上げた。舞花を見つめるアナスタシアはにっこりと微笑む。


「そういう事だから、今年の終戦十周年記念式典は特別なの。今も余興を考えてたの。ねえマイカ、楽しみでしょ?」

「えっと、そうですね」


 きらきらと目を輝かせるアナスタシアは本当に嬉しそうだ。でも、舞花は行きたいような行きたくないような微妙な思いだった。その余興と言うのも純粋に楽しみには出来ずにいる。


「マイカも着ていくドレスを作るわよ。もう二週間きってるから特別に私が魔法で作ってあげる」

「私は──」


 私はいいです、と言おうとしたら、アナスタシアの人差し指がスッと口元にきた。


「駄目よ。身内がみすぼらしいと私が恥をさらすことになるのよ。分かるでしょう?」


 微笑んでいるけど目が笑ってない。ドレスを着ない選択肢も、欠席する選択肢も舞花には無さそうだ。


「はい、わかりました」


 返事をしながら項垂れる舞花に対し、アナスタシアは途端に上機嫌になった。


「これなんか似合うと思うの。どう?」


 アナスタシアがパチンと指を鳴らすとそこに現れたのはいつぞやのドレスカタログだ。あのガングニールズ将軍に夜這いをかけたと舞花が勘違いされた日、アナスタシア達は式典用ドレスを選んでいたのだとようやく気づいた。


「どれでもいいです。ほんとに」


 ハートブレイクな舞花は今回もとてもドレスを選ぶ気分では無い。キョトンとした顔をしたアナスタシアは「じゃあ、私がえらんであげるわ」と俄然やる気を出し始めた。


 そして、舞花はそのあと一時間以上にわたってドレス選びに付き合わされたのだった。




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