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第5章ー8

 少し幕間めいた話になります。

 ノルウェーのベルゲン港には、大量の物資が陸揚げされていた。

「これだけの物資が必要とは何事だろうな」

「知らない方がいいことのような気がするな」

 物資の陸揚げを手伝うために、急きょ雇われたノルウェー人の人夫達は、つい声を潜めて話をする羽目になっていた。

 その物資の大半に日本語の記載があった。


「時代は変わるか」

 田中頼三大佐は、第16駆逐隊司令として、ベルゲンへの物資輸送を行う輸送船団の護衛を無事に遂行し、ベルゲン港に停泊して物資の陸揚げを見ながら、旗艦「雪風」の艦橋でそう呟いていた。

 田中大佐としては、独ソの潜水艦狩りを積極的に行えない輸送船団の護衛任務というのは、本音としては不満が無きにしもあらずで、実際に1隻も独ソの潜水艦を沈めることなくベルゲンにまでたどり着くことになったのだったが、今は無傷で輸送船団の護衛を完遂できたのを田中大佐としては喜ぶべきだった。

 ちなみに、田中大佐が、そんなことを想うのも無理はなかった。


 20年余り前の(第一次)世界大戦時、日本製の兵器はほとんど欧州には無かった。

「我が日本海軍の軍艦を除けば、38式歩兵銃だけしか日本製の兵器は欧州には無い」

 という冗談が、半ば冗談では無かったのが現実だった。

 38式歩兵銃以外の陸上兵器、大砲や戦車等々、それから軍用機、それに必要な部品や弾薬等々、全て英仏米から日本の海兵隊、航空隊は有償、無償で供給を受けた。

 軍艦にしても、それに装備する対潜用の兵器、聴音機、爆雷等々は英海軍から供給を受ける有様だった。

 それが今や。


 今、ベルゲン港に陸揚げされているのは、ノルウェーで零式艦上戦闘機を運用するのに必要な様々な補給物資だった。

 他の欧州に赴いている日本軍の兵器にしても、全て基本的には日本製だった。

(兵器の一部、例えば、99式艦上爆撃機のエンジンが英国原産のマーリンエンジンをライセンス生産したもので純日本製ではない、というツッコミが出てくるのは事実だが。)

 更にポーランド空軍にまで零式艦上戦闘機は供給され、しかも喜んで受け取られている。

 第一次世界大戦時に欧州に赴いて実戦の洗礼を受けた田中大佐にしてみれば、ここまで日本の兵器が進歩して、しかも大量生産されるとは、と感無量の想いがしてならなかったのだ。


 さて、何故に田中大佐が、ベルゲン港にまで赴いているのか?


「物資の揚陸は順調です。我が日本海軍航空隊に加え、ポーランド空軍の部隊も順調に展開できる予定です。問題なく、ノルウェーは独本土爆撃の前進拠点として活躍できそうですな」

「いい話だ。これで完全に対独戦の状況は変わるな」

 雪風艦長の田口正一中佐の言葉に、田中大佐は表情を綻ばせた。


 敵と戦うのに正面からのみ戦う必要は無い。

 側面、後方からも敵を攻撃するのは兵法の常識である。


 ノルウェーに大量の戦闘機、零式艦上戦闘機部隊を展開することで、独本土への大規模な戦略爆撃を支援しようと英仏米日等の連合国軍上層部は考え、そのために大量の物資等がノルウェーのベルゲン港に揚陸されることになり、その物資をノルウェーのベルゲン港に運び込むための輸送船団の護衛に、田中大佐が率いる第16駆逐隊等が駆り出された、という次第だった。


「物資の揚陸が完了したら、荷物を積むことにもなっていたな」

「ええ、ノルウェー産の物資輸送も、ノルウェー政府から委託されています」

「仕方のない話だが。本当に立っている者は親でも使え、という話みたいだな」

「これだけの護衛艦隊が付いている輸送船団ですからね。空荷で帰らせてくれませんよ」

「仕方ない。協力するしかないな」

 田中大佐と田口中佐は、笑いながら、微妙に緩んだ会話を交わすことになった。

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