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第5章ー6

 そういった思惑があったことから、1940年9月に日本本土から駆け付けてきた日本海軍航空隊の編制はある意味で、驚愕に値するものになっていた。


「日本本土から送り込まれた軍用機の多くが戦闘機、零式艦上戦闘機といっても過言ではないのか」

 源田実中佐(1940年9月1日付をもって少佐から昇進)は、驚きの余り、第一報を聞いた瞬間に叫んでしまう羽目になった。

 空母「伊勢」等を使って運び込まれた日本海軍航空隊、全部で500機近くの内、その8割以上、約400機が零式艦上戦闘機だったのだ。

 これには理由があった。


 独本土に対する戦略爆撃を行う以上、戦略爆撃を行う重爆撃機の部隊に戦闘機の護衛は必要不可欠である。

 そして、1940年秋当時、独本土への戦略爆撃を行うだけの航続距離を持った単発単座戦闘機は、事実上は零式艦上戦闘機しかないという現実があったからだった。


 勿論、双発戦闘機等、単発単座に拘らねば、フランスのポテ631戦闘機等でも、重爆撃機の護衛が出来ないことは無い。

 だが、そのような戦闘機が、実際に独空軍の単発単座戦闘機Bf109と互角に渡り合えるか、というと現実には困難であるという問題が付きまとっていたのだ。

 そして、1940年秋当時、Bf109(当時の主力はいわゆるE型で、火力等に様々な問題を抱えていた型式でもあった。)と互角以上に渡りあえ、それなりの航続距離を有する戦闘機というと、英仏米日等の戦闘機の中では、零式艦上戦闘機が最優秀というのが、連合国側の空軍関係者の衆目の一致するところであった。


 そういった事情から、連合国の空軍(厳密に言うと米国には空軍は無いので、陸軍航空隊)上層部が協議した結果、零式艦上戦闘機が大量に欧州に送り込まれるという事態になったのである。

「しかし、これだけの機材があっても、戦闘機の搭乗員は足りるのかね」

 源田中佐は、疑問を当初は覚えたが、その点に抜かりはなかった。


「こいつは良い戦闘機だ。喜んで提供を受けますよ」

 スタニスワフ・スカルスキは、一度、零式艦上戦闘機に乗っただけで、気に入ってしまった。

 他のポーランド空軍の戦闘機乗りも大同小異の反応を示した。


 第二次世界大戦当初の独ソ両国のポーランド侵攻を受けて、命辛々、ポーランドを脱出し、フランスにたどり着いていたポーランド空軍の戦闘機乗りの多くにとって、髀肉の嘆をかこつ日々が続いていた。

 英仏両国の最新鋭戦闘機は、当然のことながら、英仏両国の空軍に最優先で供給される。

 米国も戦闘機の量産を開始はしていたのだが、長年の軍縮の影響がまだ1940年秋の時点では完全には抜けきっておらず、P-40Eが最新鋭戦闘機で、これを各国に提供する有様だった。

 P-40Eは、決して悪い戦闘機ではなく、一部の戦闘機乗り(英仏等も含めた)からも、良い戦闘機だったという回想が遺されているが、やはり、英空軍の誇るスピットファイア戦闘機や日本の零式艦上戦闘機(99式戦闘機)と比較すると、今少し見劣りするというのが現実だった。


 こういった状況から、他に選びようがないから、ということでP-40E戦闘機の提供を受けていたポーランド空軍の戦闘機乗りの前に零式艦上戦闘機が提供されたのである。

 勿論、零式艦上戦闘機の場合、マニュアル等が日本語という問題がある等、それなり以上の問題がある。

 しかし、独ソ両国の空軍と戦うのには少しでも優秀な戦闘機が欲しい、と熱望していたポーランド空軍の戦闘機乗りにしてみれば、零式艦上戦闘機の提供は渡りに船どころの話ではなかった。

 かくして、戦闘機搭乗員が不足していた日本海軍航空隊と戦闘機が不足していたポーランド空軍の利害は一致した。

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