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二十四 また明日から頑張るぞ!

 滅多に来られないような素敵な雰囲気の空間、しかも料理は大好きなイタリア料理。なのに、舞花の口から出るのは小さなため息ばかり。


 ──はぁ…


 目の前のテーブルクロスが掛かったテーブルの上に綺麗に盛り付けられたミラノ風カツレツが置かれている。まだ半分以上残った状態だけれど、フォークはなかなか進まない。テーブル脇の大きな窓の外には都心の夜景が宝石のように燦めいていた。


「料理はなかなか美味しいし、雰囲気もいいね。立食なら100人いけそうだし。フリードリンクのプランが二種類と、料理は一人三千五百~七千円まであるみたいだよ。どれにする?」


 菊池に話し掛けられて舞花はハッとした。


「あ、そうですね。いいと思います!」


 あわてて体裁を整えて笑顔で同意したが、心ここに非ずだったのはばればれだったようだ。そもそも質問と答えが噛み合っていないことに気付いていない時点でうわの空だったのは明らかだ。


 目の前の菊池は怪訝な顔をして少しだけ首を横に傾げる。


「日下さん、大丈夫?」

「大丈夫……です」


 そんな舞花を見て菊池は苦笑した。


「嘘でしょ? 大丈夫じゃ無いって顔に書いてある。今日は食事を終えたら早めに帰る? 話し合いはまた今度すればいいし」


 菊池の指摘に舞花は肩を竦めた。


「なんかすいません…」


 舞花はペコリと頭を下げて謝罪する。わざわざ時間を合わせてここに来ているのに、本当に申し訳ない。


「でも、私の仕事って不定休で次はいつ菊池さんとお休みを合わせられるかわからないんです」

「うーん、そっか。じゃあ、とりあえず今日はそのもやもやする気持は置いておいて、俺と楽しもうか?」

「なんか、本当にすみません」

「いいよいいよ。俺だって日下さんに酷いことしてるからおあいこ」


 菊池はそう言うと、飲みかけのワイングラスを持ち上げてニコッと笑った。


「とりあえず、気を取り直して乾杯!」

「はい。乾杯!」


 舞花と菊池のグラスが軽くカチンと軽やかに鳴る。こんなところで落ち込んでいても仕方が無い。舞花は気を取り直して菊池のもつパーティー用のメニューリストに目を落とした。


「ジェノベーゼはバジルが歯につきやすいし、ミートソースもパーティー用のお洋服が汚れちゃうから避けた方が良いと思うんです」

「そうだね。じゃあ、パスタはクリーム系でピザが多い方がいいかな」


 菊池はメニュー表を見ながら頷く。値段による違いは品数の差に現れているが、どの価格帯でもパスタとピザから3種類を選ぶと記載されている。

 

「そうですね。フリードリンクも色々種類がありますね。乾杯はシャンパンにしたいなぁ」


 舞花はメニュー表の裏をめくった。フリードリンクの価格は千五百円と二千円。二千円の方にすれば最初の一杯はシャンパンになると書かれていた。


「うーん。となるとこっちの高い方のフリードリンクだ。料理を五千円のにして、合計七千円でどう?全部で料理が八品+ウエディングケーキ+フリードリンク」


 菊池は再びメニュー表を表にして、五千円のメニューリストを指さした。


「そうですね。あんまり高すぎるとゲストに申し訳ないし、かと言って貧相なのもどうかと思うし。妥当だと思います!」

「よし。じゃあそうしよう」


 菊池は笑顔で頷くと、今決めた料理とドリンクを手持ちの紙にメモした。とりあえず、これで会場と料理は決まった。


「余興はどうする?」

「うーん、そうですねぇ。それぞれの友人に一つずつお願いして、後は紹介ムービーとか?」

「リレーメッセージもいいかも」

「あ、いいですね!」


 舞花はパッと顔を明るくして頷いた。友人達に一人ずつ祝福メッセージを貰えばきっと盛り上がる気がする。二人も喜んでくれるだろう。


「二人とも喜んでくれるといいですね」


 舞花が二人の晴れ姿を想像して笑顔で呟くと、「そうだね」と菊池も笑顔で頷いた。


 舞花と菊池の二人は、数日前に惟子と誠さんカップルに頼まれて結婚式の二次会の幹事をすることになった。

 菊池とはLiWeで事前に何回か相談して、今日はネットで調べて評判のよさそうなこのイタリアンレストランに下見を兼ねて一緒に食事に来たのだ。当の本人達からは『挙式会場から徒歩で行けること』というリクエスト以外は全て任せると言われている。


「日下さん、大丈夫?」


 とりあえずの仮予約をして店を出たところで、舞花は菊池に顔を覗き込まれて、「うん、平気」と頷いた。


 舞花は今日会って二人の関係が進んで話がややこしくなる前に、好きな人が居ると菊池にカミングアウトした。菊池は驚いて目を丸くしたが、実は…と言いにくそうに自分の話もし始めた。


「元カノさん、より戻してくれるといいですね」

「うーん、どうだろう。でも、当たって砕けてみるよ」


 菊池は自信なさげに眉尻を下げてぽりぽりと頬を掻いた。


 舞花の好きな人がいるという告白に対し、菊池は実はバーベキューの直前に元カノと別れたばかりなのだと告白してきた。仕事柄出張が多く、あまり彼女と会う時間が取れなかったため、怒った元カノと喧嘩別れのような形になってしまったと言う。そして、喧嘩別れしたもののまだ元カノに未練があり、舞花と親しくなれば気が紛れるかもと思ったとも。


「私は元カノさんとお会いしたことがないから想像でしかありませんけど」と舞花は前置きしてから話し始める。


「『会う時間が欲しい』ってそんなに怒るってことは、それだけ菊池さんと時間を過ごしたくって、好きだったってことじゃ無いですか?別れるつもりは向こうも無かったんじゃないかな?」

「そうだといいけど」


 菊池はまた自信なさげな表情をすると、小さく微笑んだ。


「そうですよ」と舞花は力強く頷く。「でも、今日はそのもやもやする気持は置いといて、とりあえず私と楽しみましょうか?」


 先ほどとは逆のお誘いに、菊池は目を見開く。舞花はしてやったりとニンマリ笑った。


「○×横丁って知ってます? ここから近いので行ってみたいんです」

「ああ。あの人気のドラマで時々出てたとこ?」

「はい。私、一度も行ったこと無くって」


「いいね、行こうか。今日は飲んで、心配ごとは忘れて、明日からお互い頑張ろう」


 菊池も舞花のお誘いにニヤッと笑う。「やったぁ!」と舞花は菊池にハイタッチした。


 今日は飲んで、ガングニールズ将軍のことは忘れて、明日からまた頑張ろう。



そして一夜の過ち・・・にはなっていないのでご安心を。

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