第5章ー5
そういった人事の大異動はあったが、英仏米日等の連合軍にしてみれば、基本的な対独反攻作戦の方針は既に定まっているも同然だった。
英仏軍の主力は、ベルギー、オランダを救援し、いわゆるベネルクス三国を独軍の手から解放する。
日米及びポーランド軍は、助攻として、ライン河渡河作戦を試みる、という基本方針だった。
これには、幾つかの事情が絡んでいた。
まず、ベルギー、オランダ両国政府から国土解放に協力してほしい、との要請が、英仏米日等の政府、軍に対して頻繁に行われていることである。
こういった状況を放置して、英仏米日等の政府、軍が、独本土侵攻を優先するというのは、第二次世界大戦後にオランダ、ベルギー両国政府と英仏米日等の政府の間に微妙な関係を産むことになりかねなかった。
かと言って、正直にオランダ、ベルギーの国土解放のみを英仏米日等の軍が目指しては、独軍の対応を容易にするだけである。
それに、既にかなりの英仏軍の部隊がオランダ、ベルギー方面に展開している一方で、ポーランド軍や日本海兵隊は、独本土に刃を向けようとしている。
こういったことから、英仏軍の主力はオランダ、ベルギーの解放を目指すことになった。
また、米国本土から駆け付けた米陸軍も協力の上で、日本海兵隊やポーランド軍は独本土侵攻を計画することになったのである。
(細かいことを言えば、独本土侵攻作戦には、英仏軍の一部も協力している。
政治的に独本土侵攻作戦の先鋒を、米日ポーランド軍のみが担う訳にはいかないという事情があった。)
そして、そのために各国の軍司令部は、共同して対独反攻作戦立案に励むことになっていた。
石原莞爾中将は、ポーランド軍のレヴィンスキー将軍や米軍のアイゼンハワー将軍と協同して、独本土侵攻作戦を立案していた。
石原中将の見るところ、自分とレヴィンスキー将軍とアイゼンハワー将軍は、お互いに補えあえる関係のように見受けられた。
石原中将の見るところ、アイゼンハワー将軍は人格者であり、それこそ欧州戦線における英仏米日等全ての連合国軍の総司令官が将来的には務まるのではないか、という人物だった。
そして、レヴィンスキー将軍は作戦家として著名であり、自分と協同して作戦を立案できるし、万が一対立する事態が起きても、アイゼンハワー将軍が仲裁してくれる。
そして、日本海兵隊とポーランド軍はお互いに自らの欠点を補えあえる存在だし、それに増援として駆けつけた米軍も加わるのだ。
日本海兵隊の海兵師団は、優秀な戦車を保有し、自動車化も果たしており、それこそ機甲師団に準じる存在だと呼号できるほどだった。
だが、僅か6個師団しか兵力は無く、最前線に単独で投入されては、あっという間に損耗してしまう。
一方、ポーランド軍は20個師団を数えているが、純然たる徒歩歩兵師団がほとんどであり、機動力に欠けていた。
こうしたことから、日本海兵隊とポーランド軍はお互いに欠点を補えあえる存在だったのである。
もっとも、6個師団では機動力が足りないという気もするが、米本国から駆け付けた自動車化された米8個歩兵師団がこれに加わる。
米軍は、まだまだ実戦経験に乏しいので、いきなり最前線に投入するというのは無謀だろうが、独軍の戦線を突破した後の追撃部隊として投入することは可能だろう。
(というか、可能になっていてくれねば困る。)
そして、これらの部隊の年内の目標は。
「言うまでもない。ライン河を渡河して、独本土への本格的な侵攻を果たすことだ」
石原中将はそう考えていた。
「だが、その前に戦略爆撃で独の国力を削がないとな。そうしないと独軍の巧みな防衛により我々の侵攻作戦は失敗に終わるだろう」
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